エネルギー密度を10倍以上高めた新しい液体電池(フロー電池)を開発

送電網を使わない新しいエネルギー供給方法を提案。脱炭素に向けた再エネの普及に貢献する。

2022年9月14日
ARM Technologies株式会社

<要約>
・ARM Technologies株式会社(エーアールエムテクノロジーズ、所在地:神奈川県相模原市、代表取締役:荒木紀歳)は、これまでにない新しい機構の液体電池(フロー電池)を開発した。
・今後定置用蓄電池として普及することが期待されている既存のフロー電池(バナジウムレドックスフロー電池:VRF)の10倍以上のエネルギー密度、300Wh/Lを達成した。
・開発した新機構のフロー電池は、充電した液体燃料のみを取り出して運搬出来、運搬先でそのエネルギーを使用できる。さらに、その燃料は消費されず繰り返し利用できる。これまでになかった新しい電池の利用方法が可能となる。
・この新技術を用いて、太陽光発電、洋上風力発電等、適した環境で発電された安価な再エネをこの電池で液体燃料に充電し、エネルギー消費量の多い人口密集地域へ送電ロスなく液体燃料を運搬することで、距離や地域の制約を受けずに“低価格な再エネ”の普及を加速させたい。

<新型フロー電池の原理図と液体燃料、充放電セルの写真>

<背景>
脱炭素社会に向けて再エネ価格を低減させることが必要不可欠です。日本国内の太陽光発電コストに注目すると既に火力発電コストに匹敵するほど低価格化が進んでいます。再エネ価格のさらなる低価格化や普及を妨げている要因の一つが、”既存の送電網を利用した電力の供給”であると考えています。
日射量の多い九州で発電したエネルギーを東京で利用することは、送電ロスの観点から非現実的で、発電した各地域で利用しています。天候によっては、消費しきれない電力は買い取ってもらえないという事態も発生しています。多くの安価な再エネは人口集中地域から外れた地域で発電されることが多く、人口集中地域ではその安価な再エネの恩恵を受けにくいのが現状です。
世界的に見ればそれはさらに顕著です。特に日射量が多いアラブなどの砂漠地域のAl Dhafra Solar PV IPP projectでは約2円程度で売電されており、日本の原子力発電コストの1/5程度です。電気を高効率で長距離輸送できれば、世界中にある安価な再エネを遠く離れた地域でも安価なまま利用することが可能となります。
<液体電池による高効率なエネルギー輸送>
このような背景の中、弊社では、高効率でエネルギーを輸送する手段として、液体へ電気を貯める液体電池(フロー電池)に着目して研究を進めてきました。
リチウムイオン電池等の一般的な畜電池は、エネルギーを貯める材料(活物質)以外に、集電体、セパレーター、端子、外装材等から構成されています。電池ごと運搬する場合、エネルギーを蓄えることに寄与しない材料も同時に運搬することになり、効率的ではありません。新たに開発したフロー電池は、電気を貯めた(充電済みの)液体のみを抜き出し、既存の石油タンカー、タンクローリーで運搬することが可能で、より効率良くエネルギーを輸送できます。また、この燃料は、形状のない液体であることから、運搬時の積み替え等でも容易に取り扱うことができます。もちろん送電ロスはありません。
液体へエネルギーを貯める畜電池として、バナジウムレドックスフロー電池(VRF)が既に実用化されています。VRFはリチウムイオン電池と比較して、安全性が高く、長寿命といった特徴があります。しかしながら、VRFはリチウムイオン電池に比べて1/10程度のエネルギー密度であり、充電状態の液体を運搬する際に、一度に運搬できるエネルギー量が小さくなり、単位エネルギー量当たりの運搬コストが高くなります。
水素においても、同様に運搬して利用する試みがなされていますが、常温常圧で気体である水素を一度に大量に運搬するためには、圧縮もしくは冷却して液化するなど、エネルギーを投入する必要があります。水素をトルエンなどの液体の化学物質に付加する手法も試みられていますが、水素を取り出す脱水素化に350℃以上の加熱が必要であり、現状において高効率とは言えません。
今回弊社が開発した新型のフロー電池(液体電池)は、常温常圧で液体状態である液体燃料にエネルギーを貯めることができ、既存のVRFと比較して10倍以上のエネルギー密度(300Wh/L)を達成しました。
これにより、エネルギー運搬時のコストを1/10以下にすることが可能となり、世界中で発電した安価な再エネを安価なままどこででも利用できるようになると考えます。
今後は、資本業務提携、共同開発などの協力を得ながら、電池特性の向上、寿命確認、量産技術を確立し、早期の実用化を目指します。
*技術詳細などは弊社HPをご覧ください。