福島県田村市が復興を加速するための「地域おこし協力隊」を募集

どこにでもありそうな田舎町の、ここにしかない挑戦

福島県の中央部に位置する人口3万5千人の田村市。市内の約7割が山林という土地柄か、まず目に飛び込んでくるのは一面の緑だ。南北に走る阿武隈高地の大自然は、まさに圧巻の一言に尽きる。地元の人たちは「どこにでもありそうな田舎町」だと語るが、裏を返せばそれは、誰もが心に思い描く故郷の風景そのもの。初めて訪れるのに不思議な懐かしさを覚える人も多いはずだ。

そんな田村市が現在、地域おこし協力隊を募集している。
東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故の影響などもあり、人口減少や産業の空洞化など田村市が抱える課題は多い。だが田村市は今、「持続可能なまちづくり」の実現を目指して様々な挑戦をし、大きく変わろうとしている。

今回はその背景や協力隊の詳しい仕事内容について、受託先のひとつである「一般社団法人Switch」の代表理事・久保田健一さんに話を聞いた。

復興の先頭を走る、田村市の本気

Switchは2018年、田村市出身の久保田さんが地元の仲間たちと共に立ち上げた団体だ。

「僕を含めてみんなそれぞれ地域に課題感を持っていて、それを解決するための依りどころとしてSwitchを作ったんです」

それまで13年間広告代理店でデザイナーをしていた久保田さん。その久保田さんが真っ先に取り組んだ課題は、田村市に選択肢を増やすことだった。例えば仕事。田村市には農業や工場での仕事は多いがデスクワークは少ない。仕事の選択肢を増やすことは当然、定住者を増やすことにもつながる。市と協力してまずは廃校を活用したテレワークセンターを設立した。

そこをビジネスの拠点として運用しながら、空き家の活用促進、起業サポートなど多岐に渡る活動を展開。その中のひとつが、今回募集している地域おこし協力隊の受け入れだ。すでに協力隊の受け入れを開始して4年目。現在は5人の協力隊が地域の課題解決ややりたいことの実現に向けて活動している。

「メンバーはみんな、様々なバックボーンを持っています」

例えば、神奈川県出身の岡嵜大治郎さんは自動車メーカーで設計の仕事をしていたが、ものづくりに関わりたいという想いから地域おこし協力隊に参加。田村市の豊かな森林資源を活用した事業に取り組んでいる。また、岩手県出身の佐々木馨さんは結婚を機に働き詰めの生活を見直し、過ごしやすい環境で暮らしたいという想いから田村市に移住。妻と犬2匹、猫1匹に囲まれて暮らしながら、地域での事業創出に取り組む。

市の移住促進パンフレットには、木こり兼デザイナーとして活躍する女性や、田村市産のホップを使ったクラフトビールを作る青年、種まきから収穫までを全自動で行うレタスファームを設立したベンチャー企業代表など、移住してきた人々の様々な活動が掲載されており、田村市が「持続可能なまちづくり」に向け、積極的に事業支援をしていることがよくわかる。

だがここまでの道のりは、決して平坦ではなかった。2011年に起こった東日本大震災、そして福島第一原子力発電所の爆発事故。一部がその被災地域に該当したこともあり、田村市内でも避難者が出た。人口は減り、倒産する企業も出て、当時の町からは活気が消えた。それでも他の被災地に比べれば被害は少なかった。避難者もすでに9割が戻り、復興の先頭を走る形になった田村市にとって、この地域おこしは特別な意味を持っている。

「この取り組みが、福島全体を盛り返すことに繋がれば」

久保田さんの言葉から感じられたのは、田村市の本気だ。福島の復興を加速させるための、新たな風――その風を起こすために、力を貸してくれる人が欲しい。それがこの募集の背景にある想いなのだ。

田村市「地域おこし協力隊」の主な仕事は3つ

今回募集する地域おこし協力隊は、3つのポストに分かれている。ここからはそれぞれの特色について説明したい。

募集① 移住促進事業を手伝ってくれる「地域おこし協力隊」

まず1つめが「移住促進」に関わるポスト。先ほどもお伝えしたように原発事故の影響に加え、少子高齢化の波もあり、人口減少は大きな課題だ。そこで田村市への移住・定住を促進する協力隊を募集する。

求められるのは、田村市の魅力を発信したり、体験してもらえるような企画を考えたりできる人材。また、仕事内容には移住に関心を持ってくれた人への対応や、現地でのアテンドも含まれる。コミュニケーション能力に自信がある、企画やプロモーションを考えたり仕掛けたりするのが得意だという人には打ってつけの仕事だ。

田村市にはまだまだ発見されていない魅力がたくさんある。自分が見つけた新たな魅力をプロデュースし、町に人を呼び込み活性化していく。やりがいが大きいことはもちろん、わくわくする体験になることは間違いないだろう。

【募集内容:地域資源を活かした移住促進】
田村市における新たな人の移住・定住の促進を図り、地域に活力を呼び込む事業を一緒に企画運営していただきます。

【主な業務】
・プロジェクト、ツアー、イベントの企画・実施
・地域コンテンツ、コミュニティ創出、活性
・移住関心者の相談対応、現地アテンド
・情報の発信、プロモーション等

募集② 新たなビジネスを生み出してくれる「地域おこし協力隊」

2つめは田村市の地域特性を活かしたビジネスで「起業」を目指すポスト。原発の影響などで産業が空洞化した田村市で最も大きな課題は、新たなビジネスをこの地で生み出すこと。「持続可能なまちづくり」を実現するためには、地元発のビジネスで経済を回していける枠組み作りが急務になる。

理想としては、地域の資源や地域課題に紐づいた事業であること。例えば建材として高く評価されている「田村杉」を使ったものづくりや、地元で生産された野菜や果物を使った商品開発。もちろんテレワークを活用したビジネスでも構わない。久保田さんの話にもあったように、田村市にはデスクワークの仕事が極端に少ないという課題がある。今はパソコン1台あればどこでも仕事ができる時代だ。ぜひ自由なアイデアで新たな事業を生み出してほしい。

このポストは、協力隊という制度を使いながら3年間で起業を目指してもらう制度。活動中は地域おこし協力隊としての給料が出るだけでなく、創業スタートアップに関する補助金も出る。起業を考えている人にとってはまたとないチャンスだ。

【募集内容:地域特性を活かしたビジネスの起業】
田村市の地域特性を活かした事業創出に向けた活動を行っていただきます。

【主な業務】
・ビジネスアイデアの実現(事業化)に向けたテスト事業の実行及び検証
・事業化に向けた振り返り及び進捗状況の報告
・本市住民等に対するヒアリングを始めとする市場調査
・類似事業の分析
・その他、本市及び支援機関との相談の上で実施する事業化に向けて必要な活動

募集③ 観光に関わる企画やプロモーションを行う「地域おこし協力隊」

そして3つめが「観光」を軸にしたポスト。田村市には様々な観光施設がある。代表的なものを上げると、8千万年の歳月が作り出した鍾乳洞の「あぶくま洞」や日本でも数少ないケイビング体験が楽しめる「入水鍾乳洞」。田村市産ホップ100%で作られるクラフトビール醸造所、オートキャンプ場、ロッジ、農業体験のできる畑などを有する「グリーンパーク都路」。そして、自然の中でカブトムシの生態に直接触れることができる「ムシムシランド」など。

これらの施設を使ったイベントや企画、プロモーションを行うのが「観光」を軸にしたポストの主な仕事になる。体験型メニューの開発や、効果的なプロモーションを自由な発想で考え、田村市への観光につなげ、盛り上げてくれる人材が望まれる。震災の影響などで減った観光客を、ぜひその手腕で回復させてほしい。

【募集内容:観光に特化した企画・プロモーション等】
田村市の観光施設を始め、まだ知られていない地域資源を用いて観光活性、観光地化の実現に共に取り組んでくれる仲間を募集します。

【主な業務】
・あぶくま洞や入水鍾乳洞の企画・プロモーション人材
・グリーンパーク都路の企画・プロモーション人材
・ムシムシランドの観光推進へ向けた企画・プロモーション人材
・体験型観光コーディネーター

【待遇:3ポスト共通】
月給225,000円(基本給196,000円/固定残業代20時間相当29,000円含む)
※社会保険、雇用保険の対象/上記から所得税・社会保険料等の本人負担分が差し引かれます
※その他、住居費(月額60,000円上限/共益費・光熱費は自己負担)や活動用車両の借上費・ガソリン代(月額25,000円上限)等の補助あり

※それぞれの詳細は「田村市地域おこし協力隊募集ページ」にてご確認ください
URL:https://tamura-iju.com/chiikiokoshi

田村市の地域おこし協力隊は「一般社団法人Switch」に所属する形で最長3年間、その仕事に従事することになる。どんな人に向いているかと尋ねたところ、久保田さんからはこんな答えが返ってきた。

「4年目以降を見据え、自分がやっていきたいことの延長の中でこの地域を選んでもらえたら」

確かに、ボランティア精神のみで参加すると続けていくのは難しいかもしれない。3年という区切りはあるものの、大事なのはその先だ。自分の“生業”をこの地で作っていくという強い想いで、4年目以降の活動も視野に入れた計画が求められる。とはいえ、完璧なものが求められているわけではない。

「例えばビジネスを実現させるために組合や企業との調整が必要なら僕らが仲立ちしますし、ひとりで頑張る必要はまったくありません」

普通にビジネスを興そうとすれば、そこに賛同し協力してくれる人、投資をしてくれる人、様々な調整をしてくれる人を探すのはとても骨の折れる作業だ。だが協力隊として田村市で起業を目指すのであれば、それらが始めからすべてついてくる。何より自分の夢を実現し、かつそれが復興にもつながるのなら、やりがいとしてこれ以上のものはないだろう。

並んで、手を取りあって、共に楽しみながら「まちづくり」を

「まさしく、やりたいことがある人にとって、田村市の地域おこし協力隊はこれ以上ないフィールドだと思います」
田舎暮らしの不便さを心配する人もいるかもしれないが、田村市はとても暮らしやすい街だ。福島というと雪深い印象を持つが、田村市の場合、連続した降雪期間は短く、雪に悩まされることもほとんどないという。それにくわえて夏は涼しく過ごしやすいというのだからありがたい。また大型スーパーや複合施設などもあり、買い物にも困らない。

移住前に現地を見てみたいという人には、交通費を補助する制度もある。移住することになった場合、一世帯につき200万円(単身者の場合は120万円)の移住支援金や、住宅取得やリフォームに対する補助金など、手厚いサポートが用意されている。

そして何より大きいのは、仲間として温かく迎え入れてくれる人たちの存在だろう。

「並んで、手を取りあって、共に楽しみながらやっていくのが田村のスタイル。上からものを言うような人はいないので安心してきてください」

実際に久保田さんと話していて感じたのは、人との間に壁を作らない大らかさ。未来のために今を犠牲にするのではなく、あくまで今を楽しみながら未来につなげていくという姿勢だ。
ここでならきっと、のびのびとやりたいことに取り組めるだろう。

その一歩が、未来を変えるきっかけに

コロナ禍で人々の価値観や働き方は大きく変わった。自分の生き方を見直し、地方で暮らすことを視野に入れている人も少なくないだろう。テレワークが当たり前になりつつある今、生き方にも多様な選択肢があっていい。地元の選択肢を増やすために田村市が始めた多くの挑戦。そのために募集される「地域おこし協力隊」。奇しくもそれは、都会に住んでいる人々にとっても新たな選択肢のひとつになっている。

都会で自分をすり減らすより、もっと大きなフィールドでチャレンジしてみたい。自分の可能性に賭けてみたい。そんな人はぜひ、今回の募集を真剣に検討してみてはいかがだろうか。

5年後、10年後の自分を好きでいられるかどうかは、もしかしたら今踏み出そうとしている、“その一歩”にかかっているのかもしれない――。

取材・文/御堂うた

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