「登録有形文化財」で食べるヘルシー定食 生まれ変わった九段会館【にっぽん食べ歩き】

 1934年、「軍人會舘」として開業し、戦後は「九段会館」の名称でホテル、レストラン、結婚式場に使われた登録有形文化財が、「九段会館テラス」として生まれ変わった。

「九段会館テラス」の外観=東京都千代田区

 建築当初の意匠を生かし、リニューアルした建物の地下では、社員食堂の機能を持ちつつ地域に開かれたレストランが、産地や栽培方法にこだわった食材を活用した定食などを提供する。(共同通信=中村彰)

 開業より一足早く「九段食堂 KUDAN-SHOKUDO for the Public Good」で味わったのは「Local Comfort Teisyoku」(1370円)。

「Local Comfort Teisyoku」

 メインは「奥州いわい鶏香草パン粉焼き」。岩手県南部で、植物性たんぱく質を中心に広葉樹の樹液と海藻の粉末を配合した飼料で育てた銘柄鶏は、かむほどにジューシー。ソースとなじんだたっぷりのパン粉と香り高い香草が相まって黒米ご飯の箸を進めてくれる。

 「ロロンかぼちゃのスープ」は滑らかで、ほのかで上品な甘みが心地いい。たっぷりの野菜サラダはみずみずしく、かすかに大地の香りが漂う。

 予定メニューの一つ「Plant Based Protein Salad」(提供写真)

 運営会社「モノサス」(本社・東京都渋谷区)によると、全国の農家から直接仕入れるオーガニック食材を使い、バランスの取れたメニューを心がける。「生産者・料理人に加え、ビルで働く人たちと共に生産から消費まで考えていく食堂」がコンセプト。「働く人や暮らす人の健康を食で支え、それが全国各地の小さな生産者も支えることにつながる」と担当者は話していた。

 メニューはほかに「Worker’s Teisyoku」(890円)、「忙しくても健康的カレー」(750円)などリーズナブルな価格帯のものや、いろいろなサラダを予定している。ガラス張りの向こう側は、北の丸公園とお堀が借景となる。折しもハスの葉の緑が鮮やかだった。

お堀のハスの緑が映える「九段食堂 KUDAN-SHOKUDO for the Public Good」

 旧九段会館は戦前、戦中期は予備役兵の訓練や宿泊に使用。戦後は進駐軍の宿舎となったが、57年からは日本遺族会が運営。2011年の東日本大震災でホール天井が崩落したのを機に国に返還。17年に東急不動産と鹿島が土地・建物を落札し再開発プロジェクトを進めてきた。

 建物は大正から昭和の初期にかけて公共機関に多用された「帝冠様式」。コンクリート造りで瓦ぶきの傾斜した屋根が特徴だ。建物内は当時先端の意匠が凝らしてあり、日本の近代建築の歴史の中でも、貴重な存在だ。

 再開発に当たり両社は正面など建築当時の面影を残す部分を保存。免震工事や劣化したコンクリートの補修を行い、新たに建設した17階建てのビル部分と合わせ、レトロとモダンが融合するオフィスビルを目指した。

 正面の玄関ホールは建設当時の褐色の大理石を活用。二つのバンケットルームは耐震性を向上させた上で、資料を参考に床材やシャンデリアを復元した。

 以前は応接室などとして使われていた2室は、VIPの控室などに使える「ゲストルーム」に。昭和初期のしっくいの天井を復元するため、新たな工具を作ることから始めた。工事の過程で見つかった鳳凰(ほうおう)のレリーフも活用している。

建設当時の意匠を生かしたゲストルーム、右が鳳凰のレリーフ

 館内には通常のオフィス部分に加え、シェアオフィスやテナントで働く人向けのラウンジ、屋上庭園、クリニックなどを設置。10月1日に開業する。

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