<秒読み 西九州新幹線開業> 『人口減少社会』 産業構造、変革の好機に

福岡-長崎で西九州新幹線と競合する高速バス「九州号」=長崎市大黒町、県営バスターミナル

 長崎市は7月、推計人口が40万人を割った。総務省が8月に公表した人口動態調査で、本県の人口減少率は全国で上から5番目。地域の縮小に歯止めがかからない。その中で、西九州新幹線はまず交流人口拡大の起爆剤として期待されているが、新型コロナウイルス流行でしぼんだ移動需要がどこまで回復するかは未知数。JR九州は目標旅客数を公表していない。
 一方、博多-長崎で競合する高速バス「九州号」は、速達性や定時性こそJR特急に劣るが、価格の安さで一定のシェアを持つ。新幹線開業後は価格優位差が広がり、リレー方式で乗り換え負担を敬遠する層が流れ込む可能性も。九州新幹線鹿児島ルートが全線開業した際、福岡-熊本の高速バス利用者は前年度比で12.7%増えた。
 とはいえ九州号もコロナ禍で減便が続く。ロシアのウクライナ侵攻を背景に燃料費上昇も重なり、8月は運賃引き上げに踏み切った。運行する九州急行バス(福岡市)は「コロナ禍前の便数に戻すのが当面の目標」とし、新幹線に対抗した増便の予定は今のところないという。出資する西日本鉄道(同)の林田浩一社長はむしろ「新幹線開業で長崎が注目されれば、旅客の総量が増えるのではないか」と相乗効果を見込む。
 先細りする旅客需要に比べ、物流は旺盛だ。トラック輸送の人手不足や環境負荷が課題となる中、国は中長期的に新幹線による大量高速貨物輸送を見据える。JR九州も昨年7月、鹿児島ルートの空きスペースに宅配便荷物を載せる事業に乗り出した。ただ古宮洋二社長は、西九州新幹線については「武雄温泉駅での載せ替えを考えると無理」との見方を示す。
 「人口減少など構造的な問題を一つの県で解決するには限界がある。みんなで寄ってたかって知恵を出し合うとき、新幹線という手段が大事になる」。長崎経済同友会の平松喜一朗顧問は、別の側面から高速交通網整備の意義を説く。
 同会は7月、長崎、佐賀、福岡3県の一体的な発展を目指す「北部九州経済圏」の提言書をまとめた。念頭にあるのは国の「スーパー・メガリージョン構想」だ。リニア中央新幹線で三大都市を約1時間で結び、巨大経済圏を形成する。これに接続するには、西九州新幹線の全線フル規格化が大前提となる。
 本県の基幹産業だった造船が下火になり、新たな雇用や成長をもたらす産業の創出が求められている。平松氏は強調する。「『100年に1度』をまちづくりだけじゃなく、産業構造を変革するチャンスにしなくてはならない」


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