様変わりの北米国際オートショーで見えた日本車の「厳しい未来」

フォードのEV「マスタング マッハE」を視察するバイデン米大統領(Photo By Reuters)

わずか3年で様変わり。世界3大モーターショーの一つとして知られる「北米国際オートショー」が米ミシガン州デトロイトで開幕した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で3年ぶりの開催となったが、注目企業の入れ替わりは激しい。とりわけ存在感を失ったのは、日本車メーカーだ。

「エンジン大国」のショーでEVが主役に

前回2019年のショーでは環境問題に後ろ向きにも見えた大型エンジン志向米国車メーカーが、今回は電気自動車(EV)の出展に力を入れている。とりわけ大型SUV(スポーツ多目的車)など、北米市場で「売れ筋」の人気車をEV化して展示している。米国車メーカーはEVシフトに「本気」だ。

ジョー・バイデン米大統領は9月14日、米ゼネラル・モーターズ(GM)の「シボレー」ブースを訪れ、メアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)に案内されて「シボレー シルバラード EV」などを見学。GMのSUVタイプの高級EV「キャデラックリリック」のハンドルを握り、報道陣に愛想を振りまいた。

バイデン大統領は米フォード・モーターや欧ステランティスNVが出展したEVを視察して回り、「EVの未来を前進させるために1350億ドル(約19兆3000億円)を費やす」とスピーチした。

欧ステランティスN.V.傘下の米ジープのクリスチャン・ムニエCEOは「次世代の地球を守るため、ジープのDNAを強化する素晴らしい機会として電動化を活用している」と、エンジンが当たり前だった大型オフロード車のEV化を加速する。ジープは2025 年までに4モデルのEVを導入する計画だ。


日本車メーカーには大きな「逆風」が…

フォードは来夏に発売する500馬力V8エンジンを搭載したスペシャリティーカー「マスタング」の第7世代モデルを発表、エンジン車の健在ぶりをアピールした。が、大型エンジン車の代表格である「マスタング」ですら、2019年にSUVタイプのEV「マッハE」を追加。2022年8月には4輪駆動仕様で航続距離を従来モデルより約20km長い約466kmに伸ばした2023年モデルを発表している。

フォードは同月に米国やカナダ、インドのエンジン車生産部門で従業員3000人を削減して、2026年までに年間30億ドル(約4100億円)のコストを削減。EVへの投資を拡大する方針だ。

同ショーに出展する自動車部品メーカーもEVシフトを進めている。韓国の現代モービスは2020年代半ばに、デトロイト周辺でバッテリーシステムを含む EV部品専用工場を増設すると表明した。同社は現在、米国でミシガン州のほか、アラバマ州、ジョージア州、オハイオ州に生産拠点を置いている。同社の受注額は2020年の6億6000万ドル(約943億円)だったが、2022年はEV部品の増加により上半期だけで17億ドル(2430億円)にまで増加しているという。

米欧メーカーがEVシフトに積極的な背景には環境問題もさることながら、世界市場で最も強い影響力を持つ日本車対策の側面もある。エンジン車やハイブリッド車で日本車のシェアを奪うのは難しいので、日本車メーカーが手薄なEVで先行して新しい市場を押さえる戦略だ。

「EVショー」の色合いが強い同ショーで、自社ブースを出展している日本車メーカーはトヨタ自動車<7203>とSUBARU<7270>のみ。デトロイトに限らずモーターショー自体の集客力が落ちていることもあるが、EVが展示の中心となることが明らかだったことも日本車メーカーが積極的な出展を見送った要因の一つだろう。そもそも出展できるEVが少ないのだ。

ただ、同ショーのみならず、独フランクフルトや中国・上海のモーターショーでもEVが主役になるのは間違いない。モーターショーは自動車業界の4年先を反映する未来予想図と言われる。その通りだとしたら、EVシフトに慎重な日本車メーカーには「厳しい未来」が待っていることになる。

文:M&A Online編集部

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