「医師と患者というより山好きの仲間みたい」富士山“雲の上の診療所”で登山客を見守る医師

登山客でにぎわう富士山ですが、この夏はけがをしたり、体調を崩す人も相次いでいます。標高3000mを超える診療所“雲の上の診療所”を守る女性医師を追いました。

<診察の様子>

「これが体の中の酸素の量。今69。今71まで来たが、平地だと100とか98ある」

「90以上ないとまずい」

「これは苦しいですよね」

登山中、体が苦しくなったという男性を診察しているのは「富士山衛生センター」の医師、大城和恵さんです。富士山富士宮口八合目、標高3250mにある診療所。複数の医師が交代しながら、診療に当たっていて、大城さんは開設期間のおよそ3分の1の期間を担当しています。

<診察の様子>

「脱水だと思うが、脈拍が非常に速いので」

「お水が少ない?塩分も?」

「汗もおかきなので」

通常は診療所の中で、厳重な新型コロナ対策をして患者に接していますが、登山の様子を見て大城さんから声をかけることもあります。

診察の結果、脱水の状態などが確認された男性は呼吸を整え、水分補給することで体調が回復したようです。

<富士山衛生センター 大城和恵さん>

「ちょっとしたこと、ちょっと水が足りないとか。本人が気づかなかいこともあるので。早めに飲んでもらい、あれだけ飲んでもらったら効果があると思う」

「高山病」の患者が多いそうですが、「低体温症」や「転倒よるけが」など様々な患者がやって来ます。しかし、限られた医療器具でできるのはあくまで応急的な処置です。

<富士山衛生センター 大城和恵さん>

「病院までできるだけ悪くしないように、あとは登山者が自分の足で下りること支援してあげると考えている」

山岳医療に当たる大城さんですが、山でのトラブルを未然に防ぐことにも力を入れています。8月16日には、「富士山衛生センター」のツイッターアカウントを開設、その日の富士山のコンディションや患者の状況などの発信を始めました。

<富士山衛生センター 大城和恵さん>

「湯たんぽの紹介です。お湯、登山用の折り畳み式水筒、あとは安全に注げるようにじょうご、百円均一です」

ツイッターでは登山のリスクを理解し、安全に登ってもらうための情報のほか、緊急時の対処方法などについても発信しています。この日は簡易の湯たんぽで低体温症を防ぐ方法を紹介、記者も撮影に協力しました。

<富士山衛生センター 大城和恵さん>

「手足を温めない。胸が大事。これをやるととても体が温まる。低体温症になる前から使うとよい」

登山道具だけで行うことができ、実際に診療所でも使っている方法です。今後もこうした発信を続け、1人でも多くの人に楽しい登山をしてもらいたいと考えています。

<診察の様子>

「無理して飲まなくても持って行ってもらえれば」

「勇気ある撤退をする」

「呼吸ね、呼吸」

「こっちだね、宝永山。ありがとうございました」

「安心しました」

<富士山衛生センター 大城和恵さん>

「登山仲間みたいな雰囲気で、医師と患者というよりは、お互いに山が好きだという仲間みたいな感じがして、結構楽しいですね、診療が」

山の上の「お母さん」のような存在でありたいという大城さん。きょうも雲の上の診療所で、富士山に魅せられた仲間たちの安全と健康を守っています。

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