コロナ禍が収束すれば、外国人は再び日本で働いてくれるのか?

コロナ水際対策緩和で外国人労働者の確保に期待はかかるが…(写真はイメージ)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の水際対策緩和が急ピッチで進んでいる。10月にも入国者数の上限を撤廃し、個人旅行の受け入れや短期滞在者の査証(ビザ)取得免除なども併せて実施する見通しだ。外国人を待ち望んでいるのは観光業界だけではない。人手不足で外国人労働者を必要としている事業者も、首を長くして待っている。が、コロナ禍の2年半の間に外国人労働者を取り巻く状況は変わっている。再び日本に外国人労働者はやって来るのか?

豪州は日本の2倍の給与でベトナム人を受け入れ

外国人労働者の誘致で最もネックになりそうなのが、急激な円安だ。外国人にとって旅行や買物にはありがたい円安だが、仕事で稼ぐには不向き。コロナ禍直前の2020年3月には1ドル=107円29銭だったが、2022年9月7日には同144円90銭と37円61銭も下落した。米ドル換算だと月額30万円の収入が、約2800ドルから約2070ドルに目減りしたことになる。

コロナ禍が一段落したことで世界中で消費が息を吹き返しており、世界中で深刻な人手不足が起こっている。海を越えた人材獲得合戦も始まっており、コロナ禍前のように外国人労働者が日本へ押し寄せると期待しない方がいいかもしれない。

日本へ最も多く外国人技能実習生を送り込んでいるのはベトナムで、コロナ禍前の2019年に9万1170人が来日した。そこに強力なライバルが現れた。オーストラリアが今年9月から、ベトナム人農業労働者の募集を始めたのだ。月給は3200~4000豪ドル(31万~39万円)、日本の技能実習生の平均給与は16万1700円(2020年)だったので2倍の水準となる。


円安と本国での賃金上昇が労働者を日本から遠ざける

さらにオーストラリアでは年間9カ月働けば残り3カ月は自由に行動できるなど、労働者には魅力的な条件も提示した。オーストラリアが受け入れるベトナム人労働者は年間1000人と少人数だが、好条件だけに優秀な人材が応募するのは間違いない。ベトナム人の出稼ぎ労働者にとって、日本は「すべり止め」の働き先になりそうだ。

円はベトナムドンに対しても今年に入って20%近く下落しており、本国に送金すればオーストラリアに比べてはるかに低い賃金がさらに目減りする。一方、ベトナムの最低賃金も今年7月に約6%上昇していて、円安とのダブルパンチで日本に出稼ぎする魅力は薄れてきた。

2015年までは最も多く技能実習生を日本に送り込んでいた中国が、現在ではベトナムの3分の1程度となっているのも中国での賃金水準が上昇しているからだ。

2019年には9万人を超えたベトナム人技能実習生が、より賃金と待遇が良いオーストラリアなどに流れたり自国内での就業を選ぶようになれば、日本の農水産業や繊維産業、建設業などが働き手を失うことになりかねない。

日本はベトナム以外でもインドネシアやフィリピン、ミャンマーなどの東南アジア諸国から技能実習生を受け入れているが、年間6000〜1万6000人程度と少ない。しかも、円安や他国との人材獲得合戦といった外部環境は変わらず、ベトナム人技能実習生が抜けた穴を埋められるかどうかは不透明だ。

文:M&A Online編集部

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