ウトロ放火事件判決 求刑通りの懲役4年だが、ヘイトクライム判断避ける

在日コリアンが多く暮らす京都府宇治市のウトロ地区の家屋に火をつけたとして非現住建造物放火などの罪に問われた奈良県桜井市の無職、有本匠吾被告(23)に対し、京都地裁(増田啓祐裁判長)は「偏見や嫌悪感による犯行で、民主主義社会において到底、許容できない」として求刑どおり懲役4年を言い渡した。(新聞うずみ火 矢野宏)

有本被告は、ウトロ地区の空き家に火をつけて木造家屋など7棟を全半焼させたほか、1カ月前には、名古屋市の在日本大韓民国民団(民団)愛知県地方本部と隣接する韓国学校の建物の一部に火をつけたとして、放火や器物損壊などの罪に問われた。

ウトロ地区では、今年4月に開館した「ウトロ平和祈念館」に展示予定だった立て看板など約40点の資料が焼失した。これまでの裁判で有本被告は「韓国人に敵対感情があった。展示品を使えなくすることで、祈念館の開館を阻止する狙いがあった」などと述べていた。

この日、増田裁判長は「在日韓国・朝鮮人という特定の出自を持つ人への偏見や嫌悪感による身勝手で独善的な動機だ」と指摘し、「反省が深まっているようにはうかがえない」として、求刑どおり懲役4年を言い渡した。

ウトロ放火事件の判決公判の傍聴券を求めて並ぶ市民ら=8月30日、京都地裁前

判決のあと、ウトロ地区の住民が弁護団とともに記者会見を開いた。

「ウトロ平和祈念館」副館長の金秀煥(キム・スファン)さんは「実験判決が言い渡されたことで正直ほっとしました。単なる空き家への放火だけでなく、憎悪に基づく犯罪と認められた。検察よりも踏み込んだ判決内容で、差別のない社会に向けて、一歩ずつ進んでいると住民たちに伝えたい」と話した。

一般財団法人ウトロ民間基金財団理事長の郭辰雄(カク・チヌン)さんは「検察側は動機について『悪感情による嫌悪』という個人的な問題と主張したが、判決では『偏見』との表現を使った。一歩前進と言えるが、差別による悪質な犯罪行為であることには言及しなかったことが残念だ」

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同席した民団愛知県地方本部事務局長の趙鉄男(チョウ・チョルナム)さんは「求刑通り、懲役4年の実刑判決で、我々の声が届いたのかなとの印象がある。ヘントクライムは許さないとの言葉を期待したが、日本では法整備されていないので、規制する法律ができるように運動していきたい」と述べた。

記者らの質問に答えるウトロ関係者と弁護団=8月30日、京都市中京区の京都弁護士会館

一方、被害者弁護団長の豊福誠二弁護士は「懲役4年の求刑通り、裁判長もこの事件を重く見ていることがわかる」と評価しながらも、「差別は憲法や条約などでも禁止されていることであり、嫌悪感とは違う。人種差別は危険だと、裁判所にもっと踏み込んでほしかった」と批判した。

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