『グッバイ・クルエル・ワールド』で注目、ボビー・ウーマックのベスト・ソング

Photo: Gijsbert Hanekroot/Redferns

ボビー・ウォーマック(Bobby Womack)は1950年代にウーマック・ブラザーズやヴァレンティノスで歌手としての活動を始め、70年代以降は素晴らしいソロ・レコードを発表してきた。そうしてシンガー、ソングライター、ギタリストとして信じられないほどの成功を成し遂げ、多彩なキャリアを築き上げることになった。

オハイオ州クリーブランドで生まれ育ったウーマックはゴスペルを基礎としたミュージシャンだったが、彼が名声を手にしたのはR&Bの世界でのことだった。この2つのジャンルで原動力となっている要素、つまり神の聖なる愛と世俗的な欲望は、しばしば相反するものとして考えられている。しかしウォーマックの楽曲を聴けば、どちらの要素も同じ源から来ていることがよくわかる。荒々しく力強い歌声と叙述的で物語性のある曲作りによって、彼はブルース、ゴスペル、R&Bの偉人となっていた。

ここからは、約40年にわたってボビー・ウーマックが生み出してきた数々の名曲をご紹介していこう。

1. If You Think You’re Lonely Now

地球上に現れた偉大なるソウル・シンガーのひとりであるボビー・ウーマックは、愛と欲望に関する歌をたくさん作り出してきた。「If You Think You’re Lonely Now」は、長年にわたって数え切れないほどカヴァーされてきたスタンダード曲だ。ここでのウーマックの歌声には、がむしゃらで超越的な響きがある。恋人に理解を求め、叫び、懇願する彼の声には、R&B、ゴスペル、ブルースの遺伝子が混ざり合っていた。

2. Where Do We Go From Here

「If You Think You’re Lonely Now」と同じく名盤『The Poet』に収録されたこの楽曲はR&Bチャートで26位とスマッシュヒットを記録した。ジム・フォードとボビーによって作曲されたこの楽曲には、ピアノで奏でられたR&Bらしさとボビーの歌声がハーモニーを奏でている。

3. Love Has Finally Come At Last

ボビー・ウーマックは、フィリー・ソウルの伝説的歌手パティ・ラベルと数多くの楽曲で共演してきた。そのひとつ「Love Has Finally Come At Last」は、『The Poet II』収録曲の中でも傑出した曲となっている。

このデュエット曲のスムーズでセンチメンタルなサビの途中で、ボビーとパティは素晴らしいヴォーカルを披露している。その見事な掛け合いのあいだ、ボビーのしゃがれ声とパティの技巧的な歌声は完璧なコントラストを描き出していた。これを聞けば、2人が実に多くのコラボレーションを残してきた理由がわかるだろう。

4. California Dreamin’

また「California Dreamin’」も、ウーマックがカヴァーの天才であることを証明している。これは、ママス&パパスが有名にした曲を猛烈にカヴァーしたヴァージョンだった。彼の力強い歌声は、憧れをテーマとしたこのお馴染みの曲に新たな一面を加えている。

5. Woman’s Gotta Have It

1972年に発売され、サム・クックの娘であり、ボビーの弟のセシルと結婚したリンダ・ウーマックとダリル・カーターと共作した楽曲。後年、ウェンディ・マシューズやジェームス・テイラーらにカバーされている。元々ジャッキー・ウィルソンを意識して書かれた楽曲はR&Bチャートで1位、ポップチャートでも60位を記録した。

6. I’m Looking For A Love

ボビーも在籍したヴァレンティノスの1962年のヒット曲を、1972年にボビーがソロでセルフカバーしてR&Bチャート1位、全米シングルチャート10位と大ヒットした楽曲。コーラス主体の楽曲をセクシーにアレンジしており、ボビーの成長した歌声もセクシーな1曲だ。

7. That’s The Way I Feel About Cha

「That’s The Way I Feel About Cha」はウーマックの最も有名な曲の1つで、ゆっくりと燃えるようなブルースの力作である。ここでは堂々とストリングスやマッスル・ショールズ・リズム・セクションのグルーヴィーなバッキングと共に、ボビーが愛と欲望の賛歌を歌い上げている。

8. [No Matter How High I Get] I’ll Still Be Looking Up To You

ゴスペルは、ずっと昔からR&Bに大きな影響を与えてきた音楽だった。ボビー・ウーマックの曲も、多大なる影響を受けている。「[No Matter How High I Get] I’ll Still Be Looking Up To You」を聞けばわかるように、ウーマックはゴスペル・スタイルの音楽を無理なく自然にこなすことができた。

彼の父フレンドリー・ウーマックはゴスペル・シンガーであり、ギタリストだった。また彼の母ナオミは教会でオルガンを弾いていた。最高のゴスペル・シンガーは神というテーマを情熱的に歌い上げるが、多くの偉大なソウル・シンガーはそれと同じくらいの熱意で愛と誘惑というテーマにアプローチできる。ボビーもそんなソウル・シンガーのひとりだった。

9. Jesus Be A Fence Around Me

1999年に発売された21枚目のアルバム『Back to My Roots』収録楽曲。ゴスペル・アルバムである本作の他の収録楽曲と同じく、R&Bも歌えるボビーだからこその歌声を担当できる楽曲だ。

10. Medley: Monologue / (They Long to Be) Close to You

ボビー・ウーマックの3枚目のスタジオ・アルバム『Communication』収録のメドレーで、特に後者は純然たるゴスペルではなく、バート・バカラックが作曲し、カーペンターズが歌い大ヒットとなった名曲だが、前半のモノローグはまるで教会での説教のように響きわたる。

11. Fire And Rain

同じく『Communication』に収録された楽曲で、こちらはジェイムス・テイラーのカバー曲だ。

12. I Can Understand It

ボビー・ウーマックは、何の理由もなく「詩人」と呼ばれるようになったわけではない。彼の情感豊かな歌は、緻密な物語の形式で展開されることが多かった。うまくいかなくなった恋愛を歌った「I Can Understand It」は、ボビー・ウーマックが作った曲の中でも特に有名で人気の高い作品のひとつである。気まずくなっていく関係を物語るうちに、彼の歌声はどんどん自暴自棄なものになっていく

13. Across 110th Street

1972年に公開された映画の主題歌「Across 110th Street」は、ウーマックの映画的な曲作りの好例である。ノリのいいリズムと劇的なオーケストラ・アレンジをバックに、彼はゲットーでの生活や苦しみを鮮やかに描き出している。

14. Nobody Wants You When You’re Down And Out

5枚目のアルバム『Facts of Life』に収録されたナンバーで、1929年のブルース楽曲のカバーだ。禁酒法時代に裕福だった人物の視点から語られるこの楽曲では、物質的な富のはかなさや、富によって移り変わる友情について歌われているがボビーはけだるくも、激しいヴォーカルを聴かせてくれる。

15. Daylight

1975年に発売された8枚目のアルバム『Safety Zone』。ハロルド・ペインとの共作曲では、午前5時まで続くナイトライフの狂騒を歌い上げる。

16. Stand Up

ボビー・ウーマックは、年齢を重ねても決して実験をやめようとはしなかった。たとえば『Resurrection』や『The Bravest Man In The Universe』といったキャリア後期のレコードでは、新しい音楽的アプローチに挑戦している。1982年に発表されたファンキーなポスト・ディスコ作品「Stand Up」は、ウーマックの順応性の高さを証明していた。

17. Good Ole Days

1994年、ザ・ローリング・ストーンズのメンバーが参加した20枚目のアルバム『Resurrection』に収録されたこの曲は、レゲエとシンセのサウンドを聴かせる。

18. The Bravest Man In The Universe / 19. Please Forgive My Heart / 20. Dayglo Reflection

一方、2012年の27作目のアルバム『The Bravest Man In The Universe』では、「Please Forgive My Heart」、「Dayglo Reflection」、そしてアルバム・タイトル曲の3曲が傑出した曲となっている。

どの曲も、ウーマックの特徴的なヴォーカル・スタイルと刺激的な最新の音作りの組み合わせで作られていた。このアルバムは野心的な作品であり、さまざまな方面に渡る長いキャリアの最後を飾るのにふさわしいものに仕上がっている。

Written By John Morrison

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2022年9月9日公開映画『グッバイ・クルエル・ワールド』
オープニングとエンディング曲に、ボビー・ウーマックが歌う楽曲が起用
映画のオープニング曲「What Is This」
映画のエンディング曲「California Dreamin’」

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映画『グッバイ・クルエル・ワールド』
2022年9月9日劇場公開

出演:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和、奥野瑛太、片岡礼子、螢、雪次朗、モロ師岡、前田旺志郎、若林時英、青木柚、奥田瑛二、鶴見辰吾

監督:大森立嗣
脚本:高田亮

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