増田惠子は「そして、ここから」も歌い続ける!ソロ40周年&バースデーライブレポ  “ケイちゃんイズム” を実感したスペシャルな一夜

「ケイちゃんをお祝いしよう!」全国からファンが詰めかけたビルボードライブ

「初心を忘れず、自分のルーツを大事にする」

“ケイちゃん” こと増田惠子がかねてより人生の指針として口にする言葉である。そして――

「齢を重ねるのは素敵なこと。60代の今だから歌える歌がある」

これは最近のインタビューでのコメントだ。9月2日(金)、ビルボードライブ横浜で開催されたソロデビュー40周年記念公演『40th Anniversary & Birthday Live“そして、ここから...”』は、その “ケイちゃんイズム” を堪能できるスペシャルな一夜となった。

奇しくもこの日は増田の65歳の誕生日。しかも、7月27日にリリースした40周年アルバム『そして、ここから...[40th Anniversary Platinum Album]』(詳細は『増田惠子「そして、ここから...」歌手としての多彩な魅力が味わえるソロ40周年アルバム』参照)を引っ提げてのアニバーサリーライブとあって、会場には「ケイちゃんをお祝いしよう!」と全国からファンが詰めかけた。

増田がビルボードライブのステージに立つのは今回が初めてで、有観客でのコンサートはコロナ禍前に開催した2019年12月のよみうり大手町ホール以来、2年9ヶ月ぶり。公演は16時30分開演の1stステージと、19時30分開演の2ndステージの2回行なわれたが、白バラを思わせるエレガントなワンピース姿の主役が登場すると、いずれも万雷の拍手が巻き起こった。

待ちわびたこの日。感極まったケイちゃんの姿にもらい泣き

1曲目は「奇蹟の花」(2005年 / 8thシングル)。友人でもある沢田知可子が作詞を手がけたメロディアスなバラードで、テーマは菩薩のような深い愛。増田は近年「癒しの声」とも評される、穏やかな低音とファルセットを駆使してしっとりと歌い上げる。これからの時間が愛に満ちたものになることを予感させる、オープニングにふさわしいナンバーだ。

MCの第一声は「皆さん、お元気でしたか!? 会いたかった!!」――。還暦を迎えてから特に感受性が豊かになったという増田だけに、最初から感激モード全開。この日を待ちわびていたのだろう。コロナ禍で約3年間、コンサートの自粛を余儀なくされてきただけに、その言葉には「やっと皆さんの前で歌える」という喜びに溢れていた。感極まったケイちゃんの姿にもらい泣きしたのは筆者だけではないはずだ。

続けて来場への謝辞を述べた増田は昨年11月28日、自らのソロデビュー記念日に初挑戦した無観客の配信ライブについて言及。「いくつになっても新しいことにチャレンジできるのはとても刺激的で、素晴らしい経験だった」と振り返りつつ、そのことで自分が「ケイちゃん!」という声援と拍手、そしてステージから見えるファンの笑顔に支えられてきたことを改めて実感したと打ち明けた。さすが、いくつもの大舞台を経験してきたシンガー。睡眠3時間未満が当たり前だったピンク・レディー時代を駆け抜けることができたのも、コンサートにおけるファンの大歓声が何よりも原動力になっていたのだろう。

「皆さん、今まで本当にありがとう。そしてここからも一緒に歩いてくれますか?」

その呼びかけにマスク姿の観客が割れんばかりの拍手で応えると、2曲目は新曲の「Del Sole(デル・ソーレ)」を披露。40周年記念アルバム『そして、ここから...』のリードチューンともいえる同曲はエレクトロスイング調のダンサブルなナンバーで、増田は恩師・土居甫のもとで修業した渡辺美津子が考案した振り付けで軽快に歌い踊る。スタジオ音源では打ち込みを多用しているが、この日のステージはピアノ(森丘ヒロキ)、ギター(齋藤純一)、チェロ(中西圭祐)、パーカッション(山下由紀子)、コーラス(YUKA)の精鋭によるアコースティック編成。少人数ながら多彩なサウンドを見事に奏でてオーディエンスを魅了する。増田自身も全幅の信頼を置いており、バンドメンバー紹介でも “チーム・ケイ” の絆の強さが伝わってきた。

そして、やはり新曲の「観覧車」「Et j'aime la vie(エ・ジェム・ラヴィ)~今が好き」「向日葵はうつむかない」の3曲を続けて歌唱。いずれもミディアムスローだが、曲調も、詞の世界観も異なる楽曲を持ち前の表現力で繊細に歌い分ける。MCではそれぞれの作品が生まれた背景を丹念に解説。恩師・阿久悠の未発表詞に宇崎竜童が曲をつけた「観覧車」、昨年9月に他界した作曲家・上田知華の遺作となった「Et j'aime la vie」、そしてやはり阿久の未発表詞に恩師の都倉俊一が曲をつけた「向日葵はうつむかない」に対する想いや、自身が楽曲に対して抱いているイメージなどが語られた(詳細は『増田惠子インタビュー ① 40周年アルバムのテーマは “アンチ・アンチエイジング”』参照)

続いてアルバムタイトル『そして、ここから...』について、「今まで私が皆さんと一緒に歩んできた時間、選んできた道、紡いできたものを大切に抱きしめながら、これからも凛としてしなやかに生きていきたいという思いを込めました」と明かした増田は「メッセージソング」として3曲を歌唱。そう表現したのは、今の彼女にとって心に響くメッセージがたくさん含まれている歌だと感じていたからかもしれない。

会場を大いに盛り上げたピンク・レディーの代表曲「UFO」「渚のシンドバッド」

その3曲とは――。
まず「愛唱歌」(2014年)は宇崎竜童・阿木燿子夫妻から提供された「増田惠子版マイ・ウェイ」。若き日の恋など、自身の人生とそこにいつでも寄り添ってきた歌を重ね合わせたドラマチックな歌詞で、齢を重ねるほどに味わいが増すバラードと言える。

2曲目は1stステージが「人生の扉」(オリジナル:竹内まりや)、2ndステージがシャンソンの名曲「愛の讃歌」。ともに以前から歌っていたカバー曲だが、ライブのセットリストに入れるのは久しぶりとのこと。前者は50代を迎えたときに出会って惚れ込んだ曲、後者は越路吹雪をはじめ、名だたる歌手が歌い継いできた大スタンダード。それぞれタイプは違うが、時を経たことで解釈が深まり、今回改めて歌ってみたいという気になったという。その言葉どおり、熟成したボーカルには年輪を刻んだことによる優しさや温かさ、そして人生への愛おしさが満ちていた。

続く3曲目は増田がデビュー前に通っていたヤマハのボーカルスクールの講師で、のちにシンガーソングライターとしてデビューする山崎アキラが作詞・作曲を手がけた「Key」。山崎は2016年に旅立ってしまったが、増田は自身が30代のとき同曲を提供された経緯を語り、早逝した恩師を偲んだ。おそらくこれからも山崎への感謝を胸に大事に歌い続けていくことだろう。

ここまで60代の増田惠子ならではの世界を堪能したところでライブは後半に突入する。MCでは『スター誕生!』(日本テレビ系)でミイとケイをスカウトした芸能プロデューサー・相馬一比古との想い出に触れたあと、7月8日に東京ドームの巨人×DeNA戦で始球式を務めたときのエピソードを披露。事前に250球の投げ込みをして絶好調だったのに、本番ではへなちょこな球しか投げられず悔しかったこと。帰宅してビデオを観たら、解説者が笑って「これはボークですね、ケイちゃん」とウケてくれていたので救われたことなど、笑いを交えて再現し、会場の空気を和らげる。

そして19歳のとき、阿久と都倉から提供された初めてのソロ曲「インスピレーション」(1977年)を当時の声色に近づける形で歌唱。続けてピンク・レディーの代表曲「UFO」「渚のシンドバッド」(いずれも1977年)を、なんとピンヒールのサンダルを履いたままで完璧に歌い踊り、会場を大いに盛り上げた(ライブの写真を見れば、ケイちゃんの美しいふくらはぎを確認できる)。

しかし世はコロナ第7波の真っ只中。いつもなら場内総立ちで歌いながら振り付けを真似するところだが、この日は着席のまま上半身だけで踊り、心の中で口ずさむこととなった。それでも筆者は大満足! 2ndステージでは話の流れで「カメレオン・アーミー」の曲名を挙げた増田に、拍手でリクエストするハプニングが起きたが、それだけピンク・レディーの楽曲が時代を超えて愛され続けている証しといえよう。

ピンク・レディーとしてのデビューから46年、ソロデビューから40年を経ても研鑽を怠らず進化を続ける増田惠子

かくして会場のボルテージが最高潮に達したところで、ライブは終盤へ。まずはニューアルバムに収録された新曲5曲のなかの残る1曲「こもれびの椅子」を、続いて中島みゆきから提供された大切なソロデビュー曲「すずめ」を歌って本編を締めくくった。前者はイタリア出身のピアニスト、アルベルト・ピッツォの美しいメロディに、増田と同い年のヒットメーカー・松井五郎が詞をのせた水彩画のようなバラード曲。松井との歓談から生まれた、60代の今だからこそ理解できるカップルの姿を描いた詞を初めて見たとき「なんて素敵な歌詞なの!」と感動したという。

本編最後を飾った「すずめ」はいつもより少し軽めのボーカルが新鮮で、“ニュー・ケイちゃん” の印象。ピンク・レディーとしてのデビューから46年、ソロデビューから40年を経ても研鑽を怠らず、今なお進化を続けていることを感じさせる記念公演だった。

鳴り止まぬ拍手のなか、2ndステージではバンドメンバーが「Happy Birthday To You」を演奏&歌唱。再び舞台に立ったケイちゃんにスタッフからサプライズケーキが贈られた。「こんな素敵なバースデーを迎えられて幸せです!」と喜びを爆発させた増田は改めてファンに感謝を表明。

「不安もあったけれども、今日のライブで自信がつきました。もっともっと身体を鍛えて、さらにいい歌をお届けできるように自分を磨いていきます。また近いうちにお会いしましょう。みんな大好き!」

―― と感涙にむせびながら喝采に応えた。

約80分の公演で、歌手・増田惠子のルーツともいえる恩師5人(阿久悠、都倉俊一、土居甫、相馬一比古、山崎アキラ)の関連曲を歌った増田は一方で60代の充実を体現する新曲やカバー曲も多数披露。「ケイちゃんがあんなに輝いているんだから自分も」と思わせるパフォーマンスで、満場の観客を魅了した。

アンコールでは「この曲で少しでも皆さんに元気を届けたい」とのコメント付きで「Del Sole」を再び歌唱。早くも振り付けを真似するファンが現れるなか、記念のステージは華やかに幕を閉じた。しかしそれは “増田惠子2.0” の始まりでもある――。この日の来場者は、みなそう感じたに違いない。

カタリベ: 濱口英樹

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