地質学の視点から豪雨災害考察 和大客員教授の後さんが著書

「紀伊半島大荒れ 大地の成り立ちからみた豪雨災害」を出版した後誠介さん

 地質学や災害科学が専門の和歌山大学客員教授、後誠介さん(69)=和歌山県那智勝浦町=が、2011年9月の紀伊半島大水害を考察し、課題や提言をまとめた本「紀伊半島大荒れ 大地の成り立ちからみた豪雨災害」(はる書房)を出版した。

 11年の大水害では、紀伊半島の広い範囲で土砂災害が多発した。後さんは調査団の一員として、斜面崩壊や土石流が発生した現場に行き、瞬間的に「でき方の違う大地は、壊れ方が違う」と感じたという。この経験を踏まえ、地質学の視点で豪雨災害を考えようと本にまとめた。

 いわゆる「専門書」ではなく、一般読者を意識した平易な文章を心がけ、写真や図表を多用している。過去の災害などをテーマにしたコラムも収録している。

 本は3部構成。第1章では、11年の大水害で被害が大きかった那智川流域(那智勝浦町)の住民から聞き取った被災体験談をもとに、災害の発生過程や要因を詳しく解説している。

 第2章で、紀伊半島の大地の成り立ちや特性を説明。その上で、地質図から分かる大水害の「3つの不思議」として、(1)大規模崩壊は山の北向き斜面で多発(2)大きな岩塊を伴う土石流は南向き斜面で多発(3)最も雨量が多かった北山川の上・中流域では、崩壊の規模・頻度が低かった―を挙げ、大規模な土砂災害の場合は、森の植生や手入れの具合よりも、大地そのものに災害の要因が潜んでいるのではないかとして、これらの「不思議」について考察している。

 第3章では、防災の課題に焦点を当てている。11年の大水害では、大規模な土砂災害が起こった時に、どの市町村も住民への避難を促す情報を発表していなかったと指摘。土壌に含まれる水分量の変化を知るための「土壌雨量指数」が、ある一定の数値を超えると、土砂災害が起こる危険度が極めて高くなるという研究結果があることに触れ、この指数を活用した「土砂災害警戒情報」の発表時には遅くとも避難する必要があると言及した。

 後さんは「人々の生活、歴史、文化、そして防災について、大地の成り立ちという視点から、理解を深める人が増えてほしい」と話している。

 本はA5判、120ページで、価格は税込み1430円。紀南各地の書店に並んでいる。

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