友人関係を「メンテナンス」するアプリまで登場?Z世代のインサイトを読み解く

世界の消費者の人口に占める割合が非常に大きい「Z世代」のイ ンサイトを知ることは、これからのマーケティングを考える上で重要な要素のひとつになります。

そこで、ブランドリサーチャー・廣田周作 氏の著書『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)より、一部を抜粋・編集してZ世代のインサイトについて解説します。


世界の消費者の40%が、Z世代

2020年の段階で、世界中の消費者のうち、Z世代が占める割合は40%だといわれています。

中国だとだいたい25%。実に中国人の4人に1人がZ世代なんだそうです。

市場の「パイ」としては大きそうですよね。でも、今私が「パイ」と言ったのは、実はミスリードなんです。塊として見れば大きいかもしれませんが、彼ら・彼女たちは全く塊(パイ)なんかではありません。

十把一絡げに、「この世代はこうだ」と結論づけるのは、非常に危険です。 あらゆる世代がそうであるように、この世代の人々も、なかなか一元的に括ることができません。

まさに「平均的なZ世代の子」などいないのです。

ところで、マーケティング業界には、一定数「若者に詳しい」を売りにする人たちがいますが、どことなく胡散臭さを感じませんか。私は、そもそも若者全体の声を代弁したり、俯瞰して把握できる大人なんて、おそらくどこにもいないと思っています。

自分のことも、自分ではよくわからないですから。

最果タヒの作品のタイトルにあるように、『十代に共感する奴はみんな嘘つき』なわけです。結局のところ、マーケティングの現場で、インサイトを語るというのは「上手な嘘をつけるか」「下手な嘘をつけるか」どちらかでしかないのでしょう。

私もよく、Z世代のインサイトについて語る機会が多いので要注意ではあります。

私自身、最近は頑張って、ラッパーのJP THE WAVYとLEXの「なんでも言っちゃって」という、どこまでも浅はかで楽しい曲を、ティックトック風に踊りながら歌ってみたりするのですが、まぁ滑っています(笑)。

だから、というわけではないのですが、私は若者について、極力「わかる」とは言わないようにしています。

ただ 「私から見ても、こういう面白い人やコンテンツがある」という事実に基づいていれば、その範囲において語ってもいいのではないか とも考えています。

私も仕事の現場では、ファクトや事例は押さえた上で、最後は主観も交えた仮説としてインサイトをお伝えするようにしています。そうでないと責任取れないですから。

結局、誠意を持って他の世代について語るためには、まず客観的なデータをよく集め、自分も感覚的に「好き」と思える世代を超えたカルチャーに触れながら、なるべく「実感」に近いところで想像し、考えてみるしか方法はないと思います。

「わかる」のはおこがましいけれど、「世代を超えて好きなものを見つける」ことはできますよね。

団塊世代が読んでいた『二十歳の原点』(高野悦子著)はちゃんと共感できるところもあるし、ネットフリックスでドキュメンタリー化もされた米国の人気ラッパー、トラビス・スコットが感じた「頑張っている若者が感じた悔しさ」もわかります。世代や国は違っても、同じ人間ですから。

今、文芸誌の『群像』に連載されている竹田ダニエルさんの論考「世界と私のAtoZ」の連載は面白いし、「オフトピック」というポッドキャストの番組内で、ホストの宮武さんや草野さんが紹介するZ世代の新潮流にも共感します。

あるいは、海外のZ世代のトレンドならSubstackの有料メルマガの「High Tea」あたりも読んでみると面白い。

結局は、マーケターも、「全部を俯瞰する」ことは不可能だと考えて、 ある世代で話題になっているものの中に、「自分にとって」魅力的な人やコンテンツがないか、コツコツ探して継続的にリサーチしていくことが大事だと考えています。

そうしないとリサーチなんて、続かないですしね。

Z世代が抱えるメンタルヘルスの問題

他の世代を論じることの難しさはよくわかっていただいたかと思いますが、ただ、その中でも「これは、確かに実在するイシューだ」と言えることもあります。

そのひとつが、若者の「メンタルヘルスの問題」です。

コロナで先行き不透明になってしまったこと、普通に学校に行って友人と会えなくなってしまったこと、政治家の振る舞いやメディアの発信が信頼できないこと、つながりすぎてしまったSNSの中で、むしろ孤独を感じていること……。

これで若者がメンタルにダメージを受けない方が不思議ですよね。

実際、米国APA(アメリカン・サイコロジカル・アソシエーション)が2020年に行った調査によれば、アメリカの18歳から23歳の若者の約70%が2019年にうつ病の症状を呈し、ストレスレベルは6.1(全成人の平均は5)となっています(APA2020)。

学校に行けないことや、将来の計画が立てられないことが原因である、とレポートは伝えています。今、コロナの影響もあり、世界的にもメンタルヘルスに関するサービスや、研究報告が続々と出てきています。

セレブリティがメンタルヘルスに関する話をするのは、従来は「タブー」でしたが、今は大坂なおみや、ビリー・アイリッシュ、BTSのシュガもメンタルヘルスについて発信していますし、あるいは、アパレルでもメンタルヘルスのことをテーマにした「マッドハッピー」が流行したり、メンタルヘルス関係のアプリなども次々と登場しています。

「Z世代は人口も多いし、購買力もありそうだから、ガンガン売っていこう」と、無邪気に考えてはいけないのだと思います。

調査を見ていくと、 Z世代も、とても難しい状況に立たされているし、なんらかの助けを必要としていることがわかってきます。

重い話が続きますが、彼ら・彼女らの置かれている心理的な状況について、事例を交えてお話ししていきます。

孤独が社会的な問題になっている

メンタルヘルスに関連する課題の中でも、孤独の問題が(世代や国境を超えて)議論されています。

英国には孤独問題担当大臣のポストが設置されているということを受けて、日本でも孤独・孤立対策担当大臣のポストが設置された話がニュースになりました。日本も含めて、孤独はパンデミックと同様に大きな社会問題になってきているのです。

高齢者の孤独の問題については、みなさんも、ある程度想像がつくと思うのですが、SNSを使っているZ世代も孤独なんだと聞いて、疑問を抱いた人もいるのではないでしょうか。でも、実はSNSを使っているからこそ、若者が孤独を感じてしまうという逆説が起こっているんです。

つまり、SNSで誰かと誰かのつながりが見えれば見えるほど、「自分はつながっていない」ことも同時に可視化されてしまう ということです。

例えば、自分の友人が、誰かと開催したパーティの写真を投稿していたとします。

すると、自分はその場に呼ばれてないことに「気づく」。

あるいは、LINEのメッセージが未読無視されているのに、他のグループではその人が返信しているのが「見える」。

これは、まさにパラドックスです。つながっているからこそ、つながっていない部分も過剰に見えるようになってしまったわけです。

また、何万人もフォロワーがいる人が、孤独ではないかというと、そんなことはありません。むしろ、自分が落ち込んだ時に、「本当に」味方をしてくれる人が何人いるかを考えると、何万人も「本当の自分」を知らないフォロワーがいることの方が疎外感を感じて、つらくなることだってありえるのです。

2008年に、情報社会学者の濱野智史氏が『アーキテクチャの生態系』という著書の中で、当時流行っていたケータイ小説の『恋空』を論じています。濱野氏はこの小説の中で、ケータイ電話の着信音などに、人間関係の濃密な記憶が託されていることを指摘し、「操作ログ的リアリズム」という新しい文学の概念を提唱していました。

今まさに、SNSの「操作ログ」こそが人を孤独にさせ、痛めつける時代になったのです。

無視されることは、交通事故と同程度に「痛い」もの

TED Talksでも有名になったガイ・ウィンチという心理学者がいます(著書に『NYの人気セラピストが教える 自分で心を手当てする方法』など)。

彼によれば、そもそも人間は集団から拒絶されることが、とても「つらい」と感じる動物なんだそうです。

よく言われているように、人間は狩猟採集民族の時代から「バンド」と呼ばれる集団を形成して生活を営んできました。人間は、一人ひとりは非力なので、群れからはぐれてしまうと命が危ない。

だから集団から「拒絶」されることは、ほぼ「死」を意味し、人間に対して非常にきついダメージを与えるのだそうです。いじめられた経験がある人はよくわかると思うのですが、クラスメートから「拒絶」されることほど、きついものはありません。下手したら、暴力をふるわれる以上に無視はきつい。

つまり「SNSでの無視」も、人間が群れから阻害された時と同じようにリアルに「痛い」のです。 拒絶された時に人間が感じる痛みは、実際に交通事故にあった時に感じる痛みと同じ程度だといわれています。

だから、皆さんは、この先、悪意を持って誰かを無視してはいけません。その行為は、人を殴っているのと同じ効果を持つからです。

もちろん、しつこくて嫌な相手は「ブロック」せざるを得ない場合もありますが……。ここが本当に人間関係の難しいところですね。

ちなみに、ガイ・ウィンチ氏の主張で興味深いのが、 交通事故などで怪我をした場合には人は「応急処置」をするのに、人間関係で「拒絶」を受けて傷ついた時の処置は、一般的にはされていないことを指摘している 点です。心の痛みの「処置」の仕方を、そもそも習ってこなかったことが問題だというのです。

心の痛みも、処置せずにほっておくと、メンタルヘルスを大きく損なってしまうわけですね。

友達リストを整理する勇気がありますか?

孤独といえば、コロナ禍以降、 若者たちは「友情」をどのように保てばいいのか、あるいは新しく友達を見つけるにはどうすればいいのか、真剣に悩んでいる ということもわかっています。

スウィンバーン工科大学の調査によれば、コロナの期間中にオーストラリア人の54%、イギリス人の61%、アメリカ人の66%の消費者の孤独感が高まったそうです。

コロナの影響においては、「弱いつながり」の友人との接点がなくなったことが指摘されています。

とても仲のよい親友レベルの友人や家族であれば、デジタル上でも関係をなんとか維持できるのですが、物理的に学校や職場に通うからこそ、その場でなんとなくおしゃべりしたり、お茶をしたりする「弱いつながり」の友人との関係が、コロナによって一気に切れてしまったんですね。

友達から友達を紹介してもらう形で、新しく人と知り合う機会もめっきり減りました。「弱いつながりというけれど、もともと、そんなに親しくない人なら、失ってもいいんじゃないか」と思われるかもしれませんが、実はそうではありません。

社会学者のマーク・グラノベッター氏の研究で、「転職」など 、人生において有益な情報は、親しい友達や家族ではなくて、意外にも「弱いつながり」の人から得ている場合が多い、 と述べた有名な論文があります。

とても親しいというわけではないけれども、たまに会ってお茶するくらいの友人こそが、案外有益な情報をもたらしてくれているというわけですね。セレンディピティこそが、実は人と社会との重要な接点になっていたわけです。

親しい友人や家族とだけ交わっていても、「世界」は広がっていきません。むしろ、同じような価値観にだけ触れ続けることで、煮詰まってしまったり、関係も「重く」なってしまいます。

新しいことを始めたいと思っても「いつものメンバー」に相談したところで、意外なアドバイスは期待できません。弱いつながりが失われることで、「新しい出会いのきっかけ」がなくなり、孤独感や閉塞感は高まってしまうのです。

友人関係もPDCAで円滑になる?

そのことと関係してか、コロナ以降、欧米では「友人とは何か」や、「友人のつくり方」に関する書籍やポッドキャストが急激に人気になってきています。

書籍の中でも特に有名なのが、オックスフォード大学で進化心理学を研究しているロビン・ダンバー氏が書いた、その名も『Friends』という本です。

この本の中で、ダンバー氏は、友人にもいろいろなカテゴリと優先順位があることを、思い切って素直に認めていいのだ、それによって罪悪感を感じなくてもいいのだ、ということを提唱しています。どういうことでしょうか。

ダンバー氏によれば、コロナの最中に、SNSやスマホでつながっている膨大な「友達」の整理をするというと、多くの人が、どこか罪悪感を感じてしまうかもしれないけれど、そもそも、人間は、最も親しい友人なんて、同時に5人くらいしか持てないし、ライフステージによってその5人は変わりゆくものなのだから、この際、思い切って整理してもいいのだと言います。親しい友達なんて「変わっちゃうもの」として、受け入れようというのです。

いくら親友だと思っていた人も、ライフステージが変われば、「優先順位」なんて変わってしまう のが自然だし、これまでも人は人間関係を整理しているのだから、そんなに「整理」を恐れなくていい。コロナの期間に、親しさの優先順位が変わるのは普通だと、このようにダンバー氏は主張しているのです。

コロナによって、弱いつながりが失われ、「親しい人」の優先順位も変わってしまう場合もあるでしょう。それはとてもつらいことですが、受け入れるしかないのかもしれません。

友達といえば、私がカルチャーショックを受けたのは、友人関係を「メンテナンス」するためのアプリまで登場したことです。「Call Your Friends」というアプリは、友人とどのような距離でどのような頻度でやりとりすればいいか、連絡を取るべきタイミングを「プッシュ通知」などで教えてくれる機能を持っています。

アプリをダウンロードすると、まずは現状のチャットのログから、あなたが、どの人と一番親しいのか、優先順位を解析してくれます。その中で、例えばあなたがAさんと友人関係を続けたい場合、このアプリはAさんに連絡を取るべきタイミングや、メッセージの内容について、アドバイスをしてくれるのです。

友人関係において、下手に連絡しすぎると「重い」とか、逆に連絡を怠ると「ちょっと疎遠だな」と思われたりするわけですが、そうならないように適切な距離感やタイミングを掴むのをサポートしてくれるわけです。それをウェブの解析のごとく、PDCAを回しながら「友情メンテナンス」をするのです。いやはや。

著者:廣田周作

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