“1番列車で地元を走る”西九州新幹線 諫早出身の運転士・西尾麻衣子さん 資格取得、夢かなえる

「女性が運転士を目指すきっかけになるとうれしい」と西九州新幹線かもめの前で話す西尾さん=長崎市尾上町、JR長崎駅

 新幹線を運転し、地元を走る-。23日に開業する西九州新幹線(武雄温泉-長崎)の運転士約20人の中で唯一の女性、西尾麻衣子さん(31)=長崎県諫早市出身=は、その夢をかなえる。しかも、開業初日に長崎駅を始発で発車する「1番列車」を任された。
 2013年にJR九州に入社。初任地の博多駅で駅員として勤務し、男性と同じ制服(当時)で働く女性乗務員に憧れた。車掌の資格を取り、列車に乗務すると、今度は女性運転士が輝いて見えた。
 16年に在来線運転士の資格を取得。普通列車に加え、特急かもめ、みどりで県内も走った。地元の諫早を含む長崎線はカーブが多く、運転が難しいだけに、やりがいも大きかった。スピードを落とした時、運転席から見える景色にも愛着がある。
 古里に新幹線が通ると知り、自然と興味が湧いた。当時、新幹線運転士の資格を取得するには在来線運転士経験3年以上という条件があった。「順調に進めば開業に間に合う。挑戦しない手はない」。3年後、迷わず志望した。
 新幹線の運転は在来線とは「全く違った」。最も神経を使うのは定時性。運転中は常に頭を使う。速度、距離、時間-。「計算が苦手だから『電卓持っていかなきゃ』って思った。もちろんそんな運転士はいないけど」
 約4カ月の研修や試験を経て19年11月、晴れて九州新幹線鹿児島ルートで運転席に座るようになった。漠然と抱いた夢は、この頃には、はっきり像を結んでいた。「私は地元で新幹線を運転する」。職場や家族にあえて宣言することで自らを鼓舞した。今年4月、長崎支社に異動。新幹線の車掌や整備の資格も取った。
 5月、走行試験初日の運転を一部担当し、故郷へ“凱旋(がいせん)”。しかし、全体のスケジュールが約1時間遅れた。「通常営業ならあり得ない。お待たせして申し訳ない」。不安な気持ちで車両を諫早駅のホームに進入させると、手旗を振って待ち構える大勢の市民が見えた。その笑顔に心からほっとし、うれしさが込み上げた。
 女性の駅員や車掌、在来線運転士は増えてきたが、JR九州の現役の新幹線運転士は2人だけ。かつての自分が先輩たちに憧れたように「女性が運転士を目指すきっかけになれるとうれしい」。新たに芽生えた夢も乗せて、真新しい「かもめ」が、走り出す。


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