現役・大ママ90歳 開業57年「店が一番」 敬老の日

「お客さんとの会話が楽しい」と話す山﨑さん=佐世保市、グリル博王

 扉の向こうから客の笑い声と歌声が漏れてくる。長崎県佐世保市瀬戸越4丁目の飲食店「グリル博王」。「いらっしゃいませ」。声の主は「大ママ」こと山﨑悦子さん。90歳。客のおなかを満たし、時に悩む人の背中もそっと押す。“みんなのお母さん”は、笑顔で客を迎えている。19日は敬老の日。
 背筋を伸ばし、身だしなみを整え、午後6時から未明まで店に立つ。営業時間や店内の雰囲気はスナックのようでもあるが、メニューにはちゃんぽんや刺し身など充実した料理が並ぶ。オープンから57年。「店に出るのが楽しみ。休みの日が寂しい」。常連客との会話が元気の源だ。
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 店を始めたのは1965年。今は「天職」と言い切るが、当初は「家族が食べていくために仕方なく」だった。
 炭鉱マンだった夫と結婚し、福岡市内で暮らした。炭坑が閉山し、夫は佐世保市内の企業に転職するも倒産。当時、長女は3歳、長男は2歳。夫は牛乳配達や廃品回収などをして家族を支えた。山﨑さんは、夜は食堂を営み、昼は廃品回収を手伝った。睡眠時間は1日4時間程度。「苦労は必ず喜びに変えよう」。自らを励まし、奮い立たせた4年間を経て、好きだった料理一本に絞った。
 出会いに恵まれた。仲間が仲間を呼び、オープン当初からにぎわった。家族ぐるみで付き合い、オープン時に結成された飲みグループは、メンバーが80代になった今も定期的に集まる。別グループで利用する常連の松尾恵子さん(86)は「店で一緒になった人とは友達になる。(山﨑さんが)明るく、話していて楽しい」。週末は全ての席が埋まるほどの繁盛ぶり。市中心部から車で10分ちょっと離れた場所だが、うわさを聞いて訪ねてくる人も多い。
 だが、常に順調だったわけではない。90年には漏電で店が全焼した。そして夫の闘病と他界。新型コロナウイルス禍では営業できない期間もあった。「辛い時はいつも(客に)支えてもらった。私にはこの店が一番」
 山﨑さんは悩み相談にも乗り、客から「打ち明けて良かった」と言われることも多い。十分過ぎるほどもてなす。話して飲んで食べて、満足して帰ってもらうのが何よりの喜びだ。支え、支えられて今がある。
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 平日の夜。一人また一人と常連客が入ってきた。思い思いに過ごす客を見つめ、山﨑さんは満足そうに笑っていた。


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