第7波で死者が急増… 新型コロナの重症者少ないのになぜ?

重症の定義について話す渡部広明教授

 島根、鳥取の山陰両県は新型コロナウイルスの第7波で感染者数が急増し、連日のように死者が確認されている。両県の発表では重症者は数人しかいないにもかかわらず、ほぼ連日のように亡くなる人が出るのはなぜなのか。コロナ治療に携わる医療従事者に聞いた。

 島根大医学部付属病院(出雲市塩冶町)高度外傷センター長の渡部広明教授(52)は感染症を含む災害医療や外傷診療が専門。島根県広域入院調整本部のメンバーで、コロナ感染者の症状を見て入院先を決めたり、クラスター(感染者集団)が発生した施設での感染対策について助言したりと、現場の司令塔を務める。

 山陰両県のコロナでの死者数は島根88人、鳥取67人(12日時点)。第7波が訪れる前の6月末時点の死者の累計は島根が16人、鳥取が20人だった。重症者の報告はともに一日0~3人程度であるのに対し、死者がかなり増えている。第6波まではみられなかった特徴だが、重症を経ずに亡くなってしまう患者が多いということなのだろうか。

 渡部教授はコロナの波ごとに県内での死亡率(患者数に対する死亡者の割合)を調査している。調査結果によると、最初に流行した「アルファ株」が主流だった、第4波の死亡率が0.29%と高く、第7波は0.11%。渡部教授は「第7波で死亡者が激増したように感じるが、それは感染者の絶対数が桁違いに増えたため。死亡率で見るとむしろ減っており、ウイルス自体は弱毒化したと言える」と解説した。

 重症者の報告数に反して死者数が目立つ点について、渡部教授は「コロナ重症者の定義が関係している」と話した。

 ▼コロナ以外の要因で死亡か

 渡部教授によると、厚生労働省が定めたコロナの「重症」の定義は、人工呼吸器が必要な状態であることと集中治療室(ICU)に入っていることの二つ。山陰両県を含むほとんどの自治体が、厚労省と同様に重症者を定義し、発表している。

 渡部教授は「第7波以降、コロナの重症化が直接要因となって死亡した人はほとんどいない」と言い切る。死亡者の多くはコロナに感染する前から基礎疾患を持っていたり、高齢で寝たきりになったりしているという。感染によってさらに体力が落ち、基礎疾患の悪化や、高齢者に多い誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こすことで亡くなっていると指摘し「コロナの重症と、基礎疾患や別の病気の重症は別物として扱われる」と強調した。

 仮に基礎疾患の治療のため、抗がん剤やステロイドを投薬していた患者がコロナに感染したとする。薬には免疫力や抵抗力が低下する副作用がある上に、感染したことでさらに体が弱る。この時、コロナ自体が軽症だったとしても、コロナ以外のウイルスや細菌が体内に侵入することで、別の病気にかかり、重症化する可能性がある。

 渡部教授によると、感染者が別の病気で重症化していても、人工呼吸器が必要な肺炎を起こしていない限り、コロナの「重症」には当たらない。ただ、そのまま死亡した場合はコロナ感染者の死亡という扱いになる。こうして、コロナ症状としての重症報告はされず死亡するケースが多いという。

 重症者の報告が少ないにもかかわらず死者が多いのは、以上のような理由からのようだ。ウイルスが変異し、従来の重症の定義に当てはまらなくなってきているものの、渡部教授は「重症の定義を今、変更すると、これまで蓄積してきた感染者のデータが意味をなさなくなる」と、現行の定義を続けることを望む。

 ▼高齢者は基礎疾患無くても危険

 渡部教授は現在のウイルスの特徴として、死亡者のほとんどが高齢者である点を挙げる。「県内の死亡者は大半が75歳以上。高齢者が感染した場合、基礎疾患が無くても危険」と警鐘を鳴らす。

 感染した高齢者が入院し、寝たきりで体を動かさなくなると、痰(たん)が出にくくなる。痰は細菌やウイルスが肺に入らないように異物を粘液でくるみ、せきと一緒に体外へ排出するもの。体を動かさず痰が出ないことで肺に異物がたまり、病気を引き起こしたり痰自体が喉につまったりすることもある。

 また、コロナによる体力低下やけん怠感で飲み込む力が弱まることで、口の中の細菌を含む唾液や食べ物が誤って気管に入り、肺が炎症を起こす、誤嚥性肺炎の危険性も高まるという。渡部教授は「コロナ感染による誤嚥性肺炎で亡くなる高齢者は全国的に多い」とする。

 第7波で主流のウイルスは感染力が強く、両県では高齢者施設でのクラスターもたびたび発生している。現状が続けば、死者も増加しかねない。渡部教授は「若い人は重症化しにくいが、その分、自身が感染しても気付かず、自宅などの高齢者に移す可能性はある。若い人こそ無意識で他人に移さないよう、あらためて感染防止の意識を高めてほしい」と注意を呼びかけた。

 ▼感染者依然多い山陰、今後の見込みは

 山陰両県では6月下旬から感染者数が増加し、8月17~20日には、ともに千人を超える感染者(島根)が連日確認された。現在はやや減少したが、感染者は一日に300~600人と高止まりの状況だ。

 島根県は9月5日に258人にまで下がったものの、6日には933人と、再び千人近い感染者が確認された。島根県感染症対策室の田原研司室長は「全国的にピークアウトの兆しがあるが、県内ではまだ下がり方が鈍い。学校の2学期の開始がどう影響しているかなどを分析し、対応を決めたい」と話した。

 鳥取県は9月1日に551人が確認されて以降、500人以下が続いていたが、6日には568人と再び500人台に増えた。鳥取県新型コロナウイルス感染症対策推進課の福田武史課長は「ピークは超えた認識。ただ、第6波までと比べて感染者が多く、依然として先が見通せない状況」と悩ましい様子だ。

 また、鳥取県は2日、全数把握の簡略化を先行実施し、感染者の発生届の対象を高齢者らリスクの高い人に限定した。医療現場の負担軽減や患者へのきめ細かい健康観察が狙いで、福田課長は「重症化リスクのある人をより手厚くカバーできる態勢をつくった。各所と連携しながら、県民の命を守り、感染拡大の防止に努める」と強調した。

 夏休みが終わり、両県の各地で学校の新学期が始まった。若い人の感染者が増えると、波及して高齢者の感染や死亡のリスクが高まることにつながる。第7波のピークは超えつつあるものの、引き続き、感染予防に対する警戒感を持って日々の生活を送りたい。

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