震災で長女を亡くした母親と大学生が紙芝居を制作 受け継がれる教訓のバトン

震災で幼稚園に通っていた長女を亡くした宮城県石巻市の遺族と大学生が制作した紙芝居が、海外向けに翻訳されることになりました。震災から11年半。教訓のバトンを受け継いだ学生たちの思いを取材しました。

9月8日。石巻市の復興祈念公園で、紙芝居が上演されました。読み聞かせを行っているのは、宮城学院女子大学の橋本有梨杏さんです。
宮城学院女子大学橋本有梨杏さん「『津波が来ます。危険ですので、海に近付かないで高い所に逃げてください』と何度も何度も流れています。しかし、バスは子どもたちを乗せ出発し、海の方に走って行ってしまいました」
紙芝居を聞いているのは、宮城学院女子大学と交流のある千葉県の神田外語大学と城西国際大学の生徒、計19人。紙芝居の題材は、津波で命を落とした幼稚園児です。

石巻市の私立日和幼稚園に通っていた佐藤愛梨ちゃん(当時6歳)。愛梨ちゃんらを乗せた送迎バスは、大津波警報の発令後、高台の幼稚園から海側へ向かい津波に巻き込まれました。震災時、石巻市内の幼稚園で園の管理下で園児が亡くなったのは日和幼稚園だけです。
愛梨ちゃんを亡くした母親 美香さん「大人の判断で助かる命も助からない命になってはいけないと思っています」

震災の教訓を伝える紙芝居

母親の佐藤美香さんは、二度と同じ悲劇を繰り返さないため、命の大切さや震災の教訓を伝え続けています。その中で制作されたのが、この紙芝居です。
紙芝居の制作が始まったのは2021年7月。幼児教育を学ぶ橋本さんたちが、防災学習の一環で被災地を訪れたのがきっかけでした。
愛梨ちゃんを亡くした母親 佐藤美香さん「是非、皆さんに紙芝居作りを協力してもらえるとうれしいなと思っている。小さいお子さんがなかなか理解できない部分があったりする。紙芝居仕立てにすることで、分かってもらえるきっかけになるような紙芝居ができれば良いと思う」

美香さんが未来の保育士に託したバトン。学生たちは、震災を知らない子どもたちに津波から命を守ることを伝えるため、美香さんから話を聞き紙芝居を作りました。
完成したのは2022年3月。タイトルは「忘れないよ小さな命とあの日のこと」。
愛梨ちゃんを亡くした母親 佐藤美香さん「いつまでも残る慰霊碑をつくりました。みんなの思いを込めた祈りの石です。子どもたちの思いは今も、そしてこれからもずっと生き続けています」
宮城学院女子大学橋本有梨杏さん「遺族の方の思いとか私自身が伝えたいこともあったので、時間かけながらでも頑張って今、こんなふうに形になってひと安心しています」

防災教育に役立てられる

紙芝居は、防災イベントで読み聞かせが行われるなど、防災教育に役立てられています。
愛梨ちゃんを亡くした母親 佐藤美香さん「だんだん震災自体が風化しつつある中で、小さい子どもたちにいかに伝えていくか。自分がいざ子どもたちの前に立った時に、命の大切さ、子どもたちを守らなければいけないんだと作りながら考えてくれた」

完成から半年。紙芝居に新たな展開がありました。紙芝居を制作した宮城学院女子大学が、神田外語大学、城西国際大学と連携し、海外向けに翻訳するプロジェクトを始めたのです。
この日、2つの大学の学生は、石巻市南浜地区を訪れました。愛梨ちゃんが乗っていた送迎バスが見つかった場所です。
学生たちは震災の教訓を胸に刻みます。遺族と学生が作り上げた紙芝居。
宮城学院女子大学橋本有梨杏さん「大きくて真っ黒な姿をした津波がものすごい速さで子どもたちの所へやってきました。バスや町中の建物を飲み込もうとしているのです」
翻訳されるのは、学生が専攻している中国語と韓国語です。学生たちが遺族から受け取った教訓のバトンを世界へ。

教訓のバトンは世界へ

神田外語大学 三浦明子さん「もし、次に震災、災害が起きてもなるべく多くの命を失わずに済むようにという思いを込めて作っていきたい」
神田外語大学 岩間功祐さん「その後の世代に伝えていくことも世界に伝えることも必要だと思うので、その場面では我々の力が必要になっていると自分たちの存在意義も感じることもできますし、それによって世界の人たちがそこから何か学びや気付きを得てくれれば良いかなと思います」
宮城学院女子大学橋本有梨杏さん「これからを生きる人にも津波、地震の怖さを伝えていきたいですし、今、生きている人に命の大切さを感じてもらえるような紙芝居が今後もつながっていったら良いなと思う」

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