<南風>追悼 稲盛和夫様

 今の日本で、自らの意思に反した選択をせざるを得ないひとはどれくらいいるだろうか。世界ではまだまだそのような環境で暮らさざるを得ない人々はたくさんいることを考えれば、日本に生まれただけで、世界でもトップクラスに恵まれている。だから、自身の今置かれている環境は自らが選択し、望んだものであるはずだ。

 世の中に完璧な場所など存在しない。見つけようと思えばいくらでも不満や不平は出てくるもの。そうではなく、今与えられた環境で、何ができるか、自分が選択したこの環境に不満を言っても何も生まれない。

 世の中で社会活動と貢献をしているその組織から、あなたが何一つ得るものがない、なんてことはないはずだ。会社や学校や組織は少なくとも1人の個人よりは大きなインパクトを社会に残しているのだから、その本質は何なのか、改めて考えてみる必要がある。

 希代の経営者であり創業者、稲盛和夫氏がご逝去された。恥ずかしながら氏を知ったのは比較的最近。氏の名著「考え方」に記された「能力×熱意×考え方=人生・仕事の結果」という方程式に心から感銘を受けた。

 つまり、どんなに能力があっても熱意や考え方がマイナスなら結果は出ない。逆もまたしかり。ご自身に当てはめたときの解はいかほどだろうか。

 あれだけの功績を残し、自身の「考え方」を愚直に実践してきた氏の90年の重みが、我々にのこしてくれた言葉の遺産を私たちは次世代にも紡いでいく義務を負っている。

 氏のご冥福を心からお祈りしている。そして、次の世代にも稀代のヒーローは必ず誕生するはずだ。いつだってそんな人々の誕生が時代を前進させ、歴史を作る。そう考えると未来は悲観的なことばかりではない。

(周本剛大、琉球動物医療センター院長 沖縄VMAT隊長)

© 株式会社琉球新報社