21世紀の路面電車新設工事

 【汐留鉄道倶楽部】21世紀に入って四半世紀になろうというこの時代に、路面電車が新設されるとは思いもしなかった。栃木県の県庁所在地で「餃子の街」として有名な宇都宮市と芳賀町の14・6キロを結ぶ路面電車「芳賀・宇都宮LRT」の建設工事が、2023年8月の開業を目指して最盛期を迎えている。路面電車の工事現場を見学できる千載一遇のチャンス。行かない手はない。

 

建設工事が進む電停のホームと線路=宇都宮市

 開業1年前となる平日、JR宇都宮駅の東口に立った。中心街が反対の西口にあるとはいえ、県庁所在地の表玄関にしては殺風景に感じた。それもそのはず。東口駅前はLRTの開業に向けて、ロータリーや駅前ビルの整備の真っ最中なのだ。筆者が立っているペデストリアンデッキの下に電車の停留所(電停)ができるのだが、視界を遮られて様子をうかがうことはできなかった。

 LRTのルートになる「鬼怒通り」は、車道中央の2車線分が電車専用レーンになっている。レールを敷くためのコンクリートの基礎はほぼ完成したように見えるが、まだレールが埋め込まれていないし、架線も張られていない。電車専用レーンへ自動車や歩行者が入ってこないように柵を立ててあった。

 交差点の道路信号機には、早くも「電車用」と書かれた路面電車用の黄色い矢印信号が付いていた。もちろんまだ点灯していない。他地域の例では、路面電車用の信号機に「電車用」という親切な表示をするケースは、ゼロではないが珍しい。まさに路面電車が初めて登場する街ならではの風景といえる。「自動車のドライバーが混乱しないように」という配慮だ。

 じりじり照りつける太陽光を浴びながら、数百メートルごとに建設中の電停を見て回った。ほぼ完成している電停、ホームの鉄筋がむき出しになった状態の電停、足場を組んだ工事初期段階の電停など、場所によって工事の進み具合がまちまちだったおかげで、電停建設の流れを垣間見ることができた。

 交差点で自動車や歩行者が横切る部分には、レールを入れるコンクリートの窪みに木を埋め込んで、通行に支障がないようにしていた。所々にレールを窪みに入れてある区間があったが、レールはまだ固定されておらず、ただ窪みに置いただけの状態だった。その様子を見ていたら、「どうやってレールを固定するのか?」という疑問が湧いてきた。

 筆者は、まず普通の鉄道のように砂利の上に枕木を敷いて線路を固定し、後からアスファルトで固めたり、石畳を敷いたりすると思っていた。どうやら宇都宮の工事現場の様子を見る限り、不正解のようだ。しかも、コンクリートの窪みに犬釘を打ち込んでレールを固定するのは難しそうだ。疑問は未解決のまま、最終目的地に決めた車両基地を目指して歩き続けた。

車両基地で活躍の時を待つ芳賀・宇都宮LRTの電車=宇都宮市

 宇都宮駅から1時間半ぐらい歩いただろうか。沿線に「ベルモール」というショッピングモールがあったので立ち寄った。一休みしていると、栃木県内の“鉄友”から「ベルモールにLRTのPRコーナーがありますよ」と、うれしいLINEが届いた。そこではジオラマやパネルを使って事業概要や利用方法、路面電車独特の交通ルールを説明していた。その中にレールの展示もあり、先ほどの疑問が解決した。路面電車のレールはコンクリートの窪みに入れて樹脂で固定するそうだ。

 車両基地では、隣接する側道から電車を間近に見ることができた。できたてホヤホヤの黄色い電車に太陽光が照りつけ、神々しく輝いて見えた。残念なのは、側道から写真を撮ろうとすると頑丈そうな金網が目立ってしまうこと。たまたま通りかかった車両基地の人が「足元の用水路に気を付けて。水分も補給してね」と声を掛けてくれた。うれしくて金網問題は吹き飛んだ。

 芳賀・宇都宮LRTの愛称は「ライトライン」。雷が多い芳賀・宇都宮の愛称「雷都」と、未来への「光の道筋」という意味を込めたという。電車の黄色は、雷の稲光と豊かに実った稲をイメージした。ゆくゆくは県庁、市役所、東武宇都宮駅、数々の餃子店が集まり、スポーツで有名なマンモス校の作新学院もある宇都宮駅の西側に延伸される計画だ。建設工事は雷のように電光石火とはいかないが、地域の足としてきらきらと輝き続けてほしい。

 ☆寺尾敦史(てらお・あつし) 共同通信社映像音声部

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