フィリピン人青年が“獅子舞”に挑戦! マークさん、ニニョさん 諫早で17日披露

獅子舞に挑戦するマークさん(右)とニニョさん=諫早市、法川公民館

 張り子のイノシシの頭(かしら)。シュロの木の皮を縫い合わせた胴体-。一風変わった獅子の中から姿を現したのは、長崎県諫早市の高齢者施設で働きながら、介護福祉士の資格取得を目指す2人のフィリピン人男性。今月、外国人として初めて同市高来町法川(のりがわ)地区の伝統芸能、獅子舞を披露する。

 ニニョ・レコルバさん(34)と、マーク・ケネス・メンドーザ・リリオさん(30)。以前、技能実習生として自動車メーカーなどに勤め、いったん帰国したものの「日本には礼儀正しく優しい人が多い。もう一度日本で働きたい」「資格を取り、自分の両親などの“もしも”に備えたい」と、介護分野の特定技能外国人として今年3月に再来日。現在、同市高来町の高齢者福祉施設に勤務している。
 日本語堪能で、愛嬌(あいきょう)たっぷり。仕事は真面目。利用者からも「親しみやすい」と評判が良く、2人も「笑顔でありがとうと言ってもらえることや、職場の先輩が優しく手伝ってくれるのがうれしい」とやりがいを感じている。
 「獅子舞の担い手になってみないか」。同施設を経営する和敬会の介護支援専門員、犬塚裕子さんが2人に持ちかけたのが今年4月。2人がずっとこの町で暮らしていくのなら、地域行事に参加し、地元の人たちに顔を覚えてもらった方がいいのではないか-。そんな考えがあった。
 法川獅子舞は1839(天保10)年、本明川に眼鏡橋を架けた時に奉納したのが始まりとされ、イノシシが暴れ獅子として勇壮に舞うのが特徴だ。法川獅子舞保存会(村岡俊昭会長、約20人)が地元の祭りなどで披露してきた。
 思いがけない提案だったが、2人は「日本の伝統や文化を知る良い機会」「地元の人と話せる場になる」と快諾。さらに、地元自治会の早朝清掃にも参加すると、最初は驚いていた住民たちも積極的に2人に声をかけるように。「フィリピンの話をしてほしい」などの声も上がり、自治会は2人を招いた講座や街歩きイベントなどを企画中だ。
 7月9日、獅子舞の初練習の日。先輩が手本を見せた後、2人が見よう見まねで挑戦すると、腰を低く落として左右に反復する動作も、躍動感も、初めてと思えないほどの出来だった。心配そうに見守っていた保存会メンバーの心に安堵(あんど)と期待が膨らんだ。「これなら大丈夫」
 練習は主に仕事が終わった夜。月2回の合同練習に備え、2人は自宅でも先輩の演技の録画を見ながら、獅子の代わりに布団をかぶって特訓。「お客さんが楽しめるような、元気な獅子舞を披露したい」。そう意気込む2人に、衣類や日用品などを差し入れる住民もいる。

介護福祉士を目指すニニョさん(右)と、マークさん=諫早市高来町、有料老人ホームひまわり

 保存会の村岡会長は「人手不足の折、2人の参加はありがたい。どこの国の人であってもせっかくの縁、頑張って地域を盛り上げてほしい」と歓迎。法川自治会の小川供孝会長は「郷土芸能の担い手不足は全国的な問題。外国人が頑張ってるんだから、地元の自分たちも負けていられないと思うような若者が増えれば」と期待を寄せる。
 在日外国人が日常的に地域行事や自治会活動に参加するのは珍しく、いさはや国際交流センターの岩本頼子事務局長は「今までにない国際交流のケース」と注目する。
 伝統芸能が結ぶ地域と外国人の「縁」。2人の目標は頑張って働き、母国から家族や恋人を呼び寄せ、諫早にしっかりと根を下ろすこと。「そのためにも地域の皆と仲良くなり、友だちをつくりたい」。汗だくの顔に笑みがあふれた。

 2人が参加する法川獅子舞は、17日に諫早市東小路町の中央交流広場で開催される、のんのこ諫早まつり「民謡の祭典」で披露される。


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