亡くなる前日、弟子に送ったグッドサイン 息子は30年ぶりに「お父さん」 人間国宝の照喜名朝一さん死去

 照喜名朝一さんが亡くなった10日の午後6時過ぎ、沖縄県那覇市の自宅に若い弟子が集まり「伊野波節」を献奏した。伊野波節は琉球古典芸能コンクール新人賞の課題曲のため、弟子入りし、最初に教わる曲の一つ。弟子たちは、古典の世界に足を踏み入れた日を振り返り、「初心に戻り、先生の思いを受け継ぐ」という決意を込め、歌った。

 10月に独演会を予定している弟子の上原麻美さん(32)は、亡くなる前日に独演会の演目を朝一さんに聞いてもらった。歌い終わると、朝一さんは目を開け、グッドサインと拍手を送ったという。「伊野波節の斉唱も、先生に元気になってもらおうと、もともと今日歌う予定だった。見てもらいたかった」と声を詰まらせた。

 朝一さんの息子で弟子の朝國さん(50)は「三線をやればやるほど、父が雲の上の人、届かない人になっていった」と振り返る。朝一さんのことを普段から「先生」と呼び、半年前に朝一さんが自宅で静養する日々を送るようになり、約30年ぶりに「お父さん」と呼んだ。

 朝一さんは、今年も芸能コンクールを受験する弟子たちの歌を一人一人聞いていた。朝國さんは「芸能への愛、芸能をする人を愛する気持ちが強い人だった。朝一イズムを受け継ぎ、自分も先生くらい芸能にのめり込んでいきたい」と話した。

(藤村謙吾)
▼ことし5月の照喜名さん「最高にうれしい」「第1回宮里春行賞」受賞で
▼音楽の殿堂「米国・カーネギーホール」に国宝・照喜名さんの歌声響く 
▼米軍住宅で英語を覚え、起業し実業家の一面も 照喜名朝一さん(1)<復帰半世紀 私と沖縄>
▼世界中にまいた歌三線の種 人間国宝・照喜名朝一さん(2)<復帰半世紀 私と沖縄>
▼米国の門下生たち200人がNYで「米寿」祝福
▼琉球王朝時代の音色響く 三線の名器「盛嶋開鐘」復元 人間国宝・照喜名朝一さん演奏

© 株式会社琉球新報社