THE King ALL STARSの1stアルバム『ROCK FEST.』は加山雄三が最高のロックアーティストであることの証明

『ROCK FEST.』('14)/THE King ALL STARS

8月26日、加山雄三の新曲「海が男にしてくれた」が配信リリースされた。ご存知の方も多いことだろうが、氏は2022年内をもってコンサート活動から引退することを発表しており、通常のコンサートとしては9月9日に東京国際フォーラムで行なわれる『加山雄三ラストショー~永遠の若大将~』が最後となる。完全引退ではなく、楽曲制作は続けるというから、御齢85歳にして、そのバイタリティーはまだまだ衰えぬというところだろうか。素晴らしい。今週はその加山雄三の作品から、THE King ALL STARSのアルバムを取り上げる。

日本芸能史のスーパースター

加山雄三は日本のロックシーンを創り上げたアーティストである。これは疑いようのない事実だ。日本のロックの元祖は…という話になると、1968年にデビューしたジャックスという見方をする人もいれば、日本語でのロックを確立したというところで言えば、1970年のはっぴいえんどという人もいるだろう。また、それ以前、1966年頃のGSブームはThe Beatlesから多大な影響を受けているわけで、ザ・スパイダースやブルー・コメッツを日本のロックの始祖と位置づける人もいる。

The Beatlesより少し前に日本ではThe Venturesが人気となり、そこに端を発したエレキブーム(=エレキギターで演奏される楽曲の流行)が起きている。それを考えると、寺内タケシのブルー・ジーンズ辺りが始祖とも考えられる。そうなると、その同時期に活動していた内田裕也、かまやつひろしらも無視はできないし、彼らも出演したイベント『日劇ウエスタンカーニバル』を開催するきっかけとも言われている“ロカビリー三人男”(=平尾昌章、ミッキー・カーチス、山下敬二郎)こそが元祖中の元祖と見る向きもあろう。

まぁ、何を以て日本のロックと言うかによって意見が分かれるところだろうし、正直に言えば(ここまで書いておいて何だが)どこが元祖であっても大きな問題はないと思う。そうした先人たちの情熱と創造力によって今日の日本のロックシーンがあるわけで、誰一人スポイルしてはならない偉人たちであることも、これまたまた間違いない。加山雄三はそんな伝説のミュージシャンと並んでもまったく遜色がないばかりか、日本のロックに決定的な影響を与えてきたアーティストのひとりと言える。そう断言することに何ら躊躇はない。

そうは言っても、今は加山雄三と聞いて即ちロックのイメージを持つ人は少ないかもしれない。直近では、氏のコンサート活動引退に伴って、今夏のテレビでの歌唱が最後であったことも話題になった、『24時間テレビ』のテーマソングである「サライ」の作者というイメージを持たれている人は多いことだろう。また、少し前、街ブラロケ番組をやっていた印象を持たれている人もいるだろうか。あるいは、何と言っても、氏の代名詞ともなった映画『若大将シリーズ』を思い出す世代もまだまだ多いことだろうし、シネフィルにとっては、黒澤 明、成瀬巳喜男、岡本喜八といった日本を代表する映画監督作品での名演を挙げる人もいるに違いない。もちろん、そのどれもが間違ったものではないし、いずれも、氏が長い間、スクリーンからテレビに至るまで、世代を貫いて愛されてきた、まさしくスターであることを証明している。だが、しかし、決してロックミュージシャンとしての加山雄三を忘れてはならないのだ。それを語り継ぐことは音楽ファンの義務でもあると思う。

山下達郎、桑田佳祐の熱きリスペクト

加山雄三にロックのイメージが感じられない人向けに、まず氏がいかにロックであるのかを簡単に述べてみたいのだが──。1950年代後半、大学在学中にElvis Presleyに衝撃を受けてバンド、カントリー・クロップスを結成し、そこでヴォーカル&ギターを担当したとか、件の『若大将シリーズ』で主人公が劇中で歌うというのはそのElvis Presleyと同じ手法だったとか、その『若大将シリーズ』での劇中歌は氏が“弾厚作”名義で作られたものも多く、氏はシンガソングライターの草分け的な存在であったとか、そうした来歴を細かく説明していく手もあるにはあるのだけれど、氏が後世に与えた圧倒的な影響について説明するのが手っ取り早かろう。山下達郎と桑田佳祐。この説明不要の日本を代表するアーティスト両名は加山雄三からの影響を公言している。加山雄三なくして現在の山下達郎も桑田佳祐もいなかった…なんてことはないだろうが、加山雄三からの影響がなければ両名は今とは少し趣を変えていたことだろう。

まず山下達郎。初めて買った邦楽の歌もののレコードは「君といつまでも」だったという。それは氏が13歳の時。“多感な10代において、歌モノの最初の入口が弾厚作、岩谷時子だったことは幸運だった”と述懐していたと聞く(※註:岩谷時子は作詞家)。1998年の11thアルバム『COZY』では加山雄三の「BOOMERANG BABY」をカバーしたことでも知られている。そして、桑田佳祐。ともに神奈川県茅ケ崎市出身であって、桑田氏にとって加山氏は同郷の先輩である。加山氏が経営していたパシフィックホテル茅ヶ崎で桑田氏がアルバイトをしていたことがあり、サザンオールスターズの「HOTEL PACIFIC」の舞台はこのホテルというのは、両名のファンの間では有名な話だ。[2017年4月11日、桑田佳祐・原由子夫妻と山下達郎・竹内まりや夫妻が発起人になりブルーノート東京を貸し切り80歳の誕生日会が実施]されたという。この日は[星野源と水谷千重子(友近)が参加]しており、桑田夫妻と山下夫妻のバックコーラスで加山氏が歌うという場面を間近に見た星野は自身のラジオ番組でかなり興奮して語っていた…なんてエピソードもある([]はWikipediaからの引用)。これらの逸話だけでも山下達郎と桑田佳祐とがどれほど加山雄三のことが好きかを分かってもらえたのではないだろうか。

加山氏から影響を受けたミュージシャンはもちろんこの御大ふたりだけではない。枚挙に暇がないので山下氏と桑田氏に止めたが、大瀧詠一、さだまさし、THE ALFEEらも氏への敬愛を表に出しているし、交流も深い(申し訳ないが、その辺は割愛させていただく。何卒ご容赦いただきたい)

世代を超えたスーパーバンド

ザっと説明するつもりが大分スペースを使ってしまったけれど、それ自体が加山雄三というスターの偉大さ、奥深さを表していることとご理解いただきたい。加山雄三がロックであることは、こんなコタツ記事を読むよりも何よりも、氏がこれまで発表した音源を聴くのが最適であるのは言うまでもなかろう。『加山雄三のすべて~ザ・ランチャーズとともに』(1966年)や『恋は紅いバラ -加山雄三アルバム-』(1966年)、ライヴアルバムである『オン・ステージ(ランチャーズと共に)』(1968年)、さらにはインスト曲のセルフカバー『ブラック・サンド・ビーチ』(1994年)辺りを聴くのがいいと思うが、当コラムではTHE King ALL STARS『ROCK FEST.』を推したい。

知らない方のために、これもまたザっと説明すると、THE King ALL STARSとは、加山雄三を中心として2014年に結成されたロックバンド。2013年に行なわれた音楽フェス『ARABAKI ROCK FEST.13』に出演した加山雄三 & ARABAKI YOUNG KING BANDを発端にメンバーが集ったものだ。このメンバーもすごい。フェスによく行くという音楽ファンであれば、その名を聞いただけでも盛り上がる面子であろう。THEATRE BROOKの佐藤タイジ(Gu)、コーパス・グラインダーズの名越由貴夫(Gu)、The HIATUSのウエノコウジ(Ba)、勝手にしやがれの武藤昭平(Dr)、Benzoの高野 勲(Key)、ex.のオトナモードの山本健太(Key)。ここまでが『ARABAKI ROCK FEST.13』で演奏したメンバー。そこに加えて、MONGOL800のキヨサク(Vo)、THE COLLECTORSの古市コータロー(Vo)、SOIL&"PIMP"SESSIONSのタブゾンビ(Tp)、そして、パフォーマーとしてスチャダラパーの3人、BOSE(MC)、ANI(MC)、SHINCO(DJ)の総勢13人によるスーパーバンドである。

このうちの3、4人でバンドを組んだだけでも十分に話題になる面子だ。キャリアも豊富な手練ればかりで、演奏面での不安は何もなく、普通に考えて変な音源が出来上がるわけもないが、“船頭多くして船山に登る”の喩えもある。バンドのリーダー格が集まることでかえってまとまりがつかない…なんて可能性がなくはなかったとも思う。具体例は挙げないが、2、3人でも船が山に登っているというか、登りもしないようなことはかつていくらでもあった。けれど、THE King ALL STARSと、その1stである『ROCK FEST.』はまったくそうなっていない。何気にそこはすごいと思う。それは加山雄三という存在がバンドの中心となっているからに他ならなかったのだろう。

氏が他メンバーの精神的な支柱となっているのは当然として、収録曲のチョイスからもそれが分かる。M2「未来の地平線」とM10「ブレイブリーハーツ」はこのバンドのオリジナルだが、それ以外は加山雄三がかつて発表してきた楽曲ばかりである(M1「SEE SEE RIDER」はスタジオ音源ではこれが初収録のようであるが、氏も敬愛するElvis Presleyのカバーであり、ライヴでは披露している)。加山雄三が歌い、加山雄三がギターを弾くことを前提としていることで、いい意味で演奏が整理されている印象がある。見方を変えれば、加山雄三の懐の深さ、その中で他のメンバーが自由にやっている。そんな感じが随所にある。例えば、M3「Crazy Driving」。原曲からしてガレージ感のあるサーフロックで、このTHE King ALL STARS版もその辺りの空気感は見事に引き継ぎつつ、途中から原曲にはないタブゾンビのトランペットが表れる。その密集感、グルーブ感が実に素晴らしい。

加山雄三という大樹

M5「Sweetest of All」もいい。テンポを原曲からほんのわずか上げているようであるが、原曲でのいわゆるツイストのダンサブルのノリをまったく壊すことなく、2000年代のR&R;にアップデート。聴きどころは間奏でのギターソロだろう。佐藤タイジ→名越由貴夫→古市コータローと順に披露されるが、それぞれの音色が完全に別もので、特徴のある旋律を聴かせているのが素晴らしい。それをまた加山氏が“佐藤タイジ!”“名越由貴夫!”“古市コータロー!”とシャウトで紹介する声も収録しているのだから堪らない。シビれる。

M6「ブラック・サンド・ビーチ〜エレキだんじり〜」もそう。このM6は、ラップが乗っているという点で言えば、人によってはパッと聴き最も原曲との隔たりを感じさせるものかもしれないが、そのトラックは恐ろしいほどに原曲の雰囲気を損ねていない。というよりも、ほぼ壊していないと言ったほうがいいだろうか。誰が聴いても「ブラック・サンド・ビーチ」であるし、不必要に原曲の旋律、音色、テンポを弄ってない──その辺でかなり意識的にトラックメイクしたような印象が強い。なので、古くからの加山雄三ファンも違和感は少なかろう。

印象が異なると言えば、サイケデリックロックの色合いの濃いM7「Cool Cool Night」に加山雄三のイメージを感じないリスナーがいるかもしれない。とりわけ、途中で転調して入るキーボードや、氏のヴォーカルのシャウトは、明るくポップな“若大将”っぽくなく、「Cool Cool Night」を未聴だった筆者は初めて聴いた時に“おや?”とは思った。で、原曲を聴いてびっくり。『加山雄三のすべて 第三集』収録の原曲もほぼ同じアレンジなのだ。冒頭のリバースは付け足されていたし、ベースの音は分厚くなっているなど、THE King ALL STARSなりのリアレンジはあるものの、ベーシックは大きく変わっていない。原曲のフォルムをシャープにした感じだ。このM7が最たるものだろう。1960年代からの加山雄三の楽曲はもともと骨子が太く、さまざまな要素を受け止めるだけの力を持っていた…そういうことなのだろう。

無論、エレキギターを中心にキャッチーでポップなメロディーを有していたということがその最大の要因だが、もうひとつ、氏の声の良さもそこにはあると思う。インストを除いた収録曲から聴こえてくる氏の歌声には落ち着きがある。単に低いとか太いとかではなく、“兄貴感”とでも言おうか、独特の安心感がある声だと思う。氏の歌を聴くと“It’s all right”という気になってくる。そんな安心感だ。それによって“どんな楽曲での加山雄三が歌えばそれは加山雄三のものになる”ところはあるし、逆に言えば“加山雄三の楽曲は加山雄三以外が歌ってもなかなかさまにならない”とも言える。その意味で、『ROCK FEST.』は実にうまくアレンジがなされ、構成が行なわれているのだと思う。加山雄三の音楽は1960年代からある意味で完成されており、不変であることを証明したのだ。メンバーの氏への敬愛が成せる業であったのだろう。

話はここで終わらない。今回紹介した『ROCK FEST.』は、いわゆるインディーズでのリリースであり、この翌年に発表されたミニアルバム『I Simple Say』がメジャーデビュー作である。この『I Simple Say』がまたすごい。『ROCK FEST.』はここまで説明したように、加山雄三という不世出のロックアーティスト、その大樹に寄り添うように作られたアルバムという見方ができる。もちろん、生半可な技量と覚悟ではその大樹に寄り添うことができないことは言うまでもなく、THE King ALL STARSだからこそ、『ROCK FEST.』をかたちにすることができたと言える。次作『I Simple Say』のすごさは、バンドがそこからさらにもう一段階進んだことにある。少し語弊があるが、『I Simple Say』でTHE King ALL STARSは真のバンドになったという言い方ができるかもしれない。加山雄三がいるバンドではなく、加山雄三もいるバンド。そんな感じだろうか。メンバー全員が等価。収録曲はそういう楽曲だし、そういう音に仕上がっている。本稿で少しでもTHE King ALL STARSに興味を持たれた方がいたら、『ROCK FEST.』はもちろんのこと、是非『I Simple Say』も聴くことをお勧めしたい。バンドが生き物であることがよく分かる。しかも、この時、加山雄三、78歳。その御齢で他のメンバーとフラットにバンドをやれたというのが何よりも素晴らしい。まさにロックである。その事実もまた、加山雄三が邦楽史に名を残す偉大なるロックミュージックの証左である。

TEXT:帆苅智之

アルバム『ROCK FEST.』

2014年発表作品

<収録曲>
1.SEE SEE RIDER
2.未来の水平線
3.Crazy Driving
4.Boomerang Baby
5.Sweetest of All
6.ブラック・サンド・ビーチ〜エレキだんじり〜
7.Cool Cool Night
8.I Feel So Fine
9.Misirlou
10.ブレイブリーハーツ
11.夜空の星(ボーナストラック)

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