歴史上稀に見る急激な円安…その背景と、日本がこれから進むべき道とは?

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。9月12日(月)放送の「フラトピ!」のコーナーでは、加速する“円安”について深掘りしました。

◆止まらない円安、24年ぶりの円安ドル高水準に

円相場は9月7日、一時1ドル=144円98銭となり、24年ぶりの円安ドル高水準に。これを受け、鈴木財務大臣は「(急激な円安が)継続することになれば必要な対応をとる」としましたが、為替介入に関する具体的な言及はありませんでした。

円相場は9月に入り、約1週間で円安が5円以上、今年1月からは29円以上の円安となっています。

キャスターの堀潤は、政府の対応に「もどかしい」と所感を述べます。世界中が金融引き締めに動くなか、日本で今金利を上げると経済が立ち行かなくなる可能性もあり「日銀としても構造的に転換することは非常に難しいんだろうなと思う」と歯痒い様子。

株式会社ABABA代表の久保駿貴さんの周囲では、急激な円安により輸出入に関わる事業者だけでなく、海外向けに事業を展開しているIT事業者も売上が減少しているという現状に触れ、「この水準が数年続くのであれば、ベンチャーやスタートアップも海外を視野に入れ、日本法人ではなく最初から海外でスタートしたほうがいいんじゃないかという動きも出てくるかもしれない。どこかで歯止めがかかるような施策が必要だと思う」と見解を示します。

一方、NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星さんは「今回の円安は、"ドル高”と言ったほうが正しい。日本だけではなく各国の通貨もドルに対して安くなっている」と解説します。

さらに、「このドル高の要因もアメリカ経済が強くなったからではなく、単純にアメリカが金融政策として、インフレを抑えるために金利を爆速で上げているだけ」と述べ、「FRB(米連邦準備制度理事会)が世界銀行であるということが今回改めて明らかになり、世界中がその被害を被っているが、日本はまだ上手く抑えているほうだと思う」と現状を評価します。

◆円安の影響は企業だけでなく家庭にも…食品の価格高騰

今回の円安の背景には、FRBによる利上げがあります。FRBはインフレを抑制すべく3回連続で0.75%の利上げを視野に入れており、ECB(欧州中央銀行)も通常の3倍である0.75%の利上げを決定。一方で、日本銀行は景気下支えのため超低金利を継続しており、その結果、金利差が拡大。高金利のドルを買い、円を売る動きが進んでいます。

堀は「景気下支えのため」という部分に注目。日本は長らくデフレに苦しみ、日銀は市場にお金を投入していくと決めていましたが、稼ぐ力が戻ってこないのが現状。

臨床心理士のみたらし加奈さんは、そうしたなかで賃金が上がらず、物価だけが上がっている状況を懸念。「メンタルヘルスの観点で言えば、経済的なことが精神的な問題に繋がることが多い。それこそ円安が自殺率やメンタルヘルスに直結しているように感じる」と危惧します。

物価の高騰は、家計にも大きな影響を及ぼしています。食品の値上げは9月で2,400品目以上、10月は過去最多の6,532品目となり、年内では2万56品目の値上げが決まっています。主要飲食料品メーカーの値上げも105社中82社となっており、全体の約8割を占めている状況です。

家計への負担は1ドル145円の場合、政府の対策などがなければ年間10万3,486円上がると試算されています。

こうした状況に対し、政府は9日に「物価・賃金・生活総合対策本部」を開き、低所得世帯(約1,600万世帯)1世帯あたり5万円の給付やガソリンの補助金の年末までの延長、さらに輸入小麦の政府の売り渡し価格の据え置きといった対策を掲げ、その費用はコロナ対策とあわせて3兆円台半ば、これを予備費より支出するということです。

大空さんは、真っ先に行うべきこととして「GDPギャップを埋めなくてはいけない」と需要不足の解消を訴えます。そして、短期的には「現金給付、財政出動しかない」と主張。「この状態で日本が利上げすれば失業者が続出し、本当に日本経済がダメになる」と案じ、「(財政出動を)今やらないでいつやるのか、数十年に一度のタイミングがまさに今」と懇願します。

久保さんは長期的な視点として、「日本産業、技術をもっと大事にしてほしい」と言及。「24年前は少なくとも日本は輸出立国で日本の会社も潤い、世界の時価総額ランキングでも上位に入っていたが、今やスマホは海外製品、エネルギーも海外頼り。もっと日本の企業、産業を大事にするような目線の政策も必要」と切望。

大空さんは、これまで企業に対して財政出動をしてきたものの、それが企業の内部留保になっていることもあると指摘し、「企業側もお金を出し、設備投資に回していく。それによって労働者のマインドを変えていかないといけない」と主張。それは大変なことではあるものの、今こそやるべきことで「とにかく財政出動をやる、景気の下支えをした上で金融緩和も継続していくべき」と自身の考えを述べます。

◆この円安はどこまで続くのか…そして対策は?

では、この円安局面はいつまで続くのか。岸田首相と日銀の黒田総裁は9日に会談し、黒田総裁は「1日に2~3円も動くのは急激な変化だ。総理から特別な指示・要望はなかった」と注視していく姿勢を強調。また、日銀の金融政策決定会合が21日・22日に行われる予定ですが、そこでは大規模緩和を維持すると見られ、歴史的な円安傾向は依然続く見込みです。

堀は、稼ぐ力が見えてこない日本の先行き不透明感を懸念します。今後どうしていくべきなのか、久保さんは若手のスタートアップに期待しつつ、「円安が進むと国力が弱くなってしまう。ドルと円のバランスの取れた適正の価格があると思うので、我々の努力も必要だが、(政府には)そうしたところに持っていってほしい」と希望。

大空さんは「元気な国というと発展途上国を思い浮かべがちだが、(そうした国は)労働単価が低く、先進国の下請けをやり、それによって経済が成長している」と言い、「国内回帰は良いように聞こえるが、日本の労働単価が中国や東南アジアよりも下がると、当然給料も上がらない。下請けをやって、いわば発展途上国のようになっていく」と明言。その上で「どっちがいいのか、円安を含めて議論していかなければならない」と提起していました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:00 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組Twitter:@morning_flag

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