ファン・ジョンミンが拉致られた!『人質 韓国トップスター誘拐事件』約90分ノンストップの傑作サスペンス・アクション

『人質 韓国トップスター誘拐事件』© 2021 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & FILMMAKERS R&K & SEM COMPANY. All Rights Reserved.

「べらぼうに面白い」で終わりにしたい

ファン・ジョンミンはもはや韓国の国民的スターではなく、韓国と私の中でのトップスターであり、私の方が遥かに年上であるにも関わらず、「ヒョンニム」と呼ばせてもらっている。全然会ったことないけど。

その彼が誘拐されたのである、というお話ができました。本当のことを言えば、最初はファン・ジョンミンが誘拐されたという設定に無理はないが、なんかあざとくねえか、とやや首を傾げながら入魂の試写に臨んだのだが、「大変なことになった」と心穏やかならぬものを感じてしまったのは、騙され上手の私ゆえか。

とにかく、ある夜ファン・ジョンミンは誘拐されたのである。人って簡単に誘拐されちゃうのね。お金と名声だけは持つもんじゃない。気がつけば、どこだかさっぱり見当のつかない汚い部屋のパイプ椅子に座らされ、こんなに上手に誰が縛ったというほどの丁寧さで縛られてしまっていた。おまけに彼以外にもうら若き女性が誘拐されており、「オメー、金持ってないんなら死ぬしかねえな」と脅されている。

彼はどんな役もこなす一流の俳優ではあるが、当たり前だが映画の中のように強くはない。オラオラでやりたい放題の刑事のように振る舞い、「お前ら全員逮捕」と叫ぶのはいいが、犯人がそんなことで怯むわけがない。「あの役の調子でやってみて」と余興を要求されるわけでもない。いや、やっぱりやらされた。しかし、犯人は金が欲しいのである。大金が。払ってやればいいじゃん、お金あるんだから、という単純な話ではなさそうで、どうにもややこしい。こいつらたちが悪そうで、明らかに今回が初めてではないし、リーダーは頭がいい。

よし、では、ファン・ジョンミンにできることは何か。ファン・ジョンミンという卓越した役者にできることは演技しかない。しかし、演技でどうにかなるものか。できなかったら終わりだもん。「ヒョンニム、頑張って」と私は祈るばかりなのである。

なぜそんなに面白い

この作品、エンドロールを除くと90分弱。短ければいいわけでもなく、長いとつまらないというわけでもない。ただ、このタイプのサスペンス・アクションで90分弱ということはまずない。では、何がそんなに面白いのか。

脚本がギリギリまで練られている。一見単純なストーリーだが、細かなシーンにこだわり、どう展開するかを観客に読ませない。それはこの作品に限ったことではなく韓国映画全般に言えることだが、90分弱であること、ファン・ジョンミンの使い方を考えるとちょっとすごくね、と独り言。

どのくらい脚本を書き直したのか聞いてみたいが、なぜかこの作品の公式サイトはシンプルすぎるほどシンプルで、撮影小話等、一切載っていない。ファン・ジョンミンがファン・ジョンミンを演じることについてどう思ったかも書いてない。予算がなかったからなのか、作品真っ向勝負できたのか。

そして、結果的に無駄がない。どのくらい撮影したのかわからないが、必要なカットだけしか使っていない。タンタンタン、ギューン、クルリ、ドーン、ピタ。頼む、日本でもこういうの作って。

別に、たとえば岡田准一に岡田准一の役をやらせて作って欲しいわけではない。それはそれで面白いかもしれないが、もういいじゃないか、漫画原作ものは。映画作りに必要なのは熱と金といい役者だ。良い役者は日本にもいるのである。脚本と監督さえしっかりしていれば、演じられる人はたくさんいる。若い人の中に驚くような才能を感じることも最近多い。

熱はあるのかないのかわからないが、もっともっともっとぶつけたいものをフィルムに残そうじゃないか。金はもう日本にはない。いや、実は日本が大金持ちだった頃から映画産業にはお金がなかった。海外配給できない限り、いくら金を使っても回収できない作品に金を出す人間はいなかった。会社もなかった。これで終わりか日本映画、という事態は避けたいじゃないの。映画は儲かるなあ、俺もやろうという人が次々に出てくる状況を作ろうじゃないか。金がなくてもいいものができました、では終わりますよ。

毎回、韓国映画を取り上げるたびに書いているのだが、配信の韓国ドラマがあれだけ観られている中、最高に面白い韓国映画が観られていないというのはどういうわけだ。配信だとコスパがいいからかしら。この作品は絶対に損させないから、映画館にゴー。

文:大倉眞一郎

『人質 韓国トップスター誘拐事件』は2022年9月9日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

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