海水温上昇と津波の影響で宮城県の海に大量発生したワタリガニ 特産になりつつあったものの水揚げが減少

宮城の海の異変についてです。海水温の上昇や津波による海底の変化で、震災後に爆発的に急増したワタリガニ。特産になりつつありましたが、ここ数年、水揚げが減少しています。

宮城県石巻市の万石浦で、40年以上漁をしている阿部喜一さんです。午前5時半。前日に海底に仕掛けた網を引き揚げると、かかっていたのはワタリガニ。
以前は、めったに取れませんでしたが、東日本大震災以降その数が急増しました。
漁師阿部喜一さん「カレイ網を揚げて、それにワタリガニがかかってきたもんだから、それ始めたんです。(以前は)カレイ、シャコエビが主体、それをメインにしてやってたんだけど、それが変わってきてるんだな。震災後、だんだん、だんだん」

主に、西日本の暖かい海に生息しているワタリガニ。甲羅の大きさは15センチほどで、ゆでたり蒸したりするほか刺身としても食べられます。
県内のワタリガニの水揚げ量は、2010年までは年間で2トンから3トンの水揚げしかありませんでしたが、翌年から急増。
2015年に愛知県を抜いて全国一になると、ピークの2017年には716トンと震災前の360倍という驚異的な数を記録しました。

急増したワタリガニの水揚げが減少に転じる

石巻市のほか、七ヶ浜町や亘理町など県内の沿岸部で水揚げされるようになったワタリガニ。今、その数が減少しています。2019年に大幅に減少すると、2021年は335トンとピークの半分ほどでした。
漁師阿部喜一さん「本当はこの倍ぐらいかかるんですよ、この網にね。少ないですよ」
この日取れたワタリガニは約20キロとピークの半分以下。価格は計2万円から3万円ほどで、燃料費を考えるとぎりぎり採算が取れる量です。
漁師阿部喜一さん「水揚げ高が少ないから我々に入ってくる金額も少ないんだ。経費かかっているから取れれば良いけど、取れないと(採算が取れない)。これより取れる時もあるし、これより少ない時もあるし、分かんない。そん時の状況によって」

ワタリガニはなぜ増えたのか。
県水産技術総合センター鈴木貢治さん「ここ最近、秋口から冬場にかけての水温の低下が鈍い。比較的、冬を越せるような状況になっていた可能性もあるんじゃないかなと」
県水産技術総合センターの鈴木貢治さんは、近年の海水温の上昇で、ワタリガニが宮城県でも冬を越えられるようになったことに加え、震災の影響があるとみています。
県水産技術総合センター鈴木貢治さん「あれだけの巨大な津波が来たわけなので、それによる底質の変化。泥とか、ガザミ(ワタリガニ)が好むような場所が増えたというかですね」

減少の理由は

津波によって巻き上げられた泥が大量に海底に堆積し、泥場を好むワタリガニにとって生息しやすい環境になったと考えられています。
一方で、減少傾向にある理由については。
県水産技術総合センター鈴木貢治さん「減った要因については、基本的にまだ何も分かっていないというのが正直なところですね。なので、基本的には漁獲動向を今後も注意していかなきゃないと思っていますね」

七ヶ浜町で、カフェレストランSEASAWを営む久保田靖朗さんです。地元で水揚げされたワタリガニをメイン料理に使っています。
カフェレストランSEASAW久保田靖朗さん「状態の良い、この時期の状態の良いカニですね」
提供しているのはワタリガニのパスタ。ゆでてほぐしたワタリガニの身を麺に混ぜ、甲羅で取った濃厚なだしと自家製のトマトソースに絡めた一品です。
客「カニの味がすごいぎっしり詰まってておいしいです」「ここの一番で、すごい手間をかけて作ってますって仰ってたので、食べてみたいなと思って初めて食べたので」

メイン料理に影響が

久保田さんは、震災のボランティアを機に2012年に県外から七ヶ浜町に移住。当時、豊富に取れていたワタリガニを使って町に人を呼び戻したいと店をオープンしました。
パスタが評判を呼び客足が増えている一方、ワタリガニの水揚げが減ったことで仕入れに影響が出始めていると言います。
カフェレストランSEASAW久保田靖朗さん「(仕入れに)少し時間がかかる。例えば100キロ、ストックお願いしますと言った時に、100キロのカニが今までだったら例えば1週間とか2週間でストックできて仕入れることができたのが1カ月くらいかかって、ストックしたものを仕入れるとかっていう形には少しずつなってきているかなと思いますね」

町の特産になりつつあるワタリガニ。久保田さんは、漁獲の動向を注視したいと話します。
カフェレストランSEASAW久保田靖朗さん「一時期のようなカニの町みたいな、カニがすごいんだみたいなところからは、落ち着いてきたかもしれないですね。でも、それはある種、正常に戻ってきているということなので。自然のことですからね、もう全然それが、それに対応していくというだけかなと思っています」

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