竹田水産 ~ 「海」と「魚」の総合商社!?笠岡諸島の高島から、水産業の未来を見据える

大小7つの有人島からなる、風光明媚な岡山県笠岡市の笠岡諸島(かさおかしょとう)。

そのなかでもっとも本土に近い離島が高島(たかしま)です。

神武東征(じんむとうせい)伝説が残る歴史深い高島で、水産業(漁業)と宿泊業を展開する有限会社 竹田水産(たけだすいさん)。

代表の竹田航平(たけだ こうへい)さんに、笠岡市の「海」のリアルと未来について、その熱い想いを聞いてきました。

本土から船で最短6分!高島での生活を垣間見る

高島の玄関口

笠岡市の本土側から目と鼻の先にある高島。

三洋汽船の定期船を使うと、住吉港からは26分、神島外浦(こうのしまそとうら)港からはなんと6分で到着します。

気軽に足を運べる離島ですね。

島の自慢は、古代のロマンあふれる豊かな歴史です。

神武天皇が東征の際吉凶を占ったといわれる神卜山(かみうらやま)や、同じく神武天皇が神々に供える水を汲んだとされる真名井(まない)など、各所で神武天皇ゆかりの史跡に出会えます。

人口は令和4年7月31日現在で、笠岡市発表の住民基本台帳に基づけば71人。

実際に島内で暮らしている人数は40人を割り込むなど、とてもこぢんまりとした島です。

島民のほとんどは本土側にも家を持っているそう。

竹田水産の竹田さんも、ほぼ毎日本土の自宅と島とを船で行き来しています。

朝晩の通勤ラッシュとは無縁の高島での生活。

海とともにある暮らしが、ここ高島では粛々と営まれています。

竹田水産の取り組み

のどかな漁村風景が広がる高島

若手漁師の竹田航平さんが代表を務める竹田水産。

時代の波に揉まれながらも、常に高島の海とともに歩んできました。

水産業(漁業)

竹田水産代表の竹田航平さん

漁歴8年になる竹田さんは、令和4年で30歳の節目を迎えます。

高島では2番目に若い漁師です。

大学卒業と同時に、プロとして家業の水産業に携わることとなった竹田さん。

小さなころから祖父や父親の漁に同行していたため、漁師になるのは自然な流れだったと言います。

笠岡市の水産業の顕著な特色は、「魚種が多い」こと。

寄島(よりしま)のカキや下津井(しもつい)のタコなど、全国に名の知れた特産ブランドこそありませんが、豊富な魚種はそのまま海の豊かさをあらわします。

高島近海で獲れた多種多様な魚介類は、笠岡市本土側の神島外浦地区にある笠岡市漁業協同組合の本所に出荷されるそうです。

笠岡市内には他に、笠岡地区の株式会社 笠岡魚市場や大島中(おおしまなか)地区の、大島美の浜(おおしまみのはま)漁業協同組合本所などの出荷場(魚市場)があります。

ここでもやはり、高島特有の地の利を活かしたスピーディーな出荷が可能です。

現在取り組んでいる漁法は、主に定置網漁、タコツボ漁、建網(たてあみ)漁、流せ網漁、ノリ養殖の4つ。

特にタコツボ漁は、笠岡諸島では竹田さんの祖父が最初に始めたとのことです。

まさに元祖!

また、ノリ養殖に関しては、令和3年度岡山県産ノリ共進会で最優秀の農林水産大臣賞を受賞しました。

今後の躍進に注目です。

宿泊業

海を見下ろす丘の上にたたずむカーサ・タケダ

水産業と並行して、竹田水産は「カーサ・タケダ」という宿も営んでいます。

完全予約制の旅館で、あわせてランチのみの営業もしているカーサ・タケダ。

もともとは竹田さんの祖父母の代に、高島島内の別の場所で営業していた小さなお宿を、現在の高台に移転させて再オープンしたのが始まりだそうです。

その際こだわったのが、立地とのこと。

島の北西端に突き出した岬の、小高い丘の上にそびえる白亜の建物は、まるで中世の洋館を彷彿(ほうふつ)とさせます。

南側から船で高島の港へ入る際、この岬と建物を眼前にぐるりと回り込むように航行する様は圧巻です。

いよいよ丘に登れば、オーシャンビューの絶景が!

宿を中心に東西に開けた風景は、同じ海でも一方は湾、一方は外海と、まったく違った表情を見せてくれます。

島の集落を照らして昇ってくる朝日と、はるか鞆の浦(とものうら)に沈む夕日とをひとところにして味わえるのも贅沢(ぜいたく)ですね。

静かな高島の湾

そして特筆すべきは、西側の斜面を下ってたどり着く白砂のビーチです。

干潮時は岬伝いに東側の集落まで歩いて渡ることができ、反対に満潮時は回廊が遮断され、さながらカーサ・タケダのプライベートビーチと化します。

客室からも、この見晴らし

景色に負けず劣らずのウリは、高島の海の幸をふんだんに使った自慢の料理!と、胸を張る竹田さん。

料理長を中心に、竹田さんの家族や島のお姉さんたちが厨房を回します。

知人の紹介で板場を任されることとなった料理長が腕によりをかけてつくるご馳走は、素材本来の良さを引き出すシンプルな味付けです。

竹田さんの獲ってきた新鮮な魚介と、スタッフの技(愛情)との組み合わせには、余計な調味料は不要なんですね。

そんなカーサ・タケダの基本理念は、お客さんも従業員も、「関わる人ひとりひとりを大事にすること」だそうです。

島の非日常空間を演出し、ゲストにリフレッシュしてもらうため、一丸となってアットホームな接客を心がけています。

カーサ・タケダをきっかけに、高島を知ってもらえれば。

竹田さんは目を輝かせます。

竹田水産の新たな挑戦

静かなビーチを独り占め

高島の海に抱かれて、竹田水産は新しいことに挑戦し続けています。

キーワードは「外への発信」。

その革新的な試みの一部を紹介します。

鮮魚・干物・乾物の配送サービス

農林水産大臣賞を受賞した、竹田水産謹製の味付けノリ

新型コロナウイルス感染症が全世界的な流行を見せ始めた令和2年4月、高島産の新鮮な海の幸を家庭でも味わってもらいたいとの想いから、魚介類の宅配サービスをスタートさせました。

定番の鮮魚や味付けノリに加え、干物や乾燥ヒジキなどもラインナップされています。

こだわりのポイントは、「お客さんの手元に届いてから口に入るまでの工程をなるべく減らす」こと。

たとえば鮮魚の場合、ストレスを抜き身の味を良くするため、漁で獲ってきた魚などをまずは水槽や生簀(いけす)で泳がせるのだそうです。

その後締めて血抜きをし、鱗(うろこ)と内臓の処理を施してから箱に詰め発送します。

干物は、普通は「開き」にしますが、竹田水産では三枚におろして乾燥させるとのこと。

なるべく食べやすいようにとの配慮からだそうです。

魚の調理は、一般家庭では「手間」「臭い」「キッチンが汚れる」と敬遠されがち。

スーパーマーケットで売っている、出来合いの刺身しか食べないという人も多いかと思います。

竹田水産の魚介宅配は、そんなお客さんの気持ちに寄り添うサービスです。

自慢の料理のレシピ付きで、全国に配送しています。

竹田さん一家の想いと人柄がにじむ、素敵な取り組みですね。

ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継

その眼差しは未来を見据えています

令和4年の新たな試みとして、「ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継」というオンラインツアーイベントを開催しました。

広島県福山市にあるローカル指向の旅行会社・有限会社 福山サービスセンターイトウ伊藤匡(いとう ただし)代表とタッグを組み、7月から8月にかけて計8回開かれたこのイベント。

きっかけは、伊藤さんが瀬戸内海で漁業、特にタコツボ漁を体験できるツアー商品を企画していたときにたまたまインターネット上で竹田水産の存在を知り、竹田さんにコンタクトをとったのが始まりだそうです。

伊藤さんはもともと、地域の魅力を掘り下げるミニツアーブランド「瀬戸内SamPo(せとうちさんぽ)」を自社で展開していました。

竹田さんは「見過ごしがちな地元の価値を拾い上げる」という理念に共感し、意気投合。

笠岡諸島の水産業のリアルを知る」というコンセプトのもと、このイベントの実現にこぎつけました。

具体的には、実際のタコツボ漁のようすをFacebookライヴで中継しながら、地元の漁師である竹田さんが実体験に基づいた水産業の現状を話しする、といった内容です。

参加者は事前に3つのタコツボを買い取り(オーナーとなり)、その漁果を楽しみながらも、一方では現場で起こっている実状を学べる仕組みとなっています。

引き揚げたタコツボにタコが入っていれば、竹田さんがスミ抜き処理をしたものをめでたくゲット!(追加料金で茹でダコにもしてくれます)

外れても、竹田水産謹製の味付けノリが送られてくるうれしいサービスが。

日頃はなかなか見聞きすることの少ない水産業の現場。

このイベントをきっかけに、少しでも多くの人に水産業のことを知ってもらいたいとの切なる想いが、竹田さんの口ぶりからひしひしと伝わってきます。

熱い気持ちを胸に秘める竹田さんへ、インタビューをしました。

竹田航平さんに話を聞きました

熱い気持ちを胸に秘める竹田さん。

水産業について、そして高島について、その現状と未来を赤裸々に語ってもらいました。

青い空と澄んだ海、そして情熱

──高島での暮らしについて教えてください。

竹田(敬称略)──

毎日本土側から船で島まで通っています。

高島は、笠岡諸島のなかでは陸(おか)から一番近いということもあって、ほとんどの島民が本土にも家を持っているんですよ。

僕も自宅は本土にあるので、子どもの保育園や小学校、普段の買い物なんかは基本そっちです。

島は、言わば「職場」ですね。

朝「出勤」して漁に出る。

漁から戻ったら宿(カーサ・タケダ)での仕事をこなし、晩にはまた船で本土に帰宅します。

忙しいときは島に泊まることも多いですが、基本はそんな生活スタイルですね。

──島への「通勤」!都市部では想像がつきませんね。竹田さんの考える高島の特徴ってどんなところでしょうか。

竹田──

やっぱり本土に近いということでしょうか。

定期船で住吉港から約25分、神島外浦港からだと5~6分足らずなので、気軽に行き来できますね。

それと、とても小さな島なので、ゆったりとした時間が流れています。

宿のお客さんにも、「こんなに近いのに非日常を感じられる」「リラックスできる」と言っていただけるのでうれしいです。

あとは、うーん、なんでしょう。

実は僕、そんなに高島に自信がないんですよ(笑)。

──え!自信がないんですか!?

竹田──

はい(笑)。

たとえば白石島だったら海水浴、北木島だったら石切りの文化、真鍋島だったら古い町並みと、それぞれキャッチーな「ウリ」があるじゃないですか。

高島はそれがちょっと弱いかなーと、個人的には思いますね。

「高島」と聞いて「これ」というイメージがわきにくいというか。

でもそれは、僕が地元の人間だからなのかもしれません。

さっきもお話ししましたが、お客さんや外から島に来てくれる人たちは、高島に対して「手頃な非日常感」という価値を感じてくれています。

なので、僕はカーサ・タケダを通じて、そうした高島の価値をもっとアピールできたらと思いますね。

漁はいつでも真剣勝負。※竹田航平さん提供写真

──高島の、そして笠岡市の水産業について教えてください。

竹田──

高島や笠岡市にだけ限った話ではないんですが、瀬戸内海、あるいは日本全域でいま、水産業は厳しい状況にあります。

海の環境が年々変化し、魚の数が減っているんです。

漁師や漁組も対策として、海のゴミ拾いや海藻の種まきなどを積極的に行なっていますが、なかなか効果が追いついていないのが現状ですね。

このままでは将来はもっと厳しくなるでしょう。

ただでさえ魚が少なくなっているのに、日本人の魚食離れもまた進んでいます。

ダブルで魚が売れない時代です。

じゃあ僕たち漁師はどうすれば良いのか。

量ではなく質」で勝負するべきだと、僕は思っています。

数が少ない分、魚一匹ごとに付加価値をつけるんです。

たとえばカーサ・タケダでは、魚を加工して干物をつくる際、普通だったら開きにするところを三枚におろしてから乾燥させています。

そうすることで、一般の家庭でも手間がかからず食べやすくなるんですね。

常に「お客さんにより良いものを」と工夫しながらやっています。

──お客さん目線に立つことが大事なんですね。

竹田──

そうですね。

笠岡市内の漁師に関して言えば、実は30代以下の若手の割合が他と比べて多いんですよ。

なので、若い漁師を中心にみんなでまとまれば、何か大きなことができると思っています。

ブランド化して笠岡産魚介類の付加価値を上げたり、とかですね。

笠岡の水産業を売り出す方向性を、みんなで共有することが必要です。

あとは、ピーアールの分野ですね。

カーサ・タケダも魚を獲ったり料理したり加工したりは得意なんですが、集客や広告戦略の点で課題を感じています。

外部の第三者に頼んでやってもらうのもひとつの手ですね。

高島の海とともに

──ピーアールや情報発信のお話がでましたが、イベントや観光についての想いをお聞かせください。

竹田──

カーサ・タケダが積極的にイベント事を企画するようになったのは、実はここ2~3年のことなんです。

魚の需要が減って漁獲高も落ち込んでいるなか、追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症が流行り始めて、お客さんの足も遠のいてしまいました。

ちょうどその頃、今の料理長がカーサ・タケダに来てくれて。

何かやらなきゃということで、いろいろとアイデアを出し合いました。

魚の配送サービスや「ドキドキのタコツボ水揚げLIVE中継」も、そういった経緯で実現したんです。

積極的にイベントを打つようになりましたが、僕たちの思いは変わっていません。

それは、あくまでも「海」中心「魚」中心であるということ。

僕たちの仕事は高島の海と魚がなければ成り立ちません。

イベントや情報発信でも、一番重視するのはその部分だし、結局はすべてがそこに行き着きます。

竹田さんご一家。※竹田航平さん提供写真

観光についても同じ想いです。

宿泊業を営んでいるので、やっぱり観光のことは意識します。

でもそれは、高島を大観光地にするぞ!とか、儲けてやるぞ!とかではないんです。

小さな島なので、大勢の観光客を受け容れるだけのキャパシティもないし、静かに暮らしたいと思っている人も多い。

そもそもカーサ・タケダだけが大儲けしても、他の島民には利益がないですし。

なので、地域とのつながりは大事にしています。

お祭りや地域のイベントのお手伝いに、積極的に顔を出したりとか。

あとは、何か新しいハコモノをつくるというよりも、島に今あるものを大切にしていきたいですね。

それは言い換えれば、「高島にしかないもの」です。

神武天皇関連の史跡もそうですが、高島の資源を残していきたいと思います。

そしてやっぱり、最終的には「高島を知ってもらう」、これが一番です。

何もしないと何も始まらないので、島民一丸となって高島の知名度アップのために、常に何かを発信していきたいですね。

そのきっかけにカーサ・タケダがなれれば、最高ですね!

カーサ・タケダからの絶景

おわりに

取材中、カーサ・タケダで特別にお昼ご飯をいただきました。

竹田さんが獲ってきた高島の魚介類を、料理長が丹精込めて調理した自慢の逸品。

「おすすめはタコの燻製です」、と竹田さん。

高島の恵みをふんだんに。※取材用のため、カーサ・タケダで提供している通常のランチメニューとは異なります。

一口頬張ると、タコの甘みと海の香り、そしてスモーキーな風味が口いっぱいに広がります。

ああ、これが高島の「海」なんだ。

竹田さんの熱い想いが、胸にスッと入ってきた瞬間でした。

日本の水産業は今、岐路に立たされています。

一次産業全体を見渡しても、決して明るい話題ばかりというわけではありません。

しかし、竹田さんのように、未来を見据えたビジョンをもつ「プロ」が厳然と現場にいるのも確かです。

帰りの船窓から眺める瀬戸の海は、なんだかいつもとちょっとだけ違う表情をしていました。

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