【没後10年】俳優マイケル・クラーク・ダンカン『グリーンマイル』 愛すべき巨人の早すぎた死を悼む

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S・キング原作、F・ダラボン監督『グリーンマイル』

マイケル・クラーク・ダンカンは2012年9月3日、心臓発作で入院中に亡くなった。フランク・ダラボン監督の『グリーンマイル』で演じた“繊細で純粋な心を持った巨人”ジョン・コフィーは、まさに彼を代表するはまり役となり、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の助演男優賞ノミネートをもたらした。マイケル・クラーク・ダンカンの魂を追悼するのに、彼の出世作にして、生と死の不思議を描いた『グリーンマイル』以上にぴったりの作品はないだろう。

題名の“グリーンマイル”とは死刑囚棟のこと。通常、死刑囚棟は“ラストマイル(最後の通路)”と呼ばれるが、ポール(トム・ハンクス)が看守主任を務めるコールドマウンテン刑務所では、床が褪せた緑色をしていたので“グリーンマイル”と呼ばれていた。

そこには、ブルータル(乱暴者)という仇名に似合わぬ心優しい巨漢ブルータス(デヴィッド・モース)、若手のディーン(バリー・ペッパー)、知事の親戚であることを鼻にかける無能で残忍なパーシー(ダグ・ハッチソン)ら看守たちと、ミスター・ジングルスというネズミを飼育しているデル(マイケル・ジェッター)、札付きの問題児“ワイルド・ビル”(サム・ロックウェル)、ネイティブ・アメリカンの“チーフ”(グレアム・グリーン)ら死刑囚がいた。

ある日、死刑囚棟に身の丈2メートルあまりの囚人が送られてくる。その男、ジョン・コフィーは双子の少女をレイプして殺した凶悪犯だが、実際の彼は暗闇を怖がる子供のような心を持ち、不思議な力でポールの尿路感染症を触っただけで治してしまう。コフィーに興味を持ったポールは、彼が本当に殺人を犯したのか疑問を持つようになる。意地悪なパーシーに踏みつぶされたミスター・ジングルスをコフィーが生き返らせたのを見て、ポールは刑務所長(ジェームズ・クロムウェル)の妻メリンダ(パトリシア・クラークソン)の脳腫瘍を治せるのではないかと考え始めるが……。

スティーヴン・キングによる原作は、死刑囚と看守の様々なエピソードを紡ぎ合わせながら、生と死のドラマを浮かびあがらせていく一種の偶像劇で、6巻本として刊行された大長編だった。映画化に当たっては多少の省略と時代設定の変更がなされたが、キング・ファンのダラボンらしい誠実で丁寧な演出で、3時間を超える長さを感じさせない。

マイケル・クラーク・ダンカンの生い立ち

マイケル・クラーク・ダンカンは1957年11月10日、シカゴ生まれ。多くの黒人家庭がそうであるように母の手ひとつで育てられ、家計を助けるために早くから働き始めた。俳優を志してハリウッドに行き、ウィル・スミスなどのボディガードをしながら小さな役を得ては映画出演、『アルマゲドン』(1998年)のベアー役で注目を集めた。

コフィー役のキャスティングに難航していたダラボンに彼を推薦したのは、『アルマゲドン』で共演し、友人となったブルース・ウィリスだった(のちに『隣のヒットマン』[2000年]でも共演)。身長1メートル96センチの巨漢だが、笑顔が可愛い、ジョン・コフィーそのままの無邪気で温かい人だったという。

マイケルの訃報を聞いたとき、彼がトム・ハンクスに不思議な力を授ける場面を連想した人は多かっただろう。もし、本当にあの力があれば心臓発作を乗り越えられたかもしれないと。享年54歳の早すぎる死だった。

文:齋藤敦子

『グリーンマイル』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:泣ける映画」で2022年9月放送

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