佐野元春「ヴィジターズ・ツアー」に伊藤銀次とバブルガム・ブラザーズが参加した理由  コメディアンからアーティストへ! 「SOUL SPIRIT Part Ⅱ」に伊藤銀次と佐野元春も楽曲提供

ニューヨーク帰りの佐野元春から受けたオファー

アルバム『SOMEDAY』でブレイクした佐野元春は、その成功に甘んじることなく、1983年に単身ニューヨークに渡った。そして新天地での1年の充電の間に、かの地から受けた刺激や影響をいっぱいに詰め込んだアルバム『VISITORS』を帰国後に発表、そのあまりのセンセーショナルな内容に賛否両論を生みだすも、1984年10月から始まった『VISITORSツアー』で、ほぼ半年にわたって全国をまわるうち、アルバムの評価はみるみる高まっていった。

その後、好評だった『VISITORSツアー』のアンコールツアーとも言える、『VISITORSツアー スペシャル』が全国10都市で開かれることが決定し、なんとバブルガム・ブラザーズと僕にそのツアーに共演者として参加してほしいという依頼が佐野君からあったのだ。

おぉ! これはなんともうれしい出来事だった。

当時、事情をよく知らない人は、「なんでこの組み合わせ?」と思ったかもしれないが、この流れには伏線があって、実に自然にこうなったのだった。今回はどういう流れでこのイベントの組み合わせが実現したのかをお話ししよう。

中学の同級生だった佐野元春とブラザー・コーン

実はバブルガム・ブラザーズのブラザー・コーンと佐野元春は中学の同級生で、まだブレイク前の佐野元春とハートランドが新宿ルイードで定期的にライヴを演っていたとき、いつも差し入れを持って遊びにきてくれていたんだ。

その頃のコンちゃん(ブラザー・コーンの愛称)は、コメディアンとしてテレビのバラエティ番組によく出ていたから、なんとなくその存在は知ってたんだけど、まさか佐野君と同級生だったとは! これにはかなり驚いたね。

すると、それからしばらく経ってもっともっと驚く出来事が!!

バブルガム・ブラザーズ、音楽アーティストとしてデビュー

僕のソロ再デビューにとても貢献してくださった音楽プロデューサーの木崎賢治さんから、

今度、日本のブルース・ブラザーズみたいな二人組をプロデュースするんだけど、銀次さんにアレンジをお願いできないかな

… というお話が。で、そのメンツを見てみると、なんと、そのコンちゃん!! しかももう一人は、警官コントで鳴らした小柳トムさん。コメディアンだと思っていた二人が、佐野君と同じ音楽アーティストとしてデビューするということに!!

でもよく考えてみると、本家のブルース・ブラザーズ、ジョン・ベルーシも ダン・エイクロドもコメディアン。

コンちゃんもトムさんも、その当時の日本のバラエティでは珍しい、エッジの立った諧謔を得意とするコメディアン。

―― その二人が本家に負けじと、60年代のスタックスやアトランティック的なR&Bやソウルミュージックを80年代にリメイクしたサウンドで行きたいと言うのは大いにありじゃないか。

「これは面白そうだ!」と、僕はすぐに引き受けることにしたのでした。

先行シングル「忘れじのエヴリナイト」を伊藤銀次が作編曲

このプロジェクトでは、下敷きはあくまで60年代ソウルミュージックだが、80年代型のソウルミュージックを目指したので、ドラムスは打ち込みでいくことに。木崎プロデューサーからの最初のオーダーは、「先行シングルとなる曲を僕にアレンジだけでなく作曲も」というお願い。

そこで僕が書いたのが「忘れじのエヴリナイト」。そしてアルバムからの2枚目のシングルとなったのが佐野君がこのアルバムのために書きおろした「SOUL SPIRIT Part Ⅱ」だった。佐野君からデモテープをもらったとき、まず思ったのは、

おぉ、さすが佐野君!

… ってこと。なんとなくサム&デイヴの「Hold On」や「Soul Man」を思わせる曲調も的を得てゴキゲンながら、コンちゃんもトムさんも役者だということでか、間奏で二人に会話させるというアイデアが、ウイットに富んでいてバッチリ。まるでむこうのソウルを日本語に翻訳したみたいな作品になって、今まであまり日本の音楽シーンにはなかった作品になっていた。

佐野元春プロデュース「SOUL SPIRIT Part Ⅱ」レコーディング秘話

それまでは、打ち込んだドラムに合わせてプレイする形のレコーディングが、この「SOUL SPIRIT Part Ⅱ」だけは曲調を考えて、生ドラムでミュージシャンたちが一堂に介して “せ~の” で録音する形にすることに。

そのドラマーは、佐野君の「彼女はデリケート」でもすばらしいドラミングを聴かせてくれた島ちゃんこと島村英二君。島ちゃんに曲を聴かせたら、もう、すぐにまるでサム&デイヴの「Soul Man」みたいなフィーリングで、ノリノリで叩いてくれた。

やっぱりこの録り方が良かったのか、同時に演奏している他のミュージシャンたちのノリもいい。みんなやっぱりサム&デイヴとかオーティス・レディングとかが好きなんだなぁ… ってことがわかってうれしかったよ。

結局、この曲を録音した後、この曲のタイトルがそのままアルバムタイトルになってしまった。佐野君とコンちゃんの旧交が見事にここに結実する形になったわけなのだ。

おっと、肝心の『VISITORSツアー スペシャル』の話にたどり着かなかった…。このつづきは次回のココロなのだっ!!

カタリベ: 伊藤銀次

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