【レースフォーカス】スマートに、コンスタントに。己に集中し勝利をつかんだバニャイア/MotoGP第14戦サンマリノGP

 9月2~4日に開催されたMotoGP第14戦サンマリノGPの週末は、雨の予報が出ていて天候が懸念されていた。実際に木曜日の朝は、遠くで雷が鳴っているのが聞こえ、ぱらぱらと雨が落ちたりもした。けれど振り返ってみれば、セッション中、サーキットに雨が降ったのは土曜日のMoto3クラスの予選からMotoGPクラスのフリー走行4回目、予選の時間帯にとどまった。日曜日は快晴に恵まれ、青空が広がる下でのレースとなったのである。

 レースを制したのはドゥカティ・レノボ・チームのフランセスコ・バニャイア。第11戦オランダGPからの4連勝を飾った。MotoGPクラスとしては史上4人目となる快挙だ。そのバニャイア、金曜日のフリー走行1回目でレコードライン上をスロー走行し「他のライダーを危険にさらした」として、3グリッド降格のペナルティを受けた。

 余談ではあるが、金曜日、セッション終了後に囲み取材に現れたバニャイアは、取り囲んだジャーナリストから質問を受ける前に、開口一番「ペナルティについてどう考えますか?」と自分で自分に“質問して”、ジャーナリストたちを笑わせた。そしてあらためて「正しいと思う。ペナルティには完全に同意するよ。チェッカーを受けたと思ったらそうじゃなかったんだ。僕のミスだ」と答えてペナルティについては、完全に受け止めていた。

 予選で2番手となったバニャイアは「3列目からのスタートではちょっと厳しいから、明日のレースのためにトップ3に入ることが今日の目標だった」と語り、狙い通り2列目から決勝レースを迎えた。

 スタートでは、ポールポジションスタートのジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)がトップに立つも、2周目の4コーナーで転倒。バニャイアは3周目にエネア・バスティアニーニ(グレシーニ・レーシングMotoGP)をかわしてトップに浮上すると、その後もレースをリードし続けた。後ろのライダーをぐんぐん引き離すようなレースではなく、レース後半まではマーベリック・ビニャーレス(アプリリア・レーシング)がすぐ背後を走り、終盤に入ってからは再び追い上げてきたバスティアニーニに猛追されるも、バニャイアはバスティアニーニに対し0.034秒差で優勝を飾った。レース中、ふたりのライダーがすぐ背後につける展開だったが、同時に何度もオーバーテイクを繰り返すトップ争いではなく、僅差でバニャイアがトップを守り続けたレースでもあった。

「スタートでは1周目の4コーナーでフロントがロックするのを感じていたよ。ジャックが転倒した同じ周では、エネアが14コーナーでフロントを失いそうになっていた。だから、序盤はすごく怖かった。Moto2のレース後、今日のコンディションは昨日とは違っていた。レースのスタートはコンペティティブでいるのが難しかった。前に出た3周目のタイムは1分33秒0。かなり遅いなと思っていた。というわけで、毎周コンマ1秒ずつ詰めていくために、レース中ずっと集中してスマートでいたんだ。最終的に残り6、7周で、とても力強いペースになった」と、バニャイアは決勝レースを振り返る。

「レース中ずっと、誰かがここ(と首の後ろを示す)にいるように感じていたけど、僕は気にしなかった。スマートでいようとし、ペースをしっかり安定させようとしていた。ラインを閉じることもしなかった。ラインを閉じたら僕の後ろにいるライダーにオーバーテイクされる可能性があると思っていたから。僕はただ、力強く、速く走るのにできるだけベストなラインをとろうとしたんだ。だからレース中ずっとコンスタントに速く走れたのかもしれない」

 レース中盤以降までバニャイアを追随し、3位を獲得したビニャーレスは「2020年にペッコ(フランセスコ・バニャイア)にすごくプレッシャーをかけて、彼がちょっとミスをしたことが頭にあったから、序盤はトライしてみたよ。でも、彼はよくなっていたね(笑)。ちょっとのミスもしなかったんじゃないかな」と、思惑通りにいかなかったと明かした。

 終盤にバニャイアに迫ったバスティアニーニは、0.034秒という僅差の2位。「勝つために自分のポテンシャルを出し切ろうとしたよ。でもペッコはすごくいい走りをしていた。4コーナーでトライして、アウト側にいった。加速で抜こうとやってみたけど、でもまあ、オーケーさ」と最終ラップでの勝負を振り返っている。

■クアルタラロ5位、A.エスパルガロ6位でともに表彰台を逃す

 チャンピオンシップリーダーであるクアルタラロは、5位でゴール。

「あれが限界だった。100パーセントの力を出し切ったのがわかっているから、怒りよりもがっかりしている気持ちの方が大きいよ。あれ以上は戦えなかった。でも僕のペースはプラクティスにとても近かったし、通常のペースのように感じていた。ただ、オーバーテイクをしたり、ほかのライダーと同じように走ったりすることはできなかったんだ」と語っており、全力を尽くしバイクもペースも悪くなかったにもかかわらずの5位、という結果に悔しさをにじませた。

 一方、チャンピオンシップでランキング3番手に後退したアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング)は、おおよそ予想していた結果だったらしい。「僕のライディングスタイルでは、オーストリア、ミサノ、アメリカはかなり厳しいレースになるだろうと以前も言っていた。アメリカはひどかったけど、オーストリアとミサノは6位。今は(クアルタラロと)33ポイント差だ。悪くないよ」と、苦手なサーキットを6位で終え、まずまずの結果ととらえているようだった。

 バニャイアが地元サンマリノGPで優勝を飾ったことで、チャンピオンシップのランキングでエスパルガロを抜き2番手に浮上した。ランキングトップのクアルタラロとの差は30ポイント。サマーブレイク前のオランダGP終了時点ではクアルタラロと66ポイントの差があったわけだから、イギリスGPから始まった後半戦の3戦で36ポイントを詰めたことになる。

 しかし、バニャイアは「30ポイント差はまだ大きい。だからそこに集中したくない」と、己に集中したいと語る。

「チャンピオンシップのことはチャンピオンシップリーダーと5~10ポイント差になってから考えるよ。ここまで僕はチャンピオンシップを考えてたくさんミスをしてきた。今の僕の目標は、常に戦える状態にあること、常に速く、常に上位にいることだ。そして、優勝にトライし、ライバルの前でゴールすることだね。これがシーズン後半戦の鍵になっていると思うんだ。だからチャンピオンシップについては考えたくない。自分の目標にもっと集中して、週末のやることに集中し続けていたいんだ」

 とはいえ、「チャンピオンシップについて考えない」ことが、裏を返せばバニャイアの「タイトル争いへのアプローチ」とも言えるのではないだろうか。少なくとも、後半戦のバニャイアの快進撃はタイトルを争うライバルたちにとって、脅威であることは間違いないだろう。

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