ミシュラン、約8年のフォーミュラE活動を終了。サプライヤーとして技術革新と市販製品へのフィードバックを報告

 世界選手権へと成長した世界初のフル電動フォーミュラーカーシリーズ、ABB FIAフォーミュラE世界選手権のシリーズ創設パートナーとして、8シーズンにわたって公式タイヤサプライヤーを務めてきたミシュラン。2021/2022年の“シーズン8”を最後にその役を退いたフランスのタイヤメーカーは、モータースポーツの研究・開発能力と経験を活かし、多様で過酷な条件下で技術革新を進め、それを実証してきた。

 ミシュランが、フォーミュラEに使用される専用レースタイヤ『ミシュラン・パイロットスポーツEV』を独自開発したのは2014年のこと。このタイヤはレーシングタイヤでありながら市販タイヤと同様に、溝が掘られたトレッドを備えていた。

 これはミシュランが持つ明確な技術的にビジョンに基づいたものであり、同社は市販用タイヤへの技術的フィードバックを見据えながら、路面コンディションへの適応性や耐摩耗性という観点でその限界を押し広げいった。実際に、ミシュランはレース用タイヤと同じトレッドパターンを持つ高性能市販タイヤ『パイロットスポーツ4』を2015年に製品化。コンセプトから量産品の発売に掛かった期間がわずか1年というのは、技術転用するうえできわめて異例の早さだ。

 一方、レース用タイヤの開発も引き続き行われ、2016/2017年シーズンに先立って発表された『パイロットスポーツEV2』では、転がり抵抗地が従来比約16%向上した。

 また、いわゆる“Gen2”マシンが導入された2018/19年に向けては、第3世代のタイヤを開発。このモデルではタイヤの自重に焦点が当てられ、1本あたり2.5kg、車両1台あたりではフロントタイヤ1本分に相当する10kgの軽量化を実現させた。さらに、このシーズンの第2戦モロッコE-Prixでは、前年の同大会と比較してラップタイムが3秒速くなったことが確認された。

 これらの技術的進歩は、前述のとおり市販車用タイヤの開発においても有効活用されている。

 ミシュランは現在、中~大型の電気自動車と電動スポーツカーをターゲットにしたふたつのタイヤレンジを業界に提供する唯一のメーカーとなっているが、より安全で、軽くエネルギー効率の高い新世代の市販用タイヤは、その差別化された品質・技術ともにフォーミュラEからのフィードバックによるものといえるだろう。

 ミシュランは、モータースポーツでの活動を新しい持続可能なソリューションの開発と、それをスピードアップさせる場として欠かせないものとして認識している。

2014/2015年フォーミュラE開幕戦北京ePrix ルーカス・ディ・グラッシ(アウディスポーツ・アプト・フォーミュラEチーム)

■モータースポーツへの関与が、極限の世界だけが供給できるスキルと専門知識を習得することを可能にする

「モータースポーツはミシュラングループが革新し、新しいアイデアを試し、得た知識を学び共有すると同時に、驚異的な速さで極限の条件下において新技術を評価・実証することを可能にする。また、持続可能で低炭素モビリティに向けた野心的でソリューションを模索するパートナーや自動車メーカーとの相互作用において不可欠な役割を果たしている」と語るのは、ミシュラン・モータースポーツ統括ダイレクターであるマシュー・ボナルデル。

「ミシュランのモータースポーツへの関与は、同じ課題に直面しているメーカーやパートナーと協力することで、この極限の世界だけが供給できる特定のスキルと専門知識を習得することを可能にする」

「ミシュラン・パイロットスポーツEVは、モータースポーツが技術開発とその転用を促進し、市販用タイヤの開発を加速させた実例だ。このような進歩を優先することで、ミシュラン・モータースポーツはグループの『Everything Sustainable Plan』に掲げられた目標の達成に実質的な貢献をし、タイヤ業界においても価値ある優位性を築くことができるのだ」

 ミシュランはシーズン8をもってフォーミュラEから退くが、今後もモータースポーツがタイヤ開発における最先端の実験室であることに変わりはないとしている。彼らの目標は2050年までに持続可能な素材だけでタイヤを製造すること。2030年までにその使用率を40%とする中間目標を掲げている。

 なお、フォーミュラEは2022/23年のシーズン9から新型マシン“Gen3”を導入するとともに、初年度から電動フォーミュラを支え続けたミシュランに替わって、韓国のハンコックタイヤを公式タイヤサプライヤーに迎えることになっている。

フォーミュラEのレースに用いられるミシュラン・パイロットスポーツEV(左)と市販車用のパイロットスポーツEV(右)
ミシュランは2021/2022年“シーズン8”の閉幕をもって公式タイヤサプライヤーの役目を終えた。 マキシミリアン・ギュンター(ニッサン・e.ダムス)

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