韓国「加湿器殺菌剤事件」を映画化!『空気殺人~TOXIC~』 重大事件をエンタメ化し広く知らしめる意義

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いつからか「実話を基にした韓国映画にハズレなし」と言われてきた。もはやレジェンド級の『殺人の追憶』(2003年)をはじめ、福祉施設での性的虐待を描いた『トガニ 幼き瞳の告発』(2011年)、光州事件に巻き込まれるタクシー運転手とドイツ人記者を描いた『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2017年)、朴正煕暗殺事件に至るまでの『KCIA 南山の部長たち』(2020年)、そして韓国民主化闘争をさまざまな一般市民の視点で描く『1987、ある闘いの真実』(2017年)などなど。

実際に起きた事件や社会的な出来事などをベースにフィクションを混ぜながら、一級のエンターテインメントを作り上げるのは韓国映画界のお家芸。そんな「ハズレなし」の韓国実録映画に新たな一本が加わった。

韓国「加湿器殺菌剤事件」

医師テフン(キム・サンギョン)は大学病院の救命救急室で働きながら、妻と幼い息子と幸せに暮らしていた。そんなある日、息子ミヌがプールで遊泳中に意識を失い、テフンが働く病院に運び込まれる。診断の結果、ミヌは肺が硬くなる急性間質性肺炎であることが判明し意識不明の状態に。さらにその直後、テフンの妻ギルジュも同じ病気で突然死してしまう。不審に思い独自調査を始めたテフンと義妹のヨンジュ(イ・ソンビン)は、2人が倒れた原因が家庭用の加湿器に使われている殺菌剤にあることを突き止める……。

というわけで、本作は韓国で起きた加湿器殺菌剤事件と呼ばれる出来事をベースに執筆された小説「菌」を映画化した作品。イギリスを拠点とするレキットベンキーザー社の韓国法人オキシー・レキット・ベンキーザーが発売していた加湿器用殺菌剤に有害物質が含まれていたことで、これまでおよそ2万人が死亡していると推定されている、とんでもない大事件だ。

そもそもが体調管理のために使う空気清浄機なので、まさか死に至るなんて誰もが思いもよらない。映画では早々に原因を突き止めるが、そこからは劇中ではオーツー社と名前を変えた企業側とテフン率いる遺族団体との裁判劇が展開する。

しかし、オーツー社は自社の製品に欠陥があったことをわかりながら徹底的に争う強気な姿勢というのが、まぁ怖い。裁判を引き伸ばして世論の興味を失わせることからはじまり、遺族団体のひとりに示談を迫り団体名簿をゲットしたり、専門家を丸め込んで裁判で嘘証言させたりと、荒っぽい手段の連発。その挙句に遺族側を「企業から金を取ろうと企む不届き者たち」とレッテル貼りして追い込むのだから、もう完全に悪魔軍団。予想のつかない裁判の行方はぜひ劇場で確かめてほしい。

実際の事件を“面白い映画”で広く知らしめる

遺族団体の中心人物で医師のテフン役は、『殺人の追憶』で荒っぽい刑事を演じたキム・サンギョン。テフンは終始苦虫を噛み潰したような顔をしているが、対照的にイケイケなのが元検事だったが事件をきっかけに弁護士としてテフンをサポートするヨンジュ。演じるイ・ソンビンはスパイ・コメディ『ミッション・ポッシブル』(2021年)でド派手なアクションを披露していたが、本作でも常にエネルギッシュで啖呵を切る演技がカッコいい。

しかし本作でもっともスパークしているのが、オーツー社側の人間で上記2人と真っ向から対立するソ・ウシク役のユン・ギョンホだ。『今、私たちの学校は…』(2022年)『マイネーム: 偽りと復讐』(2021年)『梨泰院クラス』(2020年)など、Netflixで韓国ドラマを観ている人なら一度は見たことがあるはずの名バイブレイヤー。本作では主演を完全に食う活躍で、登場から「コイツはヤバい」と思わせ、そこからはユン・ギョンホの一挙一動に目を離せなくなるはず。

監督は高校生スイマーを描いた『君に泳げ!』(2013年)以来、久々にメガホンをとるチョ・ヨンソン。本国でのインタビューでは製作時の苦労を語っていて、事件についての調査や考証に6年、脚本は97回も修正したという。また、実際に事件を起こしたオキシー・レキット・ベンキーザーは広告市場にも強い影響力を持っていることから、キャスティングにも難航したという。

とはいえ映画はご都合主義的な展開や設定も豊富で、単純にエンターテイメントとしての純度が高い。これについてチョ・ヨンソン監督は、「実際の事件を映画にするなら、事件を知らない人に伝えないと意味がない。それには映画としての楽しさが不可欠で、映画が楽しくないと伝わらない」と言い切っている。この胆力こそが「実話を基にした韓国映画にハズレなし」と言われる要因なのかもしれない。

文:市川夕太郎

『空気殺人~TOXIC~』は2022年9月23日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

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