“まちの保健室に” フェムケアや性をテーマに「ffirm」を展開する姉妹の想い。

最近よく耳にする「フェムケア」「フェムテック」という言葉の意味、ご存じでしょうか。

フィメール(女性)とケア(手入れ、心遣い)を掛け合わせた造語「フェムケア」は、生理、妊娠、不妊、更年期といった女性の健康や身体のケアに対するアプローチを指し、中でも最新のテクノロジー(技術)を使ったプロダクトで解決を図るものを「フェムテック」といいます。

これらは、女性向けのものと思われがちで、センシティブな話題を取り上げたときに、様々な意見があるのも事実。BONNOの企画会議でも男性からこんな声があがりました。

「よく分からないことが多いけれど、正直知りたいと思っていても聞いていいことなのかも分からない」
こんな風に感じている男性が、意外と多いのかも知れません。

悩みは人によって違うため、同性であってもなかなか相談しづらいもの。
それらの「性の健康」に関する様々なお悩みや疑問を、気軽に相談できる場所が金沢にできました。

自分に合った選択肢を見つけるお手伝いがしたい。

ここは金沢市石引にある築50年の昭和レトロな建物『山岸薬局ビルヂング』の一角。ものづくりに関わる人たちの開けた場所にしたいというオーナーの意向で貸し出されています。

性に関してのできごとをもっと楽しむために、事前のケアや多くの選択肢を、健康的でより安全な方法で届けたいと立ち上がった『ffirm』。

現在はこの『山岸薬局ビルヂング』の1階で不定期にポップアップショップを開催している他、コンテンツプラットフォーム「note」にて自分たちの想いを発信しています。

今回はこのプロジェクトを企画するおふたりに、お話しを伺いました。

姉の小塩 啓さん(左)と、妹の小塩 悠さん(右)。

店頭に立って接客を担当する小塩 啓さんと、企画やビジュアルデザインなどのディレクションを担当している小塩 悠さん。姉妹でこの活動を行っています。

ーーまずは、啓さんにショップや商品について伺いたいと思います。お店ではどんなものを販売されているんですか?

啓さん:オーガニックコットンを使用した生理用ナプキンに、デリケートゾーン用のオイルやソープ、性交痛を軽減させるためのアイテムなど女性の身体のことを考えてつくられた商品を取り扱っています。基本的には私が自分で使っていいと思ったものが多いです。商品数は多くないですが、一般に広く使用されているものではなく、新しい選択肢を知っていただけるようなラインナップにしています。

ーー性についての悩みは人によって違うので、商品の提案も難しいのでは。

啓さん:そうですね。悩みも人それぞれですし、その方に合うものが何かを見極めるのはとても難しいので、あくまでもいろんな選択肢を知ってもらうことが目的です。なので、うちで取り扱っている商品じゃないものをお客様にお伝えすることもよくありますよ。

ーー実際に、どんな女性のお悩みが聞こえますか?

啓さん:みなさん本当に様々です。例えば生理だけみても、身体的、精神的不調を表すPMSを始め、かゆみや匂い、周期の乱れといったもの。妊娠や不妊の悩みでは、身体以外に社会的な負担を感じる方もいらっしゃいます。年齢によっては更年期の症状も大きな悩みの種ですよね。

ーーもしよければ私の悩みも聞いてもらえますか?

啓さん:ぜひ!話したくないことを無理に話すことはしなくていいと思いますけど、話すことで気持ちが軽くなることもあるかもしれないので。

ーー私は若い頃から生理痛が重いタイプなんです。今までは鎮痛剤を服用しながらうまく付き合っていたのですが、最近出産をしてからは、育児をしながら薬を飲むタイミングがうまくとれなくなってしまって今は薬を飲む前に痛みを軽減できる習慣を探しているのですが、何がいいのかよく分からなくなっています。

啓さん:状況によっても悩みは変わってきますよね。私たちは“治療”はできないので、痛みに関しては、まず病院での受診を最優先にお伝えします。それ以外で、一般的に生理痛を緩和するための方法として子宮を温めることがありますが、その選択肢のひとつとしていくつかのアイテムをご提案しています。

啓さん:例えば、生理用品を何にするかですが、吸水ショーツや月経カップなど今はいろんな生理用品が登場していますよね。育児中だとすると、なるべく手間がかからないものがいいかと思いますが、私は大雑把なので洗濯がネックの吸水ショーツは性に合わなくて、いつもこの使い捨てのナプキンを使っています。

sisi FILLE オーガニックコットンサニタリーパッド 660円~

ーードラッグストアで売っているものとの違いは何ですか?

啓さん:一般的なナプキンは安価で種類も豊富なので、使い勝手が良いメリットがあります。ただ、多くのナプキンは化学繊維を使用しているため、コットンで作られたより保温性に優れたナプキンを使用することで、温かさを感じながら生理期間をすごせると思いますよ。オーガニックのコットンを使っているので、デリケートゾーンに触れるものとしても安心です。

プライベートパーツウォーマー 1,400円

啓さん:また、こちらは生理ではない日につける、デリケートゾーン用のオーガニックコットンウォーマーです。おりものシートの化学繊維、下着の化学繊維も同じく冷えにつながるので、直接触れないように下着と肌の間にこれを一枚挟んで使います。

ーー生理用品じゃなかったんですね。

啓さん:実はこれ、母が私のためにつくってくれていたものを商品化したアイテムなんです。これをつけるだけで本当に身体が温かくなるので、夏に外に出る時などはコットンのショーツを着るように心がけるだけでもいいと思いますよ。

ーーナプキンや下着の繊維から冷えてしまうとは思いませんでした!こうやって新しいアイテムを知ると、次の生理がなんだか待ち遠しくなります。

啓さん:お客様からそう言っていただくことも多いです。少しでもポジティブな気持ちになってもらえたらありがたいですね。男性のお客様が話を聞いてパートナーのために買っていかれることも多いんですよ。

ーー男性が!素敵なやりとりですね!最近は生理用品の種類が多くて迷っている方もいると思うのでプレゼントしても良いですね。

啓さん:何を選択するかとても多様化していますよね。環境に配慮したものや、よりナチュラルなものを選ばれている方もたくさんいます。ただ生理用品ひとつとっても、その人の体質や性格、生活スタイル、経済状況などいろんなものが絡んで選択することなので、他人にとやかく言われることでは絶対にないですし、ましてや自分を責めることはしなくていいんだよ、というスタンスでご提案するようにはしています。身体にも心にもストレスフリーな選択を見つけてもらえたら嬉しいです。

性について「みんなで考える場所」でありたい。

ーーここからは妹の悠さんも一緒に、『ffirm』のプロジェクトに対する想いを聞いていきます。ロゴデザインやSNSの投稿などビジュアルづくりは悠さんが担当しているんですよね。

悠さん:はい、私が担当しています。発信していくものは、いやらしさのない雰囲気にしたいと思っているので、ヘルシーなカラーやスタイリッシュなイメージで、ビジュアルは健康的な雰囲気を心がけています。

ーーかわいいデザインですね。

悠さん:ロゴには、妊婦さんやハグしている人たち、中にはプライベートパーツのシルエットなども隠れているのですが、そういったいろんな要素を含んだロゴにすることで性に対することをひとりで考えるのではなくて、皆で考えていくものにしたいという想いを込めました。

ーーそもそも、なぜふたりはこのような活動をしようと思ったんですか?

啓さん:きっかけは私が不妊症と診断されたことと、それに伴って様々な性に対する悩みを抱えたことです。苦しんだし、辛いことがたくさんあったのですが、この出来事を経験だけで終わらせたくないと強く思いました。

ーーなるほど。

啓さん:自分でいろんなことを調べたり、試したりもしていたので、まだ勉強中ではありますが医療とはまた違ったベクトルで性の健康について発信していけたらと思ったのも一つの要因です。

ーー性についての話はセンシティブな部分もあると思いますが、そういった会話は普段からオープンなご家庭だったんですか?

悠さん:そんなことないですよ。今でも恥ずかしいと思うことはたくさんあります。この間も性についてのラジオを母と3人で聴いていて、私は気まずいなぁと思っていましたし(笑)ただ、母はいろんなことをくみ取ってくれる人なので、段々と性についての会話も増えてきました。母は60代なのですが、そういった会話をして、母が更年期で悩んでいることを初めて知ったんです。

啓さん:私はもともと母と一緒にこのデリケートゾーン用のオイルを使い始めたんです。それからは、母と性についてよく話すようになりましたね。こういうアイテムが間に入ることで、会話をするきっかけになっていったような気がします。

chururi オーガニックカレンデュラハーバルオイル 7,260円。啓さんはこのオイルでデリケートゾーンを日々マッサージすることで、身体の不調を敏感に感じるようになったとか。

ーーオンライン上ではnoteでも性についての考えを発信していますよね。

悠さん:姉の伝えたいことを私が聞いて、会話形式で伝えられるようなコラムを書いています。 今後はお店に来るのを躊躇っていらっしゃる方や異性の方に向けた発信をする場として活用していきたいです。

ffirmのnoteはこちら

ーーお店はオンラインショップではなく対面販売という形をとったのはなぜですか?

啓さん:私たちが目指しているのは、お店というよりも「まちの保健室」。悩みやつらいことがあったときに、ふらっと寄って気軽に話をしたり、愚痴を吐いたりできるような場所でありたいと思っています。 だからこそ、お客様がどんな表情で、どんな声色で話すのか、自分の目でみることができる対面でのやりとりにこだわりたいんです。

啓さん:ここ石引は学生街でもあるので、若い女の子たちが学校帰りに立ち寄っておしゃべりができるくらいのフランクで安心できる場所になったら嬉しいですね。

ーー今後はどういった活動を予定していますか?

悠さん:いろんなことを企画しているのですが、直近では9月下旬に初めてイベントを行いたいと思っています。今回は性や身体をつくる食にまつわるイベントで、石引で行いたいと思いますので、最新情報はインスタグラムをご覧ください。

セルフプレジャーや性交痛軽減など性生活を豊かにするアイテムも取り扱っている。子どもが来店した際は、店頭に並べない配慮もされるので、気になる方もご安心を。

今回は性の健康にまつわる様々な提案をされている『ffirm』のおふたりに話しを伺いました。

この場所では性の用語も当たり前のトーンで会話の中で出てくるため、性についての会話は「センシティブなこと」「恥ずかしいこと」「隠れて話さなきゃならないこと」という意識がほとんどありません。その雰囲気がとても心地良くて、人間らしい空間だと感じました。
普段わざわざ人に話さないことも、言葉にすることでなんだかすっきり。
こういった場が金沢にあることを、悩める多くの方々に知ってもらいたいと思います。

ffirm(ファーム)
問.Instagram @ffirm.kanazawa DMにて

※こちらの情報は取材時点のものです。

(取材・文/西川李央、撮影/林 賢一郎)

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