<社説>コロナ全数把握見直し 現場の負担増なら論外だ

 政府は新型コロナウイルス感染者の全数把握を見直し、発生届を高齢者らに限定する運用を9月にも全国一律で実施する考えだ。ただ自治体ごとの事情があり、負担増も懸念され混乱が広がっている。 政府は今後、感染状況の把握をどのようにしていくのか、長期的な方針を含めてコロナ政策について具体的に説明する必要がある。

 全数把握を見直すかは、当初は都道府県ごとの個別の判断とする方向だったが、全国一律の見直しに転じ、これも自治体を戸惑わせた。

 新型コロナは感染症法に基づく措置に加え、より厳しい対策が実施されている。中でも自治体から見直しを求める声が強かったのが感染者の全数報告だった。

 全数把握は感染者の氏名や生年月日を政府の情報共有システム「HER-SYS(ハーシス)」に入力する必要がある。流行「第7波」の拡大で現場の負担が増す一因になっているとして自治体から見直しを求める声が上がった。

 ただ、沖縄の実情は異なる。医療の現場には発生届業務の負担感はあるものの、効率化などによって逼迫(ひっぱく)はしていない。県の専門家会議では、全数把握を見直し、届け出を高齢者らに限定することのデメリットも指摘された。

 新規感染者の約8割が届け出対象外となり、行動自粛が浸透せず、流行拡大につながる懸念や、県が入院調整に関与できなくなり、医療機関の

負担が増すことへの不安感だ。

 見直しで負担が増せば、そもそも見直しの意味がない。これらの懸念は沖縄に限ったものではない。

 自治体の要請を受けた全数把握見直しだったが、当初は判断を都道府県任せとしたこともあり「コントロールが利かなくなり感染拡大を招きかねない」(宮崎県の河野俊嗣知事)、「新たな事務負担が大きくなる可能性もある」(大阪府の吉村洋文知事)と慎重姿勢が広がった。運用見直し開始に合わせるため29日に申請したのは4県にとどまった。

 感染状況をどのように把握してコロナとの共存を目指すのか、政府は具体的に示せていない。批判を取り入れながら政策の方向性を変えていくことは否定はしない。ただ、説明を尽くさないままでは混乱を招くのは当然だろう。

 自治体で対応が異なる期間、統計をどう取り扱うのか。定点調査に移行する考えもあるが、新規感染者の総数は把握できなくなる。軽傷者も後遺症になり得るとの専門家の指摘もあり、疑問は尽きない。

 岸田文雄首相は「全国一律実施を基本に考えている」とかたくなだが、疑問にしっかりと向き合ってもらいたい。

 政権が「ウィズコロナ」を打ち出しつつ、内閣支持率の下落もあって総合的な対策緩和に踏み込めずに迷走したとの指摘もある。政権浮揚の思惑で、感染症に対する政策が付け焼き刃になることはあってはならない。

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