藤沢・遊行かぶき、今年で幕 市民手作りで四半世紀活動 最終公演は「小栗判官と照手姫」再演

「小栗判官と照手姫」で照手姫が夫とは知らず土車を引く場面(「遊行舎」提供)

 藤沢市民がつくる伝統文化の再創造を掲げ、1996年から公演を開始した「遊行かぶき」が今秋、四半世紀にわたる活動に区切りを付ける。同市在住の劇作家で演出家の白石征さん(82)が率いる市民劇団「遊行舎」が、時宗総本山の遊行寺(同市西富)の本堂で旗揚げ公演を行って以来、中世の説経節(語りもの芸能・文芸)などをモチーフに現代と交錯させた演劇を発信してきた。

 出版社の編集者だった白石さんは都内から同市へ転居したのを機にアマチュア劇団を立ち上げ、一遍上人の広めた踊り念仏を伝承する遊行寺を核とした中世文化と藤沢との関わりに着目。伝統と現代演劇を融合させた独自の演劇様式による現代の「民衆かぶき」を目指し、「遊行舎」へと発展させた。

 初演の「小栗判官と照手姫─愛の奇蹟」は同寺境内の長生院に墓のある小栗判官を巡る説経節が題材。以降、編集者時代に親交のあった故寺山修司氏が代表的な説経節を舞台化した「身毒丸」など新型コロナウイルス禍前の2019年まで30回以上の公演を重ねてきた。

 白石さんは「中央の権威ではない、市民が作り上げる真のアマチュア演劇を目指した。中世都市藤沢から街の中の演劇を発信しようと考えた」と振り返る。

 遊行かぶきでは、白石さんの骨太で繊細な構成、演出、寺山演劇で世界に名をはせたJ・A・シーザーの呪術的な音楽、中世説経節の政太夫による語りが融合。旗揚げ当初から参画している制作総括の新戸雅章さんは(73)は「説経節が持っている『死と再生』の神話性を通して、現代が直面する精神の危機に対置すべき『幸福のかたち』を追求してきた」と説明する。

 白石さんが活動に一区切り付けようと考えるようになったのは10年ほど前。「年齢のこともあり、後継者を探したが、なかなか見つからなかった。地元に根を下ろした文化、芸能活動の種を撒(ま)くことができた」と、今回で幕引きを決断した。

 最終公演では、遊行かぶきの原点である「小栗判官と照手姫」を再演。相模の国で毒を盛られ亡者・餓鬼阿弥(がきあみ)となった小栗判官が、土車に乗せられ熊野へたどり着き、よみがえるという小栗伝説を照手姫との愛を軸に描く。

 公演は9月30日、10月1、2日の3回で、会場はいずれも湘南台文化センター市民シアター。料金は一般3千円(前売り2800円)、大学生2千円、中高生千円。問い合わせは、遊行かぶき実行委員会電話080(5065)3267。

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