<レスリング>【2022年世界選手権・特集】突きつけられた3回戦敗退の現実、世界の舞台で復活できるか…男子グレコローマン77kg級・屋比久翔平(ALSOK)

 

(文=布施鋼治。撮影=保高幸子)

 屋比久、おまえもか! セルビアの首都ベオグラードで開催された2022年世界選手権の第1日(9月10日)。男子グレコローマン77㎏級に出場した東京オリンピック銅メダリスト、屋比久翔平(ALSOK)は、リウ・ルイ(中国)との3回戦で黒星を喫した。この日は87㎏級の角雅人(自衛隊)と72㎏級の堀江耐志(自衛隊)が相次いで初戦で敗退。1勝したとはいえ、屋比久もそれに続いてしまった格好だ。

一瞬のすきを突かれ、リウ・ルイ(中国)に組みつかれた屋比久

 0-1のビハインドで迎えた第2ピリオド、屋比久は1-1にしたあと、リウにバックを奪われ、そのまま後方に投げられて一気に4点を失ってしまう。しかし、こういうシチュエーションになってからの屋比久は強い。案の定、豪快にがぶり返しを決め4点を奪い返す。

 ここまではよかったが、投げたあと勢いがつきすぎたのか、リウにバックを取られ、5-6と再び逆転を許してしまった。

 試合終了間際、屋比久は相手を場外に出してテークダウンを取ったように見えたが、惜しくもタイムアップ。逆転は認められなかった。リウは続く準々決勝で敗れてしまったため、屋比久が敗者復活戦に回ることはできなかった。

 試合後、放心状態の屋比久はインタビューエリアに続く廊下の壁にもたれかかりながら座り込んだ。立ち上がって報道陣の前に現れるまでにかなりの時間を要した。それでも、まさかの敗北を冷静に分析していた。

 「この間のポーランド遠征での反省点でも挙げていたのですが、相手に合わせてしまって大量失点になりかねない状況が現実に起きてしまった」

周囲からの注目が違ったポーランド遠征、マークが厳しくなった!

 勝負の分岐点。屋比久は「投げたあとの形が悪く、相手に乗られてしまう格好になってしまった」と振り返る。

 「オリンピックのときは、ああいう体勢からしっかりと立つことができた。同じような展開だったのに今回は…」

パリ・オリンピックへ向けてのスタートは、ほろ苦い結果となった

 東京オリンピックで銅メダルを獲得したことで、屋比久の人生は激変した。生まれ育った沖縄では、空手の形で金メダルを獲得した喜友名諒選手とともに地元の星としてもてはやされるようになる。顔つきが変わったことを指摘すると、屋比久は次のように答えた。

 「世界トップでやっている選手たちと勝負して自分のいいところを出すことができた。結果が出たことで、自信につながったんだと思います」

 ポーランド遠征では、周囲の選手から今までとは違う待遇を受けた。「外国選手の方から『練習しようぜ』という感じで声をかけてもらえるようになった。それまでは、自分からそうしないとやってもらえなかったですからね。見られ方は変わったのかなと思います」

 裏を返せば、それは屋比久へのマークがきつくなったことを意味する。大会初日に出場した日本代表の中では、グラウンドの防御の強さを最も見せたように思われたが、屋比久は世界で勝つためにはそこも改善点だと捉えている。「(初戦も含め)2試合ともグラウンドからのリフトで返されることになってしまった。やるべきことは多い」

 今大会のテーマは明白だった。「引退した選手もいれば、ロシアのように出場できていない国もある中で、自分の世界での立ち位置を知ることでした」

 そうした中で突きつけられた3回戦敗退というリアル。相手のスタミナを削りまくるという屋比久ならではのレスリングを、もう一度、世界の舞台で魅せてくれ。

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