核シェルターなぜ日本で普及しない?石破茂氏が東京大空襲時の教訓を指摘、地下鉄駅は対応不可か

戦時において想定される核攻撃や自然災害などに対して身を守る「防災核シェルター」の設置が日本は世界の中でも遅れているという。「核シェルター普及協会」の代表でジャーナリストの深月ユリア氏が8月に主催したシンポジウムには同協会の顧問を務める自民党の石破茂元防衛大臣、原田義昭元環境大臣らも参加し、普及しない理由や背景、必要性などについて意見を交わした。

同協会によると、各国別のシェルター普及率は、スイスやイスラエル(100%)、ノルウェー(98%)、米国(82%)、ロシア(78%)、英国(67%)などに対し、日本は0・02%。深月氏が「なぜ、日本の政治家はシェルター普及に積極的でないのか」と問題提起したことを受け、石破氏は歴史をさかのぼり、第二次世界大戦中に民間人の命が多数奪われた空襲を例に説明した。

「昭和20年3月10日、東京大空襲時、地下鉄銀座線に乗っていた人たちは地上に出された、当時の(退去を禁止して応急消火を義務付けた)『防空法』によって、市民はホウキとハタキ、バケツリレーなどで焼夷(しょうい)弾の火を消せと。『逃げるな、火を消せ』という法律を強制し、それで大勢の人が死んだ。ロンドンは(ナチス)ドイツから57日間も爆撃を受けて死者が4万3000人で、東京は数時間で10万人が亡くなった。それでも、『おかしいじゃないか!なんで政府は私たちを守らないんだ』という怒りが国民から出て来ない。言っても政治家に耳を傾けてもらえない。だが、そこで諦めたら終わり。今後も言い続けていかなければいけない。そう言うと、『お前は左翼か』と言われるのですけど、どんな政権であれ、国民の命を守ることが国家にとって本当に大切なことであり、そんなことを言う人に限ってシェルターには後ろ向きです。歴史を忘れている」

その上で、石破氏はシェルターの必要性を説いた。

「フィンランドやスウェーデンが核を持たず、NATOに入っていなくても、冷戦期に隣国のソ連から、なぜ生き延びられたかというと、シェルターがあったから。『やれるものならやってみな。思うほどの効果は得られないからね』という抑止力です。だが、日本で『備えをしておけ』と言っても、票や金にならないから、政治家が動かない。おかしくないですか。票や金のためではなく、いかに国民を守るかを考えるために政治家をやっているんじゃないですか。空襲時に市民を守る発想がなかったこと、それは今も同じではないか。防衛費を2倍、3倍にしようが、市民が死んでしまっては、その国はもたないです。そういう議論をしていかなければ、この国は終わる…と私は思う」

他の出席者もそれぞれの「シェルター観」を述べた。

原田氏は「万一に備えて精神的な安定を常に保つことができる」とし、ウクライナ出身の国際政治学者アンドリー・グレンコ氏は「防空装備と同じくらい抑止力になる。核以外のミサイル攻撃からも身を守る手段になる」と理解を示した。松下政経塾一期生で光寿院住職の酒生文弥氏は「〝核シェルター〟という言葉が仰々しく聞こえるなら、『命を守るライフ・シェルター』と言えばいい。来年で関東大震災から100年。シェルターは地震や津波など水災害にも備えられ、なおかつ核攻撃にも対応できる」と指摘した。

防災のスペシャリストで土木施工会社代表の斉藤学一氏は「日本で普及しない理由として『起きないはずのものに準備はしない』という〝文化〟がある。東日本大震災時の原発事故も『起きないはず』と考えていたのではないか。だが、人間が造った物は必ず壊れるし、人間は間違いもする。『絶対に起きない』ということは絶対にない…という観点で準備しなければいけない」と訴えた。

深月氏は「なぜ、国から補助金が出ないのか。国産のシェルターを大量生産できれば、価格はもっと安くなる」と問いかけた。

石破氏は「スウェーデンでは一定基準以上の建物にはシェルター設置が義務づけられ、フィンランドもスイスも建築基準法で条文があるはず。日本において、例えば『地下鉄駅をシェルター化するのにいくらかかるか』を試算して、それが納税者の負担に耐えられるもので、次の時代にも持ちこたえられるならば、国債を出す価値はあると私は思っているが、それは反対される。駅に『ここは核シェルターの入口です』と示すと(平常時の利用者が)地下鉄に乗ってくれなくなるからと。政治家にとって票にも金にもならないかもしれないが、そこを言っていかなければ、政治家を辞めた方がいいと私は思います」と思いを吐露した。

日本でシェルターが普及しない理由として、戦争に対する危機感や現実感のなさ、土地の狭さや費用、世間体…など多くの理由が挙げられている。だが、ナザレフ氏が「新・冷戦」と指摘する国際情勢や、近い将来に起こりうる大規模災害への対策の1つとして再考の余地はあるだろう。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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