「カタギになった殺人マシン」映画にエイドリアン・ブロディ参戦!!『クリーン ある殺し屋の献身』で主演に脚本、劇中曲も担当

『クリーン ある殺し屋の献身』© 2018 A Clean Picture, LLC All Rights Reserved.

血なまぐさい過去を持つワケアリ男

孤独なゴミ清掃員の正体は、スゴ腕の元殺し屋だった……! 心を通わせた少女を救うため、彼は凶器を手に取り躊躇いなくチンピラどもの頭をカチ割っていく。『クリーン ある殺し屋の献身』は大都会ニューヨークの裏側を舞台に繰り広げられる、野蛮な暴力満載のビジランテ系サスペンスである。

主人公“クリーン”は黙々と深夜に一人ゴミを収集し、奉仕活動で空き家を補強したり落書きを消したりしている寡黙な男。何らかの理由で亡くしたであろう幼い娘との思い出がフラッシュバックし、毎夜悪夢にうなされ目を覚ます。そんな過去を慰めるように、お祖母ちゃんっ子らしき近所の少女に食事を届けている。

彼が暮らす街は悪事が蔓延っていて、麻薬を売り捌くマフィアたちは同業者を白昼堂々ぶっ殺したりと、わかりやすい荒廃ぶり。残虐なマフィアの“血の教え”はちょっとしたチョンボも許さず、クリーンが収集するゴミの中には違法に処理された“元”有機物が混じっていることもある。それでもドタバタした演出をせず、あくまで静かにゆっくりと噛みしめるように人物像を、物語を紡いでいくのが印象的だ。

主演・脚本・製作、そして音楽もブロディ!

相変わらずの饒舌すぎる眼力でクリーンを演じるのは、『戦場のピアニスト』(2002年)でアカデミー主演男優賞を最年少受賞したエイドリアン・ブロディ。2000年以降はジャンルも規模も問わず様々な作品に出演し、かつウェス・アンダーソン作品の常連でもあるという、なかなかレアなポジションの俳優だ。

ブロディは本作で製作・脚本(共同)、さらに音楽まで担当。クイーンズ出身だけあってブラックミュージックへの造詣が深く、アメリカ詩人協会の壇上でノトーリアス・B.I.G.の歌詞を朗読し、ヒップホップ・メディアの大家<ソース・マガジン>から表彰されたこともある。若い頃からビートメイクにも嗜んでいたようだが、ついに本作でサントラを丸々手掛け、音楽プロデューサーという肩書も手に入れた(Brody Beats名義)。

共演者も『ジョーカー』(2019年)のグレン・フレシュラーや、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)『ヒート』(1995年)のミケルティ・ウィリアムソンらパンチの効いた中堅に加え、最近では『Mr.ノーバディ』(2021年)や『デッド・ドント・ダイ』(2019年)にも出演していた、ウータン・クランのRZAが質屋のオーナーを好演している。

『タクドラ』『ジョン・ウィック』好きにオススメ

悪の元締めの息子を……という流れは、ご存知『ジョン・ウィック』(2014年)やリーアム・ニーソンの『ラン・オールナイト』(2015年)と全く同じ。いわゆるビジランテ/リベンジものの系譜であり、名作『タクシードライバー』(1976年)はもちろん、チャールズ・ブロンソンの『狼の挽歌』(1970年)『地獄で眠れ』(1984年)なども彷彿させる。

ときおり挿入される妙に詩的なナレーション(クリーンの独白)は、映画を約90分の枠に収めつつ中盤以降のバイオレンス展開まで飽きさせないための苦肉の策かもしれない。なんにせよクリーンは掘り下げ甲斐のある魅力的なキャラクターなので、彼が思いっきり大暴れする続編も全然アリだろう。

あらすじに目新しさこそないが、バイオレンス系にしては珍しく丁寧な演出とボトム低めの音楽には、不思議な癒し効果すら感じる。暗い過去を抱えたワケアリ男による淡々とストイックな暴力が見たければ是非オススメしたい、手堅いキリング・アクションだ。

『クリーン ある殺し屋の献身』は2022年9月16日(金)より全国公開

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