「収入300万円以下の副業は雑所得」で注目のパブコメ、実際に施行されるまでの期間は?

2022年8月1日に国税庁が、「『所得税基本通達の制定について』(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)」についてのパブリック・コメント(パブコメ)の募集を開始しました。この改正案では、これまで「事業所得」とされていた年間300万円以下の副業などによる収入の所得区分を、「雑所得」として取り扱うとされています。

これに伴い、青色申告や損益通算などができなくなるため、副業をしている会社員の方が支払う税金が多くなると考えられることから、注目を集めています。この改正案への意見をパブコメとして送れば、反映される可能性はあるのでしょうか? そもそもパブコメとはどんな制度なのか、立教大学法学部の原田久教授に聞きました。

原田 久(はらだ・ひさし)
立教大学法学部教授。1966年、福岡県北九州市生まれ。九州大学大学院法学研究科博士課程修了、博士(法学)。行政学を専攻し、著書に『広範囲応答型の官僚制』(信山社)、『行政学』(法律文化社)など。2022年度より日本行政学会理事長。


そもそも「パブリック・コメント」はどんな制度なのか

−−パブリック・コメントとは、どのような制度なのでしょうか?
パブリック・コメント(手続)とは、正式には「意見公募手続」といい、行政手続法という法律に詳細が定められています。具体的には、法律に基づく政省令等(細かなルール)を定めるにあたって、案をあらかじめ示した上で広く国民や事業者・利害関係者等から修正の意見を募るものです。しばしば誤解されますが、案の賛否を求めるものではありません。

意見を受け取った府省は当該意見を「十分に考慮しなければならない」(行政手続法第42条)とされています。パブコメの内容を受けて、原案の大幅な修正がなされる場合もあれば、修正が全くなされない場合もあります。意見が出された場合の原案修正率は年度によって異なりますが20%前後です。

パブコメが「国のルール」に反映されるまでの流れ

−−採⽤されるまで、どのようなフローを経ているのでしょうか?
パブコメが集められてから、結果が公示されるまでのフローの詳細は総務省行政管理局が定めています。一般的には、e-gov(電子政府の総合窓口)にて意見募集が行われ、締切後、省内の審議を経て結果公示がなされるという形が多くなっています。

−−制度が施⾏されるまでどのくらいの期間を要するのでしょうか?
パプコメは通常、30日以上の公募期間がおかれます。そして、意見提出期間の終了から政省令等を公布するまでの期間は、提出された意見の多寡によって2~14日と定められています。現在、年間1,000件以上のパブリック・コメント手続きが行われており、国民などの意見を踏まえて政省令等が(場合によっては修正がなされた上で)施行されています。

−−パブコメから政省令等が施行された事例はあるのでしょうか?
国税庁関係ですと、「『所得税基本通達の制定について』(法令解釈通達)の一部改正(案)(非常勤の消防団員が支給を受ける報酬)に対する意見公募」において、パブコメ手続を通じて提出された意見により、原案が修正されています。

−−最後に今回のパブコメが採⽤された場合、いつ頃に施⾏されるのでしょうか?
国税庁の資料によると「令和4年分以降の所得税について適用」と記載があります。そのため、遅くとも来年の所得税申告時には適用されるということになります。

副業に取り組む会社員は今後の動向に注目

前述したように、この改正案が施行されると、副業を事業として申告してきた会社員などにとっては、税負担が増える可能性があります。

来年の所得税時から適用されるとなれば、2022年内の副業の売上や経費の使い方など、考慮すべき事項も増えると予想されます。パブコメが改正案にどのような影響を及ぼすのか……副業を検討していたり、すでに取り組んでいる会社員の方々は要注目です。

なお、募集期間は8月31日(水)23時59分までです。

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