「リラックスして投票できるブースを」知的障がい者の投票支援に課題 投票所で混乱、氏名だけで識別できず… <沖縄の選挙あなたの1票>

 障がいのある人が選挙で投票するには、障がいの特性ごとにさまざまな困難がある。知的障がいのある人は、自分の考えや思いを表現することが難しく、投票にはさまざまな困難が伴うが、県手をつなぐ育成会の田中寛理事長は「『こうしてほしい』という要望を出せる環境ができていない」と指摘する。他の障がいに比べても困難への社会の理解や投票支援の取り組みに遅れがある。

 候補者の訴えを理解する点でも課題が残る。田中さんによると、選挙公報でも知的障がい者向けに工夫されたものはない。

 神里恵子さん(76)=沖縄市=は息子の徹さん(44)に発達障がいがある。徹さんにとって一番分かりやすい媒体は各候補のチラシだという。イラストや写真、時には漫画が用いられ、文章も短いためだ。

 知的障がいがある人は場所が変わるとパニックになることもある。神里さんは「公民館など投票所がもっと近場にあるといい。混乱しないよう、広いところでリラックスして投票できるブースが用意されるとうれしい」と話した。

 候補者を顔で識別する人もおり、氏名の掲載しかない投票所のブース内で記入に困る人もいる。代理投票で係の人に補助についてもらうことが可能だが、意思疎通などがうまくいかない場合もある。神里さんは「投票所に障がい者施設での勤務経験がある人が1人でもいると安心できる」と改善を求めた。

 田中さんは「各候補の政策も知的障がい者向けのものはない。選挙全般がその意思をくみ取る仕組みになっていない」と話し、有権者とみなしていないような現状があると厳しく指摘する。知的障がい者や発達障がい者の中には公約や候補者の訴えをすぐには理解できず、投票行動につなげることが難しい人もいる。投票先が本人の意思ではなく、周囲に流されてしまう可能性もあるという。

 障がいのある人にとっては「日頃から生活の中で政治とつなげる機会をつくる必要がある」と強調する。生活で困ったことなどを日常的に共有し「こうなったらいいな」という程度でも伝え合う機会を提案する。自分の困り事を基に公約と照らし合わせることで政治と結びつけることができるという。模擬投票や勉強会を開催し、日頃から話し合える環境をつくる重要性も指摘した。

 (金盛文香)

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