中国請負企業の工事で死者 バングラ

大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・バングラディシュの首都ダッカでバス高速輸送システムの工事現場で5人が死亡するという事故発生。

・この高架バス道路の建設を請け負っていたのが中国の請負業者。

・「安全無視の手抜き工事」の典型的な手法に、今後各国は中国への警戒をさらに強めることが必要になる。

バングラディシュの首都ダッカ近郊でバス高速輸送システム(BRT)の工事現場で高架バス道路に設置する高架橋の桁を運搬する工事で、桁が落下して下を通行中の乗用車に落下、5人が死亡するという悲惨な事故が起きた。

工事を請け負っていたのは中国の企業でその杜撰な安全管理の実態が明らかになるにつれ、バングラディシュ国民の怒りと不信が中国に対して渦巻く事態となっている。

事故が起きたのは8月15日で、ダッカ郊外のウッタラにあるジャムシム・ウディン通りで高架部分に設置する桁をクレーン車で地上から持ち上げて運ぼうとしていたところ、途中で桁がクレーンから落下して下の道路を走行中の乗用車を直撃した。

乗用車は押しつぶされてペシャンコになり、乗車中の家族5人が死亡した。

警察などの当局は特別調査チームを発足させて事故原因の調査に乗り出しているが、これまでのところ使用したクレーンが桁の重量を支えるに十分な性能がなく、操作していたオペレーターも操作許可を得ていなかったことが判明、このオペレーターを含む作業関係者10人が身柄を拘束され、事情聴取を受けているという。

★ 安全無視の中国工事請負業者

この高架バス道路の建設を請け負っていたのが中国湖北省武漢にある「中国葛州壩集団股分有限公司(チャイナ・ゴージョウバ―・グループ)」というプロジェクト請負業者であることが地元メディアなどで報道された。

そうすると事故で犠牲となった5人の親族が訴訟を起こすとともにこの業者がこれまでも建設工事に関わる数々の安全対策を怠っていたことが明らかになり、国民の怒りが爆発する事態になっている。

まず今回の事故の場合、クレーンで桁を持ち上げる際に上を通過する一般道路を封鎖して交通を遮断する手順を全く講じていなかったことがある。

さらにバングラディシュ人の建設労働者に作業用のブーツ、ヘルメット、ジャケットを着用させることもしていなかったという。

今年7月にはバングラディシュ人労働者の上にクレーンが倒れて負傷者が出る事故があったこと、2021年3月には中国人関係者3人を含む6人が同じような高架の壊れた桁で負傷する事故も起きていたことも明らかにされた。

★ 入札価格が安いので落札

バングラディシュの捜査当局や建設に関わる地元役所や政府関係者などは中国企業がこのような建設工事に携わるには「安い見積もり価格で入札して事業を請け負う中国企業の姿勢」が背景にあると指摘する。

公共事業などでは日本などでも同じように複数の業者の入札で「価格の低い業者」が受注するのが通例となっている。

ただし日本などでは応札できる企業や事業主に安全基準や過去の実績、資金状況などを含む厳しい入札条件を示し、実質的に「悪徳業者」の参入を阻止している。

今回の中国事業主がこうした安全基準を入札時に示していたかどうかは不明だが、事業開始の後は「十分な資金がなかったようだ」と当局はみており、それが安全対策の不十分につながった可能性があるとして調べているという。

中国は独自の経済圏構想「一帯一路」政策に基づき、東南アジアやバングラディシュなどの南西アジア、アフリカなどで多額の経済支援と共に大型プロジェクト参入、投資や企業の誘致などで「開発支援」を行っている。

しかしスリランカのように債務が返済できずに財政が破綻する「債務の罠」の危険性が指摘されて、国際的に注意喚起が呼びかけられている。

インドネシアの首都ジャカルタとバンドンを結ぶ中国が受注した高速鉄道建設でも高架部分の線路を支える支柱が破損するなどの事故も報告されるなど、中国への不信が一部で高まっている。

カンボジアでは親中政権のフンセン首相のもと、南部タイ湾に面した港湾施設建設を中国が進めており、いずれは中国海軍の寄港地になるとの懸念が周辺国で高まっている。

この他ラオスでは中国国境と首都ビエンチャンを結ぶ鉄道が中国の資金、技術支援で完成、開通したが乗客数が低迷し閑古鳥が鳴いているとの報道もある。

このように東南アジアでも中国はその存在感を強める一方で反発や軋轢も多くなっているのが実態だ。

今回のバングラディシュの事故も中国企業によるインフラ整備への参入という形での「一帯一路」の一環とも言えるもので、「安かろう悪かろう」「安全無視の手抜き工事」の典型的な手法とも言えそうで、今後各国は中国への警戒をさらに強めることが必要になっている。

トップ写真:ダッカ市内

出典:Photo by Frédéric Soltan /Corbis via Getty Images

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