塩野義の新型コロナ飲み薬「承認すべきだった」と2学会提言、しかし提言者は治験関係者

 塩野義製薬が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」について、2日、日本感染症学会と日本化学療法学会が厚生労働省に、早期に承認するよう求める提言書を提出した。しかし提言した学会の理事長はこの薬の治験にかかわっており、提言自体の中立性が問われる事態となっている。

提言者の一人は治験に中心的に関わった研究者

 塩野義製薬が開発した「ゾコーバ」は初の国産の治療薬として期待され、新しく整備された緊急承認制度に基づき7月の厚生労働省の専門部会で承認を検討されたが見送りとなっている。「ウイルス量の減少は見られたが臨床症状の改善がみられなかった」のが理由で、現在進めている最終段階の治験データが揃い次第、通常の枠組みでの承認を改めて申請する見込みだ。

 これに対し、2日、日本感染症学会と日本化学療法学会の2学会が連名で同省に提言書を提出し、その中で「ゾコーバ」について「呼吸器症状の軽減もみられた」として効果について訴え、早期承認を求めた。一部報道では学会が承認を求めたという表現となっているが、しかしこの提言を行った日本感染症学会の四柳 宏 理事長(東京大学医科学研究所 先端医療研究センター 感染症分野長)はこの薬の臨床試験に関わっている関係者だ。4月には主要な研究者として、臨床試験結果について欧州の感染症関連学会で論文発表も行っており、その内容がまさに塩野義製薬のホームページに掲載されているのである。

 研究者個人としてみれば自らの研究結果をアピールするのはむしろ当然ともいえるが、学会名で提言を出すとなれば、少なくともその学会員全員が「ゾコーバ」の効能を認めているとミスリードされる恐れがある。提言提出後の会見の中でこの点を問われ「今回は学会としての提言」として中立性を担保しているかのような発言をしているが、学会内でどのようなプロセスで提言が承認されたのか不明だ。

 また、提言の中で試験結果について呼吸器症状の軽減もみられた、として効能が認められているかのような見解が出されているが、まさにこの点が緊急承認が認められなかった主な要因のひとつだ。7月の専門部会では、提出された治験データの評価について同様の評価がアピールされたが、この「呼吸器症状の軽減」という評価自体が、治験当初に設定された評価指標ではなく、緊急承認を得るためにあとから急遽設定されたもの。当日の審議でも、評価指標の後出しは禁じ手で治験自体の信頼性を損なう、として承認担当組織のPMDA(医薬品医療機器総合機構)から厳しい批判が加えられており、「門前払い」と表現しても差し支えないような実態だった。

 この「禁じ手」は今回に限らず、アカデミア全体で「絶対にやってはいけないこと」として認識されている基本的な倫理のはず。それを破ってしまったものを再び「学会の提言」として提出するという行為が、本当に学会全体の意思表示だったのか疑問だと言わざるを得ない。

 なお「ゾコーバ」の最終段階の治験データの収集、解析は進んでおり、塩野義製薬は11月以降に改めて承認を求める意向だ。

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