小田急でスゴいのはロマンスカーだけじゃない!! シモキタの地下化と子ども50円運賃で三題噺【コラム】

2018年の複線化完成と同時期にデビューしたロマンスカー・GSE(70000形)(写真:鉄道チャンネル編集部)

本サイトなどで2022年はじめ、ちょっとした話題を呼んだニュースに、「小田急特急ロマンスカー『VSE(50000形)』が2022年3月のダイヤ改正を機に定期運行を終了」がありました。そう、小田急といえばロマンスカー。新宿と箱根湯本を結ぶ看板特急(他区間にも運転されます)は、鉄道ファンの方、一般の方ともども、常に「乗ってみたい列車」の上位にランクされます。

でも、小田急の魅力はロマンスカーだけじゃない。快適性を追求した一般車両、遅れが少なくストレスなく利用できるダイヤ、住んでみたくなる沿線街づくり、そのいずれもが小田急ブランドといえます。本コラムは「東北沢―和泉多摩川間の複々線化・地下化」、そして最近の注目株「子どもIC運賃一律50円」を三題噺に仕立て、〝小田急のここがスゴい〟にまとめました。

最後には小田急広報・環境部の藤田雄介課長から、サイトをご覧の皆さんへのメッセージもいただいています。ぜひご覧ください。

運転士の心理をダイヤに反映

最初のお題は少々専門的になりますが、「運転士の心理をダイヤや信号システムに反映」。もう4年前になりますが、小田急は2018年3月のダイヤ改正で、東北沢―和泉多摩川間(10.4キロ)の複線化・連続立体交差事業が完成し、大きな課題だったラッシュ時の遅延が解消されました。

2018年3月の複々線化完成で、下北沢駅でテープカットする山木利満会長、星野晃司社長、五十嵐秀取締役・交通サービス事業本部長(いずれも当時)。小田急はこの時のダイヤ改正で列車を増発、輸送力を40%程度アップしました(筆者撮影)

ロマンスカーなどの優等列車と普通列車の運転ルートを分けて遅れを減らす、当たり前といえばその通りですが、実は小田急はこの時、運転方法を工夫して、運転士の心理をダイヤや信号システムに反映。複々線区間で遅れを回復する列車の増加につなげました。

運転士はダイヤや車両性能を頭で組み立て運転方法を判断する

運転士は常に列車を適切な速度で走らせようとするわけですが、それでは何を基準に運転方法を判断するのでしょう。

(順不同で)①列車ダイヤ、②車両性能、③周辺列車の動き、④線路条件(勾配、曲線など)、⑤駅での着発、⑥駅構内の停止位置、⑦信号設備ーーといった要因を瞬間瞬間で判断して組み立てながら、速度を上げたり下げたりします。頭の中で組み立てる過程は、「運転士の心理」と表現できるでしょう。

鉄道会社はダイヤを組む場合、列車運行をシステム上に再現しますが、多くの列車が在線するラッシュ時を完全に再現するには限界もあります。ましてや、データ化が困難な運転士の取り扱いや心理を表現するのは、不可能ともいえました。

通常の信号で待つか、それとも先行列車に接近するか

話を小田急に寄せます。2013年3月、東北沢ー世田谷代田間が地下化されました。新宿方面の上り列車は世田谷代田手前(小田原方)の梅ケ丘から下り勾配を降りることになり、遅れを発生させない、遅れを回復できるダイヤというか運転方法が求められました。

この時、小田急は先行列車に続行する急行の運転方法として、通常の信号で停止して待つか、それとも運転取り扱いを変更して、(もちろん安全を確保した上で)先行列車にさらに可能な限り接近して停車させるかの2案を比較検討しました。

運転士の心理を考慮した運転方法をシミュレーションした結果、通常の信号で停止した方が遅れが生じにくいという結論が導き出されました。実際に地下化後の新ダイヤでも、シミュレーター通りの結果が示され、研究の正しさが証明されました。

複々線区間手前の運転方法を見直し

話は続きます。2018年3月には東北沢―和泉多摩川間が複々線化され、列車増発など輸送力が大幅に強化されました。

小田急はこの際、複々線区間手前に当たる新百合ケ丘―向ケ丘遊園間の運転方法を見直しました。同区間は新ダイヤで列車本数が大幅に増えましたが、複々線区間に遅れを持ち越さないダイヤが求められたからです。

具体的には、運転士の心理も踏まえ、制限速度を信号機に表示するなどシステムを改修して運転士を支援。その結果、同区間で遅延を回復できた列車の割合はダイヤ改正前(2017年4~12月)の64.5%から改正後(2018年4~12月)は73.8%に上昇。こうして、小田急は遅れの少ない快適ダイヤを実現しました。

小田急の新しい信号システム。左は新百合ヶ丘駅の出発信号機で、抑速制御運転する列車に、抑速制御が適用されることを伝えます。右は生田駅で、ここから時速70キロまで速度を上げられることを伝えます(画像:小田急電鉄)

地下にもぐった線路の跡地は「下北線路街」に

線路が地下に移設され、スタイリッシュに生まれ変わった下北沢駅。下北沢では京王も「ミカン下北」と名付けたしたた高架下開発に取り組みます(写真:t.sakai / PIXTA)

二題目は、「地下にもぐった地上の線路跡に新しい街が出現」です。前段でも触れた東北沢―世田谷代田間の地下化。線路が地下にもぐると、地上はどうなる? そうです、元が線路ですから細長い空地が出現します。

小田急は、劇場などカルチャーの街として来街者の多い下北沢(シモキタ)を中心に、地下化区間の地上部を「下北線路街」と名付けて開発しました。

地元の世田谷区、下北沢で井の頭線が接続する京王電鉄とも歩調をそろえながら、商業施設、長屋型住宅兼店舗、都市型ホテルなどを誘致・整備しました。

月のオブジェをアートのウサギが見上げる

下北線路街で開催中のムーンアートナイトの月のオブジェとウサギのもちつき。写真ではよく分かりませんが、月もかすかに発光しています(筆者撮影)

その下北線路街で、2022年9月25日まで開催中なのが「アートフェスティバル・ムーンアートナイト下北沢」。中秋の名月の10日にスタート、約2週間にわたるイベントは、小田急が線路街でアートギャラリーを運営するスタートアップ企業・スタートバーンや、下北沢商店連合会と共同で企画しました。

メーンは線路街東北沢寄りの広場に展示される、直径7メートルの月のオブジェ「ミュージアム・オブ・ザ・ムーン」。イギリス出身のアーチストのルーク・ジェラムさんが制作、世界30以上の国・地域で展示され、夜は穏やかに発光して幻想空間を演出します。

オブジェの月を見上げるウサギは、オーストラリアを拠点に活動するアマンダ・パーラーさんの作品。月の模様を「ウサギのもちつき」に見立てるのは日本と韓国だけのようで、シモキタには世界でもオンリーワンのアート空間が出現しています。

地域連携イベントとして。下北沢駅から1キロ弱離れた北澤八幡神社には、パーラーさん制作、身の丈7メートルの巨大ウサギも公開されます。

小田急は今回を初回に、毎年秋のイベントとして定着を図るそう。駅界わいではデジタルアートのスタンプラリーを実施中で、お出かけの方はスマートフォンをお忘れなく。

「子供IC運転50円」筆頭に企業広報に高評価

企業広報大賞の表彰式で、十倉雅和経済広報センター会長(経団連会長)=前列右から3人目=と星野社長=左隣=を囲む小田急CSR広報部の面々(筆者撮影)

最後の三題目は、「子どもIC運賃50円」から派生した話題。本サイトでも紹介させていただきましたが、小田急の子育て支援の取り組みが、日本経済団体連合会(経団連)の関連機関・経済広報センターの第38回の「企業広報賞」で最優秀賞の大賞を受賞し、2022年9月8日に表彰セレモニーが開かれました。

小田急が狙うのは、暮らしやすく住んでみたくなる沿線街づくり。前の二題にも視点は共通します。世の中には、「お子さまランチ300円」とか、子ども料金を割安にしてファミリーを呼び込む戦略があふれますが、これだけ注目されたのは、やっぽり〝ロマンスカーの小田急〟だからでしょう。

新宿線、浅草線の「子育て応援スペース」(都営地下鉄)、「たまモノこどもワンデーパス」(多摩都市モノレール)など、鉄道業界でも子育て支援の取り組みが続きます。

ファンの皆さんとの共存共栄が企業広報のモットー

企業広報大賞は、産業界では珍しい企業広報を対象にした表彰制度。ということで、会場で藤田広報部課長にサイトをご覧の皆さまへのメッセージをいただきました。

「小田急ではおよそ4000人の社員が、鉄道のほか流通、街づくり(不動産)、ホテルなどそれぞれの分野で、社会や地域への貢献を目指して、日々活動しています。われわれ広報は、そうした活動を発信するのが役目です。

当然、情報を受け取る皆さまがいらっしゃってはじめて成立する仕事。小田急ファン、鉄道ファンの方々とも、共存共栄が最大の目標です。小田急グループの施策に関心をお持ちいただけるよう、発信方法などに工夫を重ねたいと心しています。今後ともご愛読、ご声援よろしくお願いいたします」

記事:上里夏生

※2022年9月18日9時47分……一部修正いたしました。

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