<秒読み 西九州新幹線開業> 『鹿児島ルートの先例』 部分開業でも経済効果 「くまモン」集客、素通り防ぐ

新大阪行きの新幹線が止まる鹿児島中央駅ホーム。西九州新幹線開業を知らせるポスターもあった=鹿児島市

 九州新幹線長崎ルート(博多-長崎、143キロ)のうち、西九州新幹線(武雄温泉-長崎、66キロ)の開業まであと9日に迫った。新たな高速移動手段は、本土最西端の長崎県に何をもたらすのか。九州新幹線鹿児島ルートという先行事例も引き合いに、“秒読み”に入った現状と課題をリポートする。
 JR長崎駅を在来線特急かもめで出発、新鳥栖駅で九州新幹線さくらに乗り換え、鹿児島中央駅まで3時間足らず。かもめとさくらの乗車時間は、ほぼ同じだが、距離は後者が2倍以上長い。同駅構内には、西九州新幹線開業のPRポスターが張られていた。
 鹿児島ルートも当初は部分開業だった。だが、鹿児島経済同友会の津曲貞利代表幹事(65)は「結果として二度おいしかった」と振り返る。先に新八代-鹿児島中央が営業を始めた2004年度、この区間の鉄道利用者数は前年度比2.3倍に跳ね上がった。「終着地としての課題が分かった。2次交通の整備やおもてなしの向上、観光資源の磨き上げなどを全線開業までの7年間のうちに改善できた」という。
 全線開業した11年度は、熊本-鹿児島中央の利用が同1.7倍に増えた。博多-鹿児島中央の移動時間は部分開業で90分短縮、全線開業でさらに50分短縮し、最短1時間17分となった。山陽新幹線にも乗り入れ、関西圏へのアクセスが飛躍的に向上。鹿児島銀行系シンクタンク、九州経済研究所(当時は別称)の試算によると、初年度にして463億円の経済効果を鹿児島県にもたらした。
 一方、熊本県内では「全線開業しても素通りされる」との懐疑的な見方が少なくなかった。同県は日帰り圏内となる関西に集客の照準を絞った。アドバイザーに起用された同県出身の脚本家、小山薫堂氏は、ゆるキャラ「くまモン」を世に出す。関西各地に出没し名刺を配り回る一風変わったPRが「あのクマ何やねん」と話題を呼んだ。熊本地震(16年)の影響を受けながらも、熊本市内の宿泊客数は全線開業前年からの10年間で35%伸びた。
 今なお課題はある。鹿児島、熊本両県の担当者は、開業効果を県内全域に波及させる難しさをそろって口にする。新設しても軌道に乗らず廃止したバスなどの2次交通は少なくない。新幹線開業に伴いJR九州から経営分離した並行在来線「肥薩おれんじ鉄道」は開業2年目から赤字を積み上げている。
 博多という大都市と離れた「終点」側からフル規格で整備・開業する過程は、長崎ルートも同じ。同研究所の福留一郎経済調査部長(56)は、鹿児島ルートの実績から「西九州新幹線は長崎に一定の効果をもたらす」と予測する。ただ鹿児島の場合、部分開業した04年時点で既に全線フル規格整備が国から認可されていた点を踏まえ、こう指摘した。「長崎ルートは全線開業という“ゴール”がまだ見えていない。この違いは小さくはない」


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