奄振法 来年度末期限切れ 群島の課題、展望は…「環境循環の島、ブランド化を」「企業には魅力的な投資先」 審議委員・三神万里子さんに聞く

奄美群島振興開発審議会委員を務めるジャーナリストの三神万里子さん=東京・銀座の南日本新聞社東京支社

 奄美群島振興開発特別措置法(奄振法)は2023年度末に期限が切れる。同法の政策効果や問題点を調査する国の審議会委員となり、本年度から本格的に審議に参加するジャーナリストの三神万里子さん(50)=東京都=に、群島の課題や展望を聞いた。

 -自身の専門分野は。

 「産業や企業活動の視点から地域経済についての執筆・講演に加え、世界のグローバル経営層とも常々情報を共有している。地球規模の環境問題や持続可能性について彼らがどのような未来を描こうとしているのか、それを奄美振興にどう生かすかという観点から役に立てればと考えている」

 -奄美大島、徳之島は昨夏、世界自然遺産に登録された。

 「環境循環型の島としてのブランド化が可能だ。その一案として、生物多様性オフセットという考え方が参考になる。カーボンオフセットに似ているが、開発を行い利益を得た企業は一定の手数料を自然保護活動に支払わなくてはならないという枠組みだ」

 「地球規模の環境破壊が進む中、株主や消費者への説明責任を果たすため、環境保護に向けた投資先を探している企業は多い。奄美はその受け皿として魅力的に映るはず。自然保護に向けて産学官連携プロジェクトを誘致したり、企業・自治体の共同調査を立ち上げたりして、島にお金が落ちる仕組みが作れる」

 -農業が盛んだ。

 「畜産については、温暖化や水資源確保の観点から環境負荷が大きいとの認識が世界で広がりつつある点に注意を払うべきだ。特に環境問題を深刻に受け取る若い世代は動物由来製品に拒否反応をする傾向が強い。生存のためには『ベジタリアンにならなければいけない』『乳製品は極力避ける』といった考えすら持っている」

 「対策としては、生物多様性オフセットやカーボンオフセットの考えを島に定着させ、畜産を含む農産物を環境循環型の生産品として統一ブランド化しておくことが重要だ。環境を巡るネガティブな動きに対して、群島全体が日頃から保護に取り組んでいる姿勢を産学官連携の調査で得た具体的データや客観証拠に基づいてアピールできれば、相対的に生産品の付加価値は高まり、購入者は減らないだろう。環境意識の高い企業や飲食店との取引量も増えていくはずだ」

 -観光はどうか。

 「テーマパークや名所を巡った“経験”を楽しむスタイルから、訪れた場所での体験や活動で人生を変えるような知識や知見をいかに短期間で得られるか、受け入れ側はそれを提供できるかに市場価値が変化している。奄美で取り組める一例として、環境循環をテーマとした高度教育を短期で受けられるキャリアプログラムやスクールを開講し、滞在者を増やす戦略がとれる。世界遺産の島で学びながらオンラインで働く。そういった態勢が整えば、人は世界中から集まる」

 ■みかみ・まりこ 1972年生まれ、長野県出身。慶応大卒、英ケンブリッジ大学サステナビリティ経営管理専攻(CISLエグゼクティブコース)修了。「メガバンク決算 日、米、欧 どこが違うのか?」(角川書店)などの著作活動や経済番組解説の傍ら、国立情報学研究所プロジェクト研究員や信州大学経営大学院客員准教授を歴任。経済産業省製造産業審議会分科会委員など公職多数。

 ■カーボンオフセット 地球温暖化対策として、二酸化炭素(CO2)を相殺(オフセット)すること。企業活動では、植林や森林保護、再生可能エネルギー導入などに投資したり、温室効果ガス排出削減の活動をしている団体からクレジットを購入したりすることで、自社が生産や流通、使用時にCO2など温室効果ガスの排出量を相殺できるようにする仕組み。

亜熱帯特有の豊かな自然と希少な動植物が評価され、世界自然遺産に登録された奄美大島の役勝川=奄美市住用
奄美大島と徳之島にのみ生息する国指定特別天然記念物のアマミノクロウサギ

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