新型コロナ「成果出ない」国産の治療薬とワクチン

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大阪大学発の創薬ベンチャーであるアンジェス<4563>は2022年9月7日に、新型コロナウイルス感染症向けDNAワクチンの開発中止を決めた。効果が確認できなかったためだが、早期の実用化が期待されていただけに、衝撃は小さくない。

これに先立つ7月には塩野義製薬<4507>の新型コロナウイルス治療薬ゾコーバが、厚生労働省の承認を得ることができなかった。国産初の新型コロナウイルス治療薬として注目を集めていたが、こちらも効果が確認できないというのが承認見送りの理由だ。

さらに、さかのぼれば、安倍晋三元総理が2020年5月中に、新型コロナウイルス感染症治療薬として承認する方針を示していた富士フイルム富山化学(東京都中央区)の抗インフルエンザウイルス薬アビガンについては、重症化率が低いオミクロン株が流行する中「試験を継続しても、アビガンの重症化抑制効果の検証が困難」として、事実上臨床試験を取り止めている。

日本は、海外企業の治療薬やワクチンに頼っているのが現状で、急激な円安で日本の国力低下が懸念される状況も重なり、重苦しい空気が漂う。

ただ第一三共<4568>が9月1日に、新型コロナウイルス感染症ワクチンの国内第Ⅲ相臨床試験を始めたと発表したほか、明治ホールディングス<2269>傘下のKMバイオロジクス(熊本市)も7月に、新型コロナウイルス感染症のワクチンの国内第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験の結果が良好だったと発表している。さらに塩野義の新型コロナウイルス治療薬は再審議される予定で、ここで承認される可能性もある。

円安はもとより新型コロナウイルス薬でも、日本の国力を感じ取れる日は訪れるだろうか。

塩野義の治療薬は再審査に

アンジェスは2020年3月に新型コロナウイルス感染症に対するDNAワクチンの非臨床試験を開始し、第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験、第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験と開発を進め、2021年8月からは薬剤濃度を上げた高用量製剤の第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験も併せて進めていたが、効果が確認できなかった。

同社では開発中止と並行して、米国のスタンフォード大学と共同で、新型コロナウイルスの変異株に対する改良型 DNAワクチンの経鼻投与製剤の研究に着手すると発表している。

塩野義の新型コロナウイルス治療薬ゾコーバは、ウイルスの増殖に必要な酵素(3CLプロテアーゼ)の阻害薬で、同社によると2021年9月に開始した第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験の結果、抗ウイルス効果、臨床症状改善効果が確認され、安全性も特段の懸念は認められなかったとしいている。

厚生労働省の審議会では、効果が不十分と判断されたほか妊婦が服用すると胎児に奇形が生じる危険性などが取り沙汰され、承認が見送られた。この結果に対し、日本感染症学会と日本化学療法学会が9月2日に、早期承認などを求める提言書を厚生労働大臣に提出している。

第一三共、KMバイオロジクスも前進

第一三共が開発しているのは、現在接種が行われているファイザーやモデルナと同じmRNAワクチンで、動物実験ではオミクロン株に対する効果も確認されているという。同社では「ワクチン事業を展開する国内の製薬企業として、国産mRNAワクチンを早期に届けられるように努める」としている。

KMバイオロジクスが開発しているのは、感染力などをなくしたウイルスから作る不活化ワクチンで、国内第Ⅱ/Ⅲ相臨床試験では十分な効果が期待できる結果となったほか、安全性も従来の不活化ワクチンと同等であったという。

文:M&A Online編集部

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