ウッドファイバーが10月末で木質繊維断熱材製造を終了

ナイス(神奈川県横浜市)の100%子会社であるウッドファイバー(同、田原武和社長)はこのほど、同社苫小牧工場で行っている木質繊維断熱材の製造を今年10月31日で終了するとともに、12月1日付でナイスの100%子会社であるスマートパワー(神奈川県横浜市、福田健作社長)を存続会社としてウッドファイバーを吸収合併することを取引先に伝えた。9月30日で原材料仕入れ及び新規受注を終了する。ただ、ナイスの全国営業所網に同製品は在庫されており製品販売は継続する。

環境適合を重視する欧州では木質繊維断熱材は主流の断熱材となっており、ドイツを中心に複数の大手メーカーが活発に製造販売している。2021年11月、英国のグラスゴーで開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26 )会場近くに建設された「COP26 Beyond Zero homes」では、世界的に信頼されるFSC、PEFC森林認証、またCE(欧州安全性能基準)、EPD(環境製品宣言)に基づく環境規則に適合した木質繊維断熱材が全面採用され話題となった。

一方、日本での木質繊維断熱材は前身の株式会社木の繊維時代から同社が唯一のメーカーとして孤軍奮闘し、啓蒙と普及に取り組んできた。

現在、供給されている主な木質繊維断熱材は、イケダコーポレーション(大阪府)がドイツのシュタイコ社輸入代理店としてフレックス、デュオドライ、吹き込み式のゼルの3種類を、ジャーマンハウス(埼玉県)がドイツのグーテックス社輸入代理店としてECOボードの名称で屋根、壁、床用及び充填用(ソフテック)を取り扱っている。

これらのドイツ勢がウッドファイバー製造終了後の代替需要を獲得できるのかは微妙で、急激な円安進行も影響して輸入コスト高となっており、むしろ木質繊維断熱材全体の日本における市場性を後退させる公算が強い。これまでも木質繊維断熱材の主たるユーザーは環境面で差別化を図る工務店、建築家がほとんどで、草の根的に少しずつ需要を開拓していった経緯がある。

ウッドファイバー最大の特徴は原材料が国産材針葉樹間伐材等で製造されていることで、カラマツ、トドマツなどの北海道産材をはじめ、原材料丸太を持ち込むことで、割高にはなるが、地域産材指定にも対応してきた。

性能面では優れた透湿性が特筆される。吸放湿性能(ウッドファイバー40K)は吸湿量229g/㎡、放湿量で180g/㎡と、グラスウール24Kに比べ吸湿量で15倍以上、放湿量で13倍以上、セルロースファイバーと比べても2倍近い性能を有する。

断熱性能では特に熱が伝わる速度を示す熱容量の大きさが最大の特徴だ。ウッドファイバー(55K/㎡)は高性能グラスウール(16K/㎡)の6倍強にもなり、それだけ外の熱の建物内に侵入する速度が遅く、木質繊維断熱材を採用する工務店の多くは夏の暑さを意識することが多い。

熱伝導率は0.038(W/m・k)でZEH等の省エネ住宅にも採用することができる。また、吸音性能、防火性能、施工性能等にも優れている。

コストが最大のネック

価格面で対抗できず

最大のネックはグラスウールと比べコストがかなり高いことだ。木質繊維断熱材の長所を総合的に評価できない工務店は価格の段階で採用を見送るケースが多かった。グラスウール断熱材価格もここへきて大幅高となっているが、まだまだ木質繊維断熱材が価格面で対抗できる水準ではない。

ウッドファイバーの前身である木の繊維は2007年7月に苫小牧市に設立され、敷地面積2万5000㎡の広大な用地にドイツ製の木材解繊設備を導入、2009年から製造・出荷を開始した(年間生産能力は3000㌧)。木質繊維断熱材で唯一JISの適合性認証を取得、しかしながら思うように需要が伸びず、2017年にナイスに売却、社名をウッドファイバーとして製造販売を開始した。ナイスに経営が移管して以降も受注面では苦戦が続いていた。

ナイスでは先ごろ、全国の傘下営業所や物流センターにウッドファイバーの木質繊維断熱材を在庫し、取引先に対しきめ細かい在庫販売を開始したところであったが、木質バイオマス発電燃料向けとの原材料競合、成型つなぎ材や難燃剤等の輸入副資材価格の高騰もあり、今回の決定となった。

在庫限りで製品販売は継続

製造は終了となるがナイスの全国営業所網などでウッドファイバー木質繊維断熱材を引き続き在庫しており、在庫限りとはなるが製品販売は継続される。いくつかの工務店は木質繊維断熱材の長所を評価し、HEAT20・GⅡ適合住宅で使用されたケースもあり、当面は在庫があることから供給は継続されるが、木質繊維断熱材標準仕様で差別化してきた工務店や建築家は将来的に新たな仕組みの検討に迫られそうだ。

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