【#あちこちのすずさん】コオロギが張り付いていて…防空壕の思い出は、ぞっとする

 戦時下の日常を生きる女性を描いたアニメ映画「この世界の片隅に」(2016年)の主人公、すずさんのような人たちを探し、つなげていく「#あちこちのすずさん」キャンペーン。読者から寄せられた戦争体験のエピソードを、ことしも紹介していきます。

(女性・83歳)

 1945年、私は村の国民学校(現在の愛川町立高峰小学校)に進んだ。ランドセルは姉のおさがり。傷んでいた背負いひもは、父が柔道着の帯を切って作ってくれた。

 「ジジジー。ジジジーッ、関東地区、関東地区、空襲警報発令」とけたたましくラジオから流れると、両親は勤務先の学校へ御真影(天皇の写真)を守るため、飛んで行ってしまう。

 留守を預かる祖母と姉、妹、私、ネーヤ(お手伝いさん)は防空頭巾をかぶり、防空壕(ごう)へ駆け込む。晴れた日でも壕の入り口はしずくがポタポタと落ち、コオロギが隙間なく張り付いていた。震えながら中に入り、心細いまま、体を寄せ合って寝た夜が数回あった。今でも思い出すたびにぞっとする。

 当時の私は、サイレンやラジオ放送で両親がいなくなるのが不安だったが、戦禍に直面したことはない。隣村の男の人が橋の上で機銃掃射でやられたとか、昼寝の赤ちゃんの胸に砲弾が当たったとかは聞かされた。

 こんな子ども時代を過ごした者がいたことを知ってほしくて、思い出を書いてみた。

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