究極のカタログシリーズ『ジャズ百貨店』 名盤BEST 20 第5回:オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。10月・11月に新たなラインナップ100タイトルが登場するのに先駆けて、これまでに発売された全510タイトルの中から“いま”最も売れている20枚をピックアップし、個性豊かな執筆陣が紹介します。

あの体格、骨格を生かしてダイナミックに弾きまくるヴィルツオーゾ、というのが一般的なオスカーのイメージだが、このアルバムを聴くと、常に抑えの効いたタッチでスウィンギーに良く歌う粋なジャズ・ピアニストだということがわかる。特に「コルコヴァード」や「イパネマの娘」などのボサノヴァ・チューンは終始弱音ペダルを使用しているようだ。ブルージーな音使いが彼の持ち味だが、ビバップ・イディオムも随所に見られる。

<YouTube:Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado)

これぞオスカーだな!という速いフレーズを聴き取ってみると、例えば[ラ ド ミ ソ# シ]といった9度(1オクターブより2音上まで)に渡るアルペジオを軽々と弾いている。筆者の手のサイズだと7度くらいの感覚で弾いているんだろうな。

ピアノの背後にベース、その奥にドラムというイレギュラーな配置。大西順子さんや海野雅威さんもこの配置を好んでいるが、筆者もトライしたことがあり、共演者が視界にいないことでより音を敏感に感じ取れる。ただし、アルバム作品での音の位相は、主役のピアノが真ん中、右にベース、左にドラムとなっており、大きなスピーカーで聴くと臨場感が半端ない。

ピアノ・トリオでのインタープレイを改革したのはビル・エヴァンスと言われているけれど、このアルバムも勝るとも劣らない掛け合いが堪能できる。エド・シグペンはさすがにビート・キープ主体だが、レイ・ブラウンのアプローチはメロディアスで音域も広く、スコット・ラファロに匹敵するアグレッシヴさだ。

オスカーのピアノは決してアウトしたり、あからさまに不協和音をぶつけたりはしない。「ジョーンズ嬢に会ったかい?」のブロックコード主体の奏法など、ゴージャスで耳当たりの良いカクテルピアノという印象だが、どんなにソフトなタッチでも粒立ちの良さが揺るぎなく、芯の強さと色気によって“金粉”がついたような印象を醸し出す。“金粉”を感じさせるピアニストってオスカー以外にいるだろうか?

アルバムを通してソフトタッチな味わいだなあ、とくつろいで聴いていたら、ラストの「グッドバイ J.D.」で、やはりオスカーの真骨頂であるダイナミックな速弾き炸裂。いやぁやっぱりスゴイや!

文:坪口昌恭<Ortance、東京ザヴィヌルバッハ>
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【リリース情報】

オスカー・ピーターソン・トリオ『プリーズ・リクエスト』
UCCU-5556
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