高須正和×大川真史対談 21世紀の産業革命はメイカームーブメントの先にある

最新テクノロジーやデータを活用する企業が一堂に会し、先進的な取り組みを共有するカンファレンス「ウイングアークフォーラム(以下、WAF)」。

2019年11月22日に東京で行われるWAFでは、世界と日本と繋げるメーカーブームメントの立役者である高須正和さんによる「21世紀の産業 ポスト工業化社会に向けたイノベーションと社会実装」というタイトルの講演を行う予定となっている。

「メイカームーブメント」とは、「WIRED」誌・元編集長のクリス・アンダーソン氏が提唱した「Webやインターネットの技術をものづくりに活かして、製造業をイノベーションする」試みから発生している。ものづくりの潮流や技術を生み出し、成熟社会における「ものづくりの民主化」となり進化を続けている。

この記事では、高須さんをリスペクトする「日本のものづくり」が研究テーマである当社データエンパワーメント調査室 室長の大川真史が、WAFを目前に控えた高須さんに21世紀の産業界についてお話を伺った。

INDEX

21世紀のメイカームーブメント

大川 – 既存産業で働く多くの日本人は、メイカームーブメントの先に産業革命があることを理解していないという気がしています。このムーブメントは明らかに産業革命ではないですよね?

高須 – そうですね。

大川 – 工業化社会の中で水平分業が進展してきましたが、これからは受託開発など「仕事として誰かの代わりにものを作る人たち」は、基本的に緩やかに衰退していくと思っています。本来の「ものづくり」が、もう一度使う人の手元に戻ってくると。

高須 – ゴールとしてはそうなる。かわりに開発をする、請負開発の仕事が減っていって、自分たちのために作る人が増えてくる。それはそう思うんですけど、具体的に社会の変化がどう進んでいるかは、僕もよくわかってなくて。今でも、早稲田大学(早稲田大学ビジネススクール)で非常勤講師をしていますが、学生さんたちの多くは一部上場企業の30代の中堅社員なわけですよ。みんな、基本的には自分が生まれる前から存在している企業に入って、仕事も自分が生まれる前からあるわけじゃないですか。そういう会社が中心の日本が、Googleやアリババみたいに自分たちのためにソフト・ハード含めたシステムを開発する会社が中心の社会に、最終的にはなると思うんだけど、具体的にどうやって変化していくのかがよくわかんないのが正直なところなんですよね。今ある会社の体質が変わるのか、新しい会社が出てきて日本でもたいていの古い会社は潰れちゃうのか。

大川 – そういう立ち位置に自分がいる、ということすら見えてない人たちが多いんじゃないかと思っています。

エスタブリッシュな会社員は気が付くのも変化するのも遅くて、メイカームーブメントに参加している人たちこそ次の産業革命を起こしていく人たちなんだろうなっていつも思うんです。日本の産業構造をスムーズに転換するためには、いろいろな支援や補助の仕組み、つまり政策の方向を早く変えるべきなのですが、うまく行きそうにない。

高須 – 政策はあくまでマジョリティに向けて立案・施行されるので、しょうがないですよね。新しいことは初期は必ずマイナーで、基本的にわかる人しかついてこないので。たとえば、今の深センはとても有名だけど、2014年のメイカーフェア深センにいた日本人、多分20人くらいしかいなくて、みんな顔見ればわかるんですよ。なんなら一人ひとり名前あげられるくらいの勢いで。そのくらいしかいないわけですよ。

2014年どころか、さらに前の2012年、第1回からユカイ工学の青木さん[1]とかいましたから。青木さん、初期のHAX[2]のメンターをしていて。

20人ぐらいしかいないところから始まって、「深センでのメイカーズ面白いぞ」と思ってニコ技深センコミュニティを立ち上げて、「メイカーズのエコシステム」という本を2016年に出版したりして、2018年に僕が大メイカーズ飲み会というものを深センで主催したのですが、120人くらいまで参加者が増えました。

深センのメイカーズが面白いと感じて、わざわざ来る人が20人から120人に増えても、それは相変わらずマイナーなんですが、僕がやりたかったのは結局そういうことです。僕にとっては「世の中」ではなくて、今年は何人来るんだろうとか、そういうほうに関心があって。

他にも書籍「ハードウェアハッカー」[3]が5000から6000部くらい発刊しているんですが、あれ読んでおもしろいっていってくれる人はそんなに多くないわけですよ。それなりに分厚いし、内容も多岐にわたるから、おもしろいと思う人数は限られると思うんですけど、あれを読んでおもしろいと思う人をもうちょっと増やすとか。そういう風に考えています。

僕は今45歳だから、75歳まで活動するとしてあと30年ですよね。その間に僕が頑張って活動すれば、「ハードウェアハッカー」が1万5000部くらい売れるようになるような気がしていて。といっても1万5000部って日本全体で考えると、99%の人は別にどうでもいい話ではあるんですけど(笑)。

大川 – 僕の視野からすると、高須さんがおっしゃった「いま5000人、この先の1万5000人が日本にもいるよ」ということを多くの人が知ったほうがいいと思います。「あなたが今の5000人側に来るかどうかはともかく、個人レベルで産業を推進し革命していく人たちが、これから日本はもちろん世界的に増えていくよ」ということは知ってほしいんです。世界的に見ても、日本はかなり優位性があって国力推進の原動力になるはずなんですよね。そういう話が広く伝わればいいなと思っているんです。今回高須さんの講演も、製造業の人はもちろん、行政官や公的機関の職員の方にこそ絶対聞いてもらいたいなと思っています。

ハードウェアは面倒

高須 – 最近、5年くらい見ていてやっとわかったのが、ハードウェアはスタートアップがやるものではないですね(笑)。

大川 – (笑)。

高須 – 深センの周りにあるハードウェア企業、スタートアップが多いと思っていたんですけど、あれはあくまでDJI[4]みたいに極端に目立つ会社がいるだけなんです。実際には、ほとんどが町工場の2代目とかが、工場の空いた時間に作ったものがヒットしているんですよ。

「開発を自分たちでやる必要がある」という面ではハードウェアもソフトウェアと変わらなくなってきていると思っていて。ソフトウェアの世界では、2002年くらいまではビジネスモデルを事業会社側が握っていて、Webサイト構築はSIerにやらせましょうみたいなのがあって。まあ、だいたい全滅したじゃないですか(笑)。

大川 – ですね(笑)。

高須 – 事業会社がソフトウェア事業は抱えられないから、上手い感じでビジネス屋さんと一緒にやりましょうみたいな。でも、今やメルカリでもMakuakeでも、ソフトウェアエンジニアやデザイナーを抱えているわけですよね。ピュアにハードウェアで勝負している会社を見ていると、結局工場持ってない会社というのはあまりない(笑)。ほとんどのハードウェア会社は自社工場を持っているわけです。

最近M5Stack[5]がさらに製造ライン作ったんですよ。この長机(約6~7m)の倍くらいの長さしかない製造ライン(笑)。社員は全員で50人くらいで、そのうちラインで働いているのは25人とかですね。でも、StickCとStickVはいまだに全部社内製造ですよ。

大川 – 素晴らしいですよ。しかも製造ラインのところに製品に関する日本人のツイートを印刷した紙が貼ってあって。それは最高じゃないかと。これぞ製造業だとすごく思ったんですよ。くそエモいなと思って(笑)。

高須 – M5Stackなんてシンプルなプロダクトなので、中を開ければ回路図とかいくらでも見えるわけです。だからこそ、自分のところでラインを作らないと改善も何もできないんですよ。ソフトウェアでもクラス作るときに申請書書いて、コミット前に許可取るみたいな文化がだんだんレガシーになりつつあるわけじゃないですか。製造外注も結構それに近い感じで。外注しようと思うと、ちゃんと毎回仕様書きっちり切って、手順書作って、さあ製造スタートみたいな話になるじゃないですか。それは、もちろん永遠になくなるわけではないかもしれないけれど、よりアジャイルっぽい形があったとしたらそっち側にどんどん移行していくと思われるので、そういう新しい形での製造というのが進んでいくんでしょうね。M5Stackほどゆるくしていいのかどうかという問題はありますが(笑)。

大川 – 日本でも、同人ハードウェア[6]をやっている人たちの、もうちょっと本気出せばいけるじゃんっていう空気感がすごいですよね。それこそビジネスモデルとかマーケティングとかセールスチャネル開拓の体制が整ったら、飛躍的にムーブメントとなる予感がします。あれは特に中堅・中小製造業の人は知るべきだと思うんですけどね。

高須 – そうなんですよね。ハードウェアは確かにあんまり大もうけできないんですけど、ソフトウェアと違って売り上げがゼロではない状態に持ち込むのはラクなんですよ。ソフトウェアで少額でも売り上げがきちんと上がるところに持っていくのって超面倒くさいんですけど。ハードウェアだとそれができるんです。すごく極端な話9割引にすればどんなハードウェアでも売れるので(笑)。

大川 – 人はものがあると買いますからね。

高須 – ハードウェアのほうが、赤字になるかもしれないけど売り上げが立ちやすいんです。売り上げが立つと仮定すると、次は製造のクオリティを上げることができるようになる。簡単に言えば、部品のグレードアップですね。最近、中国の試作メーカーでFusion PCBやelecrowが注目されていますが、プロトタイプなら、彼らの作る部品のクオリティで十分という製品もあります。

大川 – じゃあ、なぜ日本の製造業はそこから買わないのかとなりますよね。全部変える必要はなくても、1割2割あれに変えたほうがいい会社って世の中にいっぱいあると思っていて。

高須 – 日本の製造業はそれはそれで、そこにものすごく特化してますからね。そこは藤岡さん[7]が一番得意なテーマではあるんですけど。品質基準であり部品であり。

大川 – 僕の中では、分業していることそのものの悪さみたいなことをものすごく感じていて。まったく意図が伝わらない。マーケットから設計に行って、生産、製造技術と行って、生産に入っていくという。いわゆる分断されているわけです

高須 – いわゆるデザイン思考的なものが無くなるみたいな感じですよね。

大川 – その真反対にいてデザイン思考的なものづくりが、M5Stackなんじゃないかと思うんです。そこまでいかなくても、もうちょっと分業じゃないやり方を、日本の製造業のカルチャーとして持つべきじゃないのかなという気がしています。

高須 – そうですよね。系列みたいなので進化する形のモデルって、世の中がゆっくり発展しているときは、あれで最適化できればいいし、成功していると系列全員儲かるんですけど。シュリンクすると他から仕事取ってこられないあのモデルは辛いですよね。

変わる人、変われない人

高須 – このような課題を役人さんと話していると、みんな優秀だからアタマでは理解できるんだけど、特にお役所だと麻雀で言う切れる牌が決まっていて、積もる牌も決まっているから、すごい腕が上がっても、リーチかかってるからどうしようもないですね、みたいな感じになるんですよ(笑)。

大川 – わかります(笑)。しかもかなり手順が進んじゃって、今から手を変えるんですか?みたいなケースが多いということですよね。

高須 – さっきのメイカーフェアを大きくしようという話と少し似てて。要は動ける人と一緒に動くしかないのかな、という気持ちがあったりします。

大川 – それって気付かないままでいるから変化しないだけで、あるとき「はっ」と気付く人も結構いるんじゃないかと思うんですけど。

高須 – 僕もいると思うんですけど。

大川 – 高須さんの話を1回でも聞いたことがある人に、今回高須さんが講演することを伝えると、絶対行くっていうんですよね。高須さんの話を人づてに聞いた人は、絶対という訳でもないんですよ。これはおもしろいなと思って。

高須 – 深センのコミュニティを見ていると、深センに来てその後の人生変わる人変わらない人がいて。

大川 – 変わらない人います?

高須 – 忙しい人じゃないですかね。

大川 – どこまで変わるものですかね。僕は深センに行ったときに、すごくいろんなことに感動して「うわーっ」という感情が押し寄せてきました。華強北を見て、高須さんの話聞いて、ふーんって帰る人いるんですか?

高須 – そういう人のほうが多いですよね。一部上場企業の30代の中堅社員のような人たちも忙しいですからね。ただ実際は、忙しいかどうかって、正直わからないんですよ。暇だから何回も深センに来るかっていうと、実はそうでもなかったり。

大川 – 優先度の問題でしょうか。

高須 – 優先度って、優秀な人ほどあんまり自分で決められないじゃないですか。たまたまそのとき、プロジェクトにすき間が空いたとか、会社1個エグジットしたとか、そういうタイミングで深センのコミットがガッと上がるということはあるんですよ。でもそれってタイミングみたいなもので。僕がアクセラレーターだとしたら、提供しているプログラムを変えても基本そういう人の興味をこちらに向かせるというのは無理だなということがわかったんですよ。となると、あとはプログラムの量を増やすか、受講者を増やしていく、つまり母数を増やすみたいなことしかできることがなくて。別に来ない人はしょうがないだろうと。嫌われたから来ないのか、中身がつまらないから来ないのか、イスラエルとかのほうがおもしろいからそちらに行っているのか、単に忙しいのか、そういう個々の理由を検討してもしょうがないし、僕からアクションを起こして変動できる要素ではないので。それよりは年1回であったのを年3回にすると、とりあえず結果は3倍に上がるなという。そういう思考です。

大川 – 公的機関や金融とかの支援者って言われている人たちがいるじゃないですか。その中でも、ピンと来る人、来ない人もいると思うんですけど。その人たちに、クラウドファンディングみたいなやり方が世の中にはありますよねと伝えたりもするんです。一方で、各種補助金を出していくというレガシーの仕組みも残っていて。

高須 – お役所は制約条件が大きすぎて難しいですね。スイッチサイエンスマーケットプレイス[8]が手数料10%でやっているのはこういうことをやりたいからで。あれでも年間5000万とか6000万とか売り上げているはずなので、何人かはきちんと仕事にしている人いるはずですよ。ニコ技深センコミュニティでも、うまくいっている例は、用事もないのに深センに何度も来る人というのがいて、そういう人たちが何か仕事にするんですよね。おもしろいもの見つけたから輸入することを続けていたら、起業していたりとか。

大川 – 明らかに、日本全体の人の割合からして少なすぎますよね。アクティブに実践することに興味を持っている人が。それはすごいもったいないというか残念な感じです。

自分で作ったものを売る

高須 – ものを売るという行為は、面倒くさいんですよ。特に、日本でものを売るのは超面倒くさい。一方、中国のクラウドファンディングはおもしろいですよ、ほんとに。普通のものが十分おもしろいんですよ。

大川 – 普通のものが十分おもしろいのか。

高須 – たとえば、シャオミ[9]が出資したスタートアップの1個なんですけど、Populeleという7000円くらいのインテリジェントウクレレというのがあるんですよ。

大川 – どういうことですか。聞いたことのない言葉ですね。インテリジェントウクレレ。

高須 – 楽器としては普通のウクレレです。ちゃんと弦が張ってあって電源を入れなければ普通のウクレレとして使えます。電源を入れると、指板に入っているLEDがスマホと連動して、押さえる指板が光るんです。スマホで音を聞かせると、チューニングもやってくれて。スマホの画面にタブ譜が出て、音ゲーみたいな感じでこんな風に押さえて。曲が終わるとPerfectとか出て。

大川 – ダンスダンスレボリューションとか太鼓の達人みたいじゃないですか。

高須 – LEDと連動して伴奏もしてくれて、タイミングと音の大きさ測ってくれて。演奏が上達する。7000円くらい。うまくなったら電源入れずにそのまま弾けます。ホンモノのウクレレなんで。

大川 – これを教育アプリですというわけでもないわけですよね。スマートウクレレですね。これを日本の楽器メーカーがなぜ作れないのかですよね。アイデアは思いつくでしょうけどね。

高須 – これは北京のベンチャーが作ってます。ギターもあるけど、ウクレレが売れてるらしい。

大川 – このレベルまで来てるんですね。これ、メイカーフェアに出てるものと全然次元が違います。それで7000円は安すぎますね。

高須 – こういうのがゴロゴロ売られているんですよ。

大川 – やばいな、なるほど。深センに行ったときに感じた感覚と、結局一緒。勝ち目ないじゃんっていう。

高須 – 先日僕が買った、ルンバとブラーバ[10]を足したやつとかも、極まってるんですよ(笑)。1台でゴミ吸うタンクと水掃除のタンクを取り替えて両方で使える。オートマッピング機能で部屋の形を把握して、モップやバキュームそれぞれ別の動きをするんです。あの辺はきちんとロボット開発をやってるなという感じがします。これは約3万5000円。

大川 – そうですよね。それができない理由がないんですよ、今までの産業構造のなかで。日本もやってきたはずなんです、90年代くらいまでは。急にやんなくなっただけで。何がどう足りないんだろうか。

高須 – そんなにすぐに変わるはずもないので、僕はやれる範囲で、身の回りの資本主義を増やしていくしかないと思ってて(笑)。シャオミがまともに日本で家電を売り出すと、日本の家電メーカーはびっくりすると思うんですけど。でも出てきたほうがいいと思います。ぶっちゃけ、日本は面倒くさいから来ないだけなので。

自分で作ることの重要性

高須 – 今は大企業でも、一般職の採用をしていませんよね。

大川 – R&Dとマーチャダイジングだけですね。

高須 – つまり一般職という人間は必要なくなってきているということですよね。

大川 – 非正規の人間を雇えるようになってから顕著になってきましたね。非正規の人の仕事が明らかに人以外にシフトしているという感じです。

高須 – Excelが偉いのかグループウェアが偉いのかはわかりませんが、人がやっていたことを機械がやっている。同じことがハードウェアの世界でも起きていて。これまで面倒くさすぎて、そもそも触ることがビジネスにならなさすぎたハードウェアは、逆に触んないと仕事にならない、つまり面倒くさいことこそが最後の人間の仕事になってくると思われるので、いまだに機械化が通用しづらい世界ですよね。

大川 – 2000年代前半の日本の製造業って、サプライチェーンマネージャーみたいな人が偉かった時期があって。

高須 – 今でもめちゃめちゃ偉いんですけど(笑)。

大川 – サプライチェーンマネージャーが偉いっていうのも製造業としておかしいだろうみたいな感覚です。

高須 – エンドユーザーサプライチェーンマネージメントみたいな感じになってくるんだと思うんですね。データベースアドミニストレーターみたいな仕事が、今はあまりないわけじゃないですか。で、もちろん大きなクラウドは専用のアドミニストレーターを取るんですけど。そう言いながら、今だと1プロジェクトにつき1つの大規模WEBサービスくらいのイメージじゃないですか、ワンビジネスワンクラウドみたいな。そうすると全部にアドミニストレーター置いているかというとそうでもないんだけど、クラウド側も偉くなって、一応それなりにアドミニストレーションができるようになってますよね。たとえば、HTML書くのとか、外注に出さないで内部でできる人がちょっと修正するくらいはやるじゃないですか。同じようにハードウェアに関しても、ちょっとは内部の人がやることになるんじゃないかなと思っていて。

大川 – プログラムをゴリゴリに書けなくてもいいけど、読み書きそろばんのレベルでできないとおかしいっていう世の中に多分なるんだと思います。ハードウェアも同じなんでしょうね。それは我々より上の世代にしてはきつい話なのかもしれないですし。

高須 – 仕事そんなに変わんないですからね、言ってもね。

本質的に正しい中国のIoT

高須 – 中国にはツァイニャオ(Cainiao)っていう物流サービスがあるんですよ。アリババのサービスなんですけど。何をやってるかというと、流通ネットワークをネットワークするっていうことをやっている。どのくらいの規模かというと、クロネコヤマトよりでかい。何がすごいかというと、何がどこから何にどう送ってきてるか、完全リアルタイムでわかるんです。

大川 – やばいですね。いろんな流通チャネルというか輸送チャネルも全部分かっちゃう。

高須 – 順豊(自分で郵送網を持っている中国版のクロネコヤマトのような会社)であろうが、街の郵送業であろうが、他社が持っている流通サービスであろうが、全部ツァイニャオ上のネットワークに1回登録されることになっていて。この間で、どっからスタートしてどこでハンドオーバーして。

大川 – 載せ替えとか詰め替えもわかってるということですね。

高須 – 全部分かります。そのほかにツァイニャオは何をやっているかというと、流通センター同士で、売れそうな貨物前渡しで配送したりとかです。これは、アリババがAIでビッグデータやりたいからやっている事業なんです。

僕がたとえばフリーランスのトラックドライバーだったとして、ツァイニャオに登録しておくと、まだ荷物に空きがあるよってツァイニャオ側に通知を入れると、限界まで荷物を詰めてくれるんですよ。限界まで荷物を詰めてくれて、しかもどこどこ流通センターまでいくやつだけ詰めてくれて。それが発注来てないやつだったりもするんです。AI的に先に送っといたほうがよいことになってるから計算して先を見越して手配してくれる

大川 – 求貨求車とか人が行なっているうちはダメで、よくわからないうちに何かが勝手にやってくれる状態ですね。

高須 – ツァイニャオもむちゃくちゃでかいファンドを持っていて、たくさんの出資を中国の輸送スタートアップとか、ラストワンマイル運ぶロボやりますみたいな会社とか、倉庫の会社とかに出資しています。

大川 – すごいな。

高須 – ちゃんとインターネットやってます。

大川 – いわゆるそれがIoTですよね。

高須 – これは完全にIoTです。だから、ツァイニャオさえつながっていれば、他のシステムは人でも機械でもいいし、正規の従業員でもパートタイマーでもいいわけです。誰がハンドオーバーしようが、とりあえず届くところまでは繋がっています。

大川 – こういうことが実施されている海外の産業を、日本の行政官は知らなきゃまずいですよね。

高須 – おもしろいのが、配送センターはだいたい団地の1階にあるんですけど、配送センター行くと、おばあちゃんが一人でお茶を飲んでいて、その前に整頓されていない段ボールが山と積まれているんです。日本から来た人は、これだけ見て帰るんだけど、裏側はこうなっているからそんな感じでもちゃんと荷物は届くんですよ(笑)。

大川 – 裏ではこういう仕組みがないと無理ですよね。どう考えても世界最先端だけど、現場で見るとそんな感じじゃないんだよな(笑)。日本の大黒ふ頭とかの物流センターの方が先進っぽい見た目なんですけどね。

高須 – 働いているのが全員いい加減で、誰もが働きたくないと思っている中国人でもちゃんとできるシステムっていうのを作ってる(笑)

大川 – そういうことなんですよね。日本だとそこまでやらなくてもできちゃうからやらないんですよ。

高須 – ツァイニャオの流通センター、雨少ない地方だと野積みしてあるんですよ(笑)。

大川 – 日本じゃなくても普通は絶対許されない(笑)。

高須 – 段ボールは当然全部透明のテープで(笑)。

大川 – 破れたりとか穴空いてたりしますよね。でも、へこんでるああいう状態こそがすごい先進的でデジタル。デジタルで表現できているからあんなものでよくて、という意識なんでしょうね。

高須 – あれで届くようにしなきゃいけないシステム作っていかなきゃいけなかったんですよ。それ偉いですよ。それで馬鹿にしていると、工場行くとこういうすごいシステムが急に出てくるんです(笑)。

まとめ

大川 – メイカームーブメントや同人ハードウェアを起点として、新しいデバイスやサービス、本当のIoTサプライチェーンの仕組みまで広がった「新しい産業」は、これから本格的して21世紀の大潮流になると確信を持ちました。これから先の世界を考えるためにも、今日時点で実際に何が起きているのか良く知っておく必要があるでしょう。

講演のご案内

2019年11月22日に東京で行われるWAFで、高須さんの講演を実際に聞くことが出来ます。この記事を予備知識として、新しいテーマの話しや内容のアップデートも含めてお話しされますので、ぜひともお越しください!お申し込みはこちらからどうぞ。

(三浦一紀)


【footnotes】

[1] 東京大学の同級生であった猪子寿之氏等とチームラボを設立し、取締役CTOに就任。その後ロボティクスベンチャーであるユカイ工学を創業。

[2] 深センとサンフランシスコで展開している世界最大級のハードウェアアクセラレータープログラム。

[3] MIT Ph.Dでオープンハードウェアアクティビストであるアンドリュー“バニー”ファン氏の著書。高須さん翻訳。著名翻訳家である山形浩生氏監訳。

[4] 民生用ドローンで世界トップシェアを誇る深センの製造業。

[5] 深センのM5Stack社が作る小型のマイコンモジュール。日本を中心にアジアで急速に普及している。物凄いスピードで製品の改良や新製品リリースが行われる。文中にあるStickC、StickVも新製品のひとつ。https://m5stack.com

[6] 同人活動としてハードウェアを作っている人たち。同人ハードウェアミートアップ()、同人ハードウェアフェス()などイベントを開催。

[7] 深センで日本企業に特化した ODM を行うジェネシスホールディングス()の創業者、代表取締役社長

[8] 日本を代表する電子部品モジュール販売ECスイッチサイエンス()のうち、個人の作品を販売受託する事業

[9] 小米科技(Xiaomi)。北京の総合家電メーカー()。スマートフォンメーカーとして創業し、その後総合家電メーカーへと発展した。2020年度に日本市場に進出すると言われている。

[10] ルンバも製造販売しているアメリカのiRobot Corporation社の床拭きロボット掃除機

© ウイングアーク1st株式会社