<熊谷6人殺害>妻子亡くした夫「納得できない」きょう命日 抱く疑念、反省感じない警察…隠し事か

長女が描いた絵を見つめる加藤裕希さん=13日午後、熊谷市

 埼玉県熊谷市で2015年9月、ペルー人の男(37)=強盗殺人などの罪で無期懲役=に男女6人が殺害された事件は今月、発生から7年がたった。妻の美和子さん(41)、長女美咲さん(10)、次女春花さん(7)=いずれも当時=を失った加藤裕希さん(49)は、3人の命日である16日を前に埼玉新聞の取材に応じた。県(県警)を相手取り国家賠償請求訴訟を提起したが、今年4月の一審判決で訴えは退けられた。県警の説明に不信感を抱く加藤さんは「真実を話してもらいたい」と訴え、10月から始まる控訴審に臨む。

 県警が不審者の逃走などを周辺住民に知らせることを怠ったため、ペルー人の男に妻子3人を殺害されたとして、県(県警)を相手取った国家賠償請求訴訟で、加藤さんは約3年半の間、情報提供の不徹底など県警の責任を追及してきた。しかし、さいたま地裁(石垣陽介裁判長=代読・市川多美子裁判長)は今年4月、「県警に情報提供の義務があったとは認められない」などとして請求を棄却した。

 判決から半年が経過したが、加藤さんは現在も悔しさのあまり一審の判決文に目を通せていない。内容は弁護士から聞いて理解した。「(判決は)なぜうちの家族が狙われなければならなかったのかが欠けている気がする。予見できなかったというのは納得できない」。亡くなった3人の家族にも、しっかりとした報告はできていない。

 防災無線などで住民に注意喚起をしなかったのは、警察権の不行使で違法と主張してきた。「周知していれば家族は犠牲にならなかったと思う。1件目の事件で無差別の可能性があるということを言ってくれれば、熊谷市全体がもっと危機感を持ったのではないか」と考え、「防災無線や家を1軒ずつ回って知らせるなど、いくらでもやり方はあった。警察は(男の逃走を)隠したかったのではないか」と疑念を抱く。

 判決理由で石垣裁判長は「原告の妻らの生命や体に対する危険が切迫していたとは認められない」と指摘。防災無線の使用については「どの程度の情報提供がなし得たか分からず、効果は不明」と判断した。

 「市民の感覚とずれがある」と加藤さん。「事件当時、どういう状況だったのかもう一度考えてもらって、(情報の周知が)必要だったと認めてもらいたい」

 一審では、元熊谷署長や元県警捜査1課長=いずれも定年退職=などの証人尋問も行われたが、「警察内部は当時の大事な部分を隠している気がする。反省も見られない」と感じ、「警察も誇りを持って仕事をしているのであれば、真実を話してもらいたい」と訴える。

 判決後、加藤さんは一審判決を不服として東京高裁に控訴。10月からは東京高裁で二審の第1回弁論が開かれる予定となっている。「ここで終わるわけにはいかない。気持ちを切り替えてやらないといけない」。事件から7年。自らを奮い立たせるように語った。

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