沈没しかけたミニボートから救助要請…到着した海上保安官を唖然とさせた光景 「浮力の原理」無視かい!【敦賀海保日誌】

救助の様子(2022年8月・福井県美浜町沖)※手前:救助に向かう潜水士

突然ですが、みなさん、船はなぜ水に浮かんでいられるのかご存じでしょうか?まぁ浮かばないと船じゃないだろって言われるとそれまでなんですが…。日常の光景の中でも「なぜ」と聞かれると知らないことって意外と多いですよね。

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船が浮かぶ原理は、今から二千年以上前に古代ギリシアのアルキメデスさんがお風呂に入っていた時に思いついた「アルキメデスの原理」というそうで、「浮力」という力がかかわっています。物体が水の中に入ったとき、本来そこにあるはずだった水がその物体の大きさの分押しのけられることになります。この押しのけられた水の重さと同じ重さの物体を浮かせる力が働くことになり、これを浮力といいます。

つまり、船が浮かんでいられるのは、押しのけた水の重さよりも船の重さが軽くなるように設計されているからなんです。ということは、船の重さが浮力を超えるとどうなるか分かりますか?…

8月中旬、福井県美浜町の沖合でボートフィッシングを楽しんでいたという男性2人から、海上保安庁118番に通報が入りました。通報の内容は「自分たちが乗っているミニボートが浸水している。助けてほしい。」という救助要請。遭難したミニボートの現在位置は岸から4kmも離れた海の上、現在もまだ浸水中だということで、事態は急を要します。

この日、ミニボートの遭難現場となった美浜町の沖合に配備していた「巡視船えちぜん」が、敦賀海上保安部からの指示を受けて直ちに出動!巡視船えちぜんに搭載されている救難艇がミニボートの救助に向かい、通報からわずか18分後には現場に到着しました。

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するとそこには、中に海水が溜まって今にも沈んでしまいそうなミニボートに乗った男性2人の姿が!急いで潜水士が男性たちのもとに向かい、2人を救難艇に移乗させて無事に救助することができたのでした。無事に男性たちとミニボートを近くの漁港に引き揚げ、この事故の経緯を聞きました。

男性たちはこの日、朝の8時ころに美浜町沖合のポイントに到着して釣りを始めたそうなのですが、30分くらい経ったころから風が強まり波が高くなってきて危険を感じたため出発地に引き返そうとボートを走らせていました。すると、そこに大きな波がボートに打ち付けて中に海水が入ってしまい、航行できなくなったということでした。

海上保安官の調査の結果この事故の原因、実は「積荷の過積載」にありました。ミニボートは、操縦資格や船舶検査を必要としない船舶になるのですが、その要件の1つとして船体の長さが3m未満と小型のものであることがあります。そんな小さなボートの中に大人の男性が2人乗り込み、そのほかクーラーボックスや釣り道具などなど、海上保安官が一目見て「積みすぎ!」と思ってしまうほど大量の荷物が載せられていたんです。

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男性たちに聞くと、過積載の影響で当初からボートの乾舷(水面から上に出ている高さ)はわずか20cmほどだったそうで、そこに波を受けて簡単に浸水してしまったようです。

もっと言うならば、この日は風が強くなるという予報であったにもかかわらず出航を強行したこと、また、小さなボートで岸から4kmも離れた海域まで進出していることについても、事故をひき起こした原因と言えるでしょう。

今回の事故、浮力の原理を無視して、荷物を載せすぎたがための事故でした。

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まさにアルキメデスへの冒涜!

“浮ついた”気持ちで荷物を載せすぎて、ボートを“沈めて”しまっているのでは、元も子もなし!「積荷」と「命」の重さ、軽く見てはなりません。ですよね!アルキメデスさん!!(敦賀海上保安部・うみまる)

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